【起業家必見】シード期の資金調達にJ-KISSがおすすめな理由をわかりやすく解説【スタートアップ法律相談所 vol.10】

◯小塚 なつみ AZX アソシエイト 弁護士(第一東京弁護士会所属)
プロフィール▶︎ https://www.azx.co.jp/members/law/dai…
2017年 一橋大学法学部 卒業
2019年 一橋大学法科大学院 卒業
司法試験合格 司法研修所 入所
2021年 AZX Professionals Group 入所
2024年 経済産業省(イノベーション環境局、イノベーション創出新事業推進課) 出向

J-KISSとは何か?新株予約権型コンバーティブル・エクイティの基本

近藤:
はい、皆さんこんにちは。スタートアップ法律相談所、Gazelle Capital株式会社の近藤です。

今回は、新たな先生をお招きしまして、J-KISSについて教えていただこうと思っております。小塚先生、改めて自己紹介をお願いいたします。

小塚:
私はAZX総合法律事務所の弁護士の小塚と申します。新卒からAZX総合法律事務所にジョインしておりまして、これまでずっとスタートアップの法務を対応させていただきました。

今回お話しするJ-KISSについても毎日のように対応させていただいていますので、それらの経験を踏まえてお話しできれば良いと思っております。よろしくお願いします。

近藤:
最近、シードやプレシードに継続して投資をさせていただく中で、J-KISSを頻度高く見るようになったなと改めて思うんですが、そもそもJ-KISSは何なんですか?

小塚:
J-KISSというのは、新株予約権型のコンバーティブル・エクイティでして、その投資手法の中でも株式会社Coral Capitalさんが発表している契約書の雛形のことを指すと考えております。感覚的には、J-KISSという投資手法そのものだったり、新株予約権自体を指すこともあると思います。

近藤:
より主流になってきたとはいえ、本質的に理解をされている起業家さんが多いかと言われたら、まだまだだと個人的に思ってはいるので、最後まで見ていただければと思っています。

先ほど、コンバーティブル・エクイティでしたっけ?が出てきたと思うんですが、そもそもそれは何なんですか?

小塚:
コンバーティブル・エクイティというのは、将来株にコンバート(転換)する権利を発行して資金調達するという投資手法になります。

例えば、シード期のベンチャーさんで直近で5,000万円必要ですと。株式を発行するとなると、何株を何円で発行するかを決めないといけなくて、それはつまり企業価値を決めなければいけないということなんですけれども、そんなことをやっている暇もない。

そういう時にコンバーティブル・エクイティという投資手法はすごく役立って、今は株式が何株になるか分からないけれども、将来的に一定の事由が発生した時に株式に変えることができる権利、それを投資家は取得して、その代わりにお金を出すと。そういう資金調達の手法となっております。

アメリカ発のKISSを日本の会社法に適合させた経緯

近藤:
どういった流れでJ-KISSは生まれてきたものになるんですか?

小塚:
今回お話しするJ-KISSの元となったKISSというものがアメリカで契約書の雛形として公開されておりました。

そのアメリカで生まれたKISSを日本の会社法に合わせて設計し直して発表されたものがJ-KISSでして、Coral Capitalさんの前身である500 Startups Japanさんが2016年にバージョン1.0を公開して、今は2.0が公開されているという状況になっております。

近藤:
日本の会社法に合わせてという話をいただいたと思うんですが、どういう仕組みになっているんですか?

小塚:
日本の会社法上の新株予約権というものを使って、コンバーティブル・エクイティを実現したということになります。

新株予約権はいわゆるストックオプションで、起業家さんとして馴染み深いのはおそらく従業員向けのストックオプションとかだと思うんですけど、それも同じで、将来上場した時に何株に転換するというので報酬として権利をもらっているんですね。

その将来株に転換する権利という仕組みが新株予約権なんですけど、それを使っているのはJ-KISSも同じだということですね。

バリュエーション評価の先延ばしとコスト削減、6つのメリット

近藤:
J-KISSを使う方が増えてきた中で、彼らがJ-KISSを選ぶメリットと言いますか、なぜ選ばれるんですかね?

