「設立費用を抑えられるなら、合同会社で十分ではないか」

「ただ、VCから出資を受けるなら株式会社でなければ難しいとも聞く」

「あとから株式会社へ変更できるというが、実際の負担はどの程度なのだろうか」

法人形態の選択で悩む起業家は少なくありません。

その背景には、「設立時のコストは抑えたい」という思いと、「将来的な資金調達や事業拡大の可能性は狭めたくない」という、相反する課題があります。

実際、設立費用だけを基準に法人形態を決めてしまうと、後の資金調達や資本政策の場面で選択肢が限られるケースがあります。

一方で、融資を中心に事業を成長させる方針であれば、合同会社のコストメリットを活かしやすい場面もあるでしょう。

この記事では、合同会社と株式会社の違いを整理したうえで、合同会社が資金調達面で不利といわれる理由、株式会社への組織変更にかかる実務負担やコスト、そして自社に適した法人形態を選ぶための判断軸までわかりやすく解説します。

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目次

スタートアップの実質的な手段は「合同会社」と「株式会社」の2つ

スタートアップの実質的な手段は「合同会社」と「株式会社」の2つ

日本の会社法で設立できる法人形態は、株式会社・合同会社・合資会社・合名会社の4種類です。ただし合資会社と合名会社は無限責任を負う出資者を含む構造のためリスクが大きく、現代のスタートアップでまず採用されることはありません。

新設法人に占める合同会社の割合は近年上昇傾向にあり、国税庁の会社標本調査などからも、株式会社一辺倒だった構図が変わりつつあることが読み取れます。とはいえ、シードからプレシリーズAでVCからの出資を受けるには法人格が必須となるため、個人事業主のままという選択肢もスタートアップでは事実上ありません。結果として、実質的な比較対象は「合同会社」か「株式会社」のいずれかに絞られます

合同会社は2006年に新設された比較的新しい法人形態

合同会社は、2006年5月施行の会社法改正により導入された法人形態です。米国のLLC(Limited Liability Company)をモデルに設計されており、出資者全員が「社員」と呼ばれる経営者を兼ねる「持分会社」の一種に位置づけられます。株式会社と異なり、出資者と経営者が制度的に一致する点が特徴です。

知名度の面では、AmazonジャパンやApple Japan、Google Japanといった外資系大手の日本法人が合同会社の形態を採っています。「合同会社=信用に欠ける形態」という見方は実態に合いません。

ただしこれらは本国の親会社が別途存在しています。現地法人としてのオペレーションを効率化する目的による特殊な事情です。独立系の日本のスタートアップが法人形態を選ぶ際の参考にそのまま当てはまるわけではない点には注意が必要です。

合同会社と株式会社の違い|スタートアップ視点の6項目比較

合同会社と株式会社の違い|スタートアップ視点の6項目比較

合同会社と株式会社は、設立コストや資金調達の自由度、意思決定の仕組みなど実務面で大きな違いがあります。創業後の運営負担や成長戦略が変わるため、起業前に正しく理解しておくことが重要です。

スタートアップ視点で押さえるべき比較項目は、以下の6つです。

  • 設立費用|合同会社のほうが安い
  • 出資者と経営者の関係|株式会社は”所有”と”経営”を分離可能
  • 資金調達手段|株式会社が圧倒的に幅広い
  • 意思決定スピード|合同会社のほうが速い
  • 維持コストと事務負担|合同会社のほうが少ない
  • 社会的信用と認知度|株式会社が優位