小塚:
メリットの中で特に重要だなと思っているのが、1のバリュエーション評価を先延ばしにできるというところと、2のスピーディーかつコストを抑えた資金調達が可能であるという点が最も大事なメリットかなと思っております。

まず1点目なんですけれども、一般的にスタートアップ投資で思い浮かぶのは優先株式の発行とかじゃないですか。でもそうなってくると、優先株式を発行する時は結局バリュエーションを決めなければいけないんですけど、J-KISSだとそれを先延ばしにできるので、それが魅力的な部分かなと思っております。

2点目は、J-KISSはCoral Capitalさんが公開しているフォーマットをそのまま使うことも結構多いんですけれども、フォーマット通りに発行するのであれば、決めなければいけないのは資金調達額とディスカウントやキャップとかの数値の部分、一応それだけで優先株式の発行とかよりははるかに交渉コストが抑えられるという点がメリットかなと思います。

スピーディーかつコストを抑えてというところを重視するのであれば、J-KISSのフォーマットをいじらない方が良いかなというのが、個人的に思っているところではありますね。

近藤:
あとはメリットで3番以降もあったかと思うんですが、どういったものになるんですか?

小塚:
簡単にご説明させていただきますと、J-KISSというのは新株予約権であり株式ではないので株主にはならないので、その分総会の招集通知とかもいらないところがメリットです。

4の「負債とはならず返済義務を負わないこと」というのは、J-KISSが新株予約権という性質であることに起因するんですけれども、負債ではないので、例えば満期までに転換しなかったら全額返還しなければならないとか、そういったことはないというのがメリットです。

5の「柔軟なインセンティブ設計が可能」というのは、新株予約権は株式に転換する時の転換条件を決められるんですけれども、例えばよく言われるのは、事業会社さんと連携してJ-KISSを発行する時に、事業上のシナジーが実現した時に株式に転換するとか、そういったところを設計できるのが1つメリットかなと思います。

6の「エンジェル税制の対象」というのは、令和6年度の税制改正によって、2024年4月1日以降に取得したJ-KISSについてはエンジェル税制の対象となりました。なので、エンジェル投資家さんからもより資金調達を受けやすくなったのかなと思います。

転換価額の計算式とディスカウントの仕組み

近藤:
全体の概要は理解しまして、プレシードやシード期の創業当初の方々に対して、より恩恵を得られるような契約の形態なのかなと思うんですけど、具体的に仕組みとしてはどうなっているんですか?

小塚:
ここはすごく専門的でややこしい部分なので簡単にお話しするんですけど、まずJ-KISSというのは将来株になる権利じゃないですか。

ここで重要なのは、将来何の株式がもらえて、それがいくつもらえるのかがすごく重要かなと思うんですけれども、こちらがJ-KISSの公開された雛形ですね。

小塚:
こちらの第1回J-KISS型新株予約権発行要項というページの、5番の新株予約権の内容というところに記載がありまして、転換した株式が何の種類になるのかというところは、この雛形の5番、(1)の(a)に記載されています。

小塚:
例えば、J-KISSを発行して1年後とかに「シリーズAでA種優先株式を発行する」となった時に、「J-KISSは何に変わるんですか?」というところで、これは普通株式に変わるわけじゃなくて、A種優先株式とほぼ同一の内容の優先株式というものに変わります。

ほぼ同一と申し上げたのは、厳密に言うと残余財産分配のところが変わるんですけれども、それ以外は同一の優先株式で、名前を優先株式につけるんですけれども、その時もA1種とかそういう感じでつけることが多いですね。

次は何株に変わるのかというところは(b)に記載されておりまして、簡単に言うと、払い込んだ調達金額÷転換価額が転換後の株式の数になります。

小塚:
払込金額というのは調達金額で、5,000万円調達するなら5,000万円で変わらない固定の数字です。変わるのは転換価額で、これは契約書で計算式として記載されています。

将来的にシリーズAのA種優先株式だったら、A種優先株式の株価を基準にディスカウントで割引した数が「転換価額」というものになります。転換価額がどういう計算で算出されるのかというのは、(2)以降に記載されております。

小塚:
転換価額はA種優先株式の株価を基準にディスカウントというものとバリュエーションキャップというものの2種類の計算方式によって算出されて、そのどちらか低い方が転換価額と決まります。

近藤:
まずはディスカウントとは何なんですか?

小塚:
ディスカウントは割引価格のことです。

これはJ-KISSの雛形の(2)(a)(x)のところで記載されておりまして、「1株あたり発行価額に0.8を乗じた額」と記載されていて、これは要するに20%割引ということなんですね。

小塚:
20%だったら、次回のA種優先株式の価額が例えば10万円だったとすると、8万円でA種とほぼ同一の優先株式に転換できるというのがディスカウントという設計になっております。

バリュエーションキャップで投資家の持分比率を保護する

近藤:
一方でバリュエーションキャップとは何なんですか?