自身の事業計画や将来の資金調達方針と照らし合わせながら、それぞれの違いを確認してみてください。

1. 設立費用|合同会社のほうが安い

設立時の法定費用は、合同会社のほうが明確に低コストです。登録免許税は資本金の0.7%(最低6万円)と定められています※1。

主な内訳を比較すると以下のとおりです。

費用項目合同会社株式会社
登録免許税6万円〜15万円〜
定款の認証手数料不要3〜5万円
定款印紙代(紙定款)4万円4万円
合計目安約6〜10万円約20〜25万円

電子定款を利用すれば両者とも印紙代が不要になります。実務上は電子定款を選ぶケースが多く、合同会社なら最低6万円程度で設立できる計算です。

2. 出資者と経営者の関係|株式会社は”所有”と”経営”を分離可能

株式会社では、出資者である「株主」と、実際に経営を担う「取締役」を分けて設計できます。

株主が取締役を選任し、経営を任せる仕組みになっているため、事業規模の拡大や外部出資を受ける場面にも対応しやすい点が特徴です。

一方、合同会社では、出資者である「社員」がそのまま経営にも関与する形が基本となります。

つまり、出資と経営が一体化した構造であり、株式会社のように両者を明確に切り分けることは想定されていません。

創業初期の小規模な事業では、この違いを意識する機会は多くないかもしれません。

しかし、将来的に外部投資家を受け入れる場合や、経営体制を拡大・分業化していく段階では、この構造の違いが資金調達や組織設計に影響することがあります。

差を実感するのは、外部の投資家を迎え入れる瞬間です。合同会社では出資者を「社員」として迎えることになります。持分譲渡には他社員全員の承諾が必要で、投資家の権利設計やEXITの仕組みを柔軟に組むことは困難です。

株式会社であれば、投資家は株主として出資し、経営判断は取締役に任せる役割分担が成立します。この自由度の差により、資金調達において合同会社が不利になります

3. 資金調達手段|株式会社が圧倒的に幅広い

合同会社は株式を発行できず、VCやエンジェル投資家からのエクイティ調達は事実上不可能です。投資家が求める「株式取得と売却益での回収」という仕組みが成り立たないのです。スタートアップの資金調達は自ずとエクイティファイナンスが中心になり、株式を発行できない合同会社はこの主流から外れることになります。

エクイティ以外の資金調達手段は、合同会社でも問題なく活用できます。

  • 日本公庫の「新規開業・スタートアップ支援資金」は無担保・無保証人で申込可能
  • 自治体の補助金・助成金はJ-Grantsから法人形態を問わず電子申請できる
  • 購入型クラウドファンディングも返済義務なしで活用できる

融資と補助金の組み合わせにより、外部株主を入れずに成長資金を確保する道は十分にあります。

将来のVC調達を視野に入れるなら株式会社が必須です。融資中心で事業を回す計画であれば、合同会社でも実務上の不利益はほとんどないといえます。

VCからのエクイティ調達の実態については以下の動画でも解説しています。

シードラウンドの資金調達についてはこちらの記事も合わせてご覧ください。

4. 意思決定スピード|合同会社のほうが速い

株式会社は重要事項の決定に株主総会の決議が必要です。取締役会を設置した会社では、取締役3名以上と監査役を揃えて会議体を運営します。外部株主がいれば、招集通知の送付や議事録作成などの手続きは省略できない構造です。

合同会社には会議体の制約がないのです。業務執行や経営方針の変更は社員間の合意で完結します。J-Net21の起業マニュアルでも、合同会社は意思決定が「総社員の同意」で行われ、株主総会を経る株式会社より迅速な判断が可能と説明されています※2。定款の定め方次第で、権限範囲や意思決定ルールを自由に設計できる点も特徴です。

少人数チームでの創業時、この機動性の差は大きく効いてきます。事業の方向転換などを即決できる点は、創業期における大きなアドバンテージです。

社員数が増えると合意形成に時間がかかり、優位性は薄れます。組織拡大フェーズでは、意思決定の速さよりもガバナンスや資金調達の柔軟性が重視される点を意識してください。

5. 維持コストと事務負担|合同会社のほうが少ない

毎年かかる維持コストにも目を向けておきましょう。

株式会社は役員任期の定めがあり、最長10年ごとに重任登記が必要です。登録免許税として1万〜3万円が発生します。毎期の決算公告も義務であり、官報掲載で約6万8千円のコストがかかります。

合同会社にはこれらの義務がないのです。合同会社は「役職(役員)の任期に制限がない」「決算公告が不要」とメリットとして挙げられています。年間で7〜8万円程度の差が継続的に積み上がる計算です。

事務負担の差も明確です。株式会社は毎期の定時株主総会の開催と議事録作成が必要となります。取締役会があれば、その運営と記録も必要になります。合同会社は会議体の運営義務がなく、社員間の合意で意思決定が完結します。