小塚:
バリュエーションキャップというのは、投資家としては投資先の会社がバリュエーションが上がるのはすごく嬉しいと思うんですけど、転換後の株式数は払込金額÷転換価額じゃないですか。

そうなってくると、転換価額は次回資金調達の株価に引っ張られて上がっていくので、上がっていけば上がっていくほど転換後の株式数が少なくなって、持分比率が下がってしまうんですね。

そこで追加されたのがキャップというシステムで、バリュエーションに上限を設定するというような考え方です。

例えば1,000万円でJ-KISSを投資しました。その後、株価10万円でA種優先株式を発行しました。完全希釈化後株式数が1万株のケースで、キャップを2億円に設定していない場合、1,000万円÷10万円で100株に転換されます。

小塚:
もしキャップを2億円に設定していたら、転換価額はキャップの2億円÷完全希釈化後株式数1万株で2万円になるんですよ。

最終的には払込金額の1,000万円÷転換価額2万円で500株に転換できるということになります。そういうわけで、キャップをつけた場合のほうが投資家に有利になるというところですね。

実務で注意すべきポイント

近藤:
J-KISSが主流になってきたとはいえ、そもそもの仕組みを知ることはやっぱり重要ですね。

小塚:
重要ですね。特にこのキャップとディスカウントの設計部分は理解して数値を決めないと、例えばディスカウントがありえないですけど0.3にしてすごく割引になってしまうとか、そういったことになってしまうので、その辺は気をつけていただく必要があるかなと思います。

近藤:
実際に小塚先生が見ておられる中で、ちょっとヒヤッとした出来事だとか、これは絶対ちゃんと確かめた方が良いことなどがあれば、最後に教えてください。

小塚:
まず1つは、J-KISSのフォーマットを使うと申し上げたんですけれども、そのフォーマットの中に投資家に有利な権利がいくつか入ってしまっている点、例えば情報請求権だったりとか、優先引受権だったりとか、最恵待遇条項みたいなものがフォーマットの中に入っています。

これらの内容については、他のスタートアップ法律相談所でも説明している一般的な優先株式の投資契約書とかに具体的に規定されていて、他の弁護士の方が説明しているので、そちらをご覧いただければなと思います。

近藤:
下の概要欄から、そこの情報について見ていただければと思っております。

小塚:
次の注意点としては、J-KISSにはいくつかバージョンがあって、今は2.0なんですけど、バージョンによってバリュエーションキャップの計算方法がちょっと変わるんですよ。バージョンを見ていただいて、今がどの計算方法なのかというのは確認いただく必要があるかなと思います。

次は、J-KISSが雛形通りに使われていない場合については要注意で、フォーマットをそのまま使うというのがメリットの1つなんですけれども、投資家さん側がそれを変えてくるケースがあるんですね。

めちゃめちゃ企業側に不利な条項が入っているのに、「J-KISSだからいいや」と言って契約締結してしまうと痛い目を見ることがあります。その場合は専門家に見ていただいたほうが良いかなと思います。

J-KISSのバージョン2.0の場合、冒頭に公開されている雛形通りか否かというところが一文入っておりまして、そこを見れば雛形から変わっているのかどうかが明白なので、そこは確認いただく方が良いのかなと思います。

小塚:
あと忘れがちなポイントとしては、投資家側の目線かもしれないんですけれども、株式を転換する時に行使価額を振り込まないといけないんですけど、J-KISSの場合、行使価額が1円で設定されることが多くて「1円なんて振り込むの?」という感じで忘れるケースが結構あるので、この辺りは覚えておいていただかないと株式にならないので注意が必要かなと思います。

最後の注意点としては、J-KISSは会社法上の新株予約権なので登記が必要なんですね。J-KISSを発行した時もそうですし、転換した時もそうなんですけれども、効力発生日から2週間以内に登記をしなければならないので、その点はご注意いただければなと思います。

近藤:
J-KISSのイロハや仕組みから注意点までお話しいただきましたけれども、何かあれば相談はできるんですよね?

小塚:
我らがAZX総合法律事務所にご相談いただければなと思います。

近藤:
最後に見ていただいている起業家の皆さんや他のスタートアップ界隈の皆さんに一言いただけると嬉しいです。

小塚:
J-KISSは発行時はもちろんなんですけれども、転換する際にも株式数の計算だったり、いろいろ細かいところが必要なので、そのあたりは我々や他の専門家に相談していただいて、資金調達ができるように気をつけていただく必要があるかなと思います。

近藤:
ありがとうございました。それは次の動画で、さようなら。