少人数のスタートアップにとって、この事務工数の差は大きな負担軽減になります。リソースを開発や営業に集中させたい創業期こそ、維持コストの軽さが重要です。

6. 社会的信用と認知度|株式会社が優位

BtoB取引や採用の場面では、株式会社の認知度が依然として高い状態です。「代表取締役」なら説明不要ですが、「代表社員」という肩書きは馴染みが薄く、商談時に法人形態の説明を要するケースがあります。

大手企業との取引審査でも法人種別が話題に上がりやすくなります。採用候補者が「合同会社とは何か」と疑問を持つこともあり、こうした小さな摩擦が積み重なると説明コストは無視できないでしょう。

押さえておきたいのは、「合同会社=信用がない」わけではないという点です。金融機関の与信審査では、法人種別より返済能力や事業計画の実態が重視されます。取引実績の蓄積や顧客からの評価により、合同会社でも信用は着実に積み上げられます。

認知度の差は事業の中身で埋められる領域です。自社の事業特性や取引先の属性を踏まえ、認知度の影響を冷静に判断しましょう。

スタートアップの資金調達で合同会社が不利になる3つの理由

スタートアップの資金調達で合同会社が不利になる3つの理由

スタートアップがVCから資金調達を目指すなら、合同会社は選びにくい形態です。制度上の制約により、エクイティファイナンスの手段が大きく限られてしまうのです。

合同会社が資金調達で不利になる理由は、以下の3つです。

  • 株式を発行できない|VCからの出資を受けられない
  • 種類株式(優先株式)が使えない|資本政策を設計できない
  • ストックオプションを発行できない|採用競争で不利

将来の資金調達を視野に入れている方は、それぞれの制約が事業成長にどう影響するか確認してみてください。

1. 株式を発行できない|VCからの出資を受けられない

VC(ベンチャーキャピタル)の投資では、「優先株式」の活用が一般的です。

優先株式とは、配当や会社売却時の分配などで、普通株式より優先的な条件を設定できる株式を指します。VCはこの仕組みを用いて投資リスクを調整しながら、スタートアップへ出資を行っています。

一方、合同会社には株式会社のような株式制度がありません。

そのため、外部から出資を受ける場合は、投資家を「社員」として迎え入れる必要があります。

また、利益配分や議決権についても、株式会社のように株式数に応じて整理される仕組みではなく、社員間の合意によって定める形となります。

さらに、株式会社で利用される「種類株式」のように、議決権や配当条件を柔軟に設計する制度もありません。

VCは、IPOやM&Aの際に保有株式を売却し、キャピタルゲインを得ることを前提に投資を行うケースが一般的です。

そのため、未上場株式を活用した資本政策と相性のよい株式会社は、スタートアップにおける標準的な法人形態となっています。

一方で、合同会社は「持分会社」という性質上、VCファンドの一般的な投資スキームやIPOを前提とした成長戦略との相性があまりよくありません。

こうした背景から、国内の多くのVCでは、実務上、投資対象を株式会社に限定しているケースが多く見られます。

制度と業界慣行の両面から、合同会社のままVCからエクイティ調達するのは実質的に不可能です。合同会社を選んだ時点で、大型のエクイティ調達という成長手段は選べなくなります。

VCが株式会社への投資を基本とする理由については以下の動画でも解説しています。

この動画の内容はこちらの記事でもお読みいただけます。

シリーズAの資金調達についてはこちらの記事も合わせてご覧ください。

2. 種類株式(優先株式)が使えない|資本政策を設計できない

VCの投資判断では、種類株式による権利設計が重視されます

代表的な条項は3つあります。「残余財産の分配優先権」(会社清算時に投資家が優先的に資金を回収できる権利)、「転換権」(優先株を普通株に変換する権利)、「希薄化の防止条項」(追加増資による持分割合の低下を防ぐ条項)です。

これらは投資家の基本的な保護手段であり、経済産業省の資料でも標準条項として整理されています。

合同会社には株式の概念がないのです。出資持分を細分化して異なる権利を付与する仕組みがなく、精密な条件設計は制度上不可能です。

保護条項を組み込めない出資先に、リスクマネーを投じる合理的な理由はないといえます。資本政策を描けないことは、調達そのものが成立しない結果に直結します。大型調達を見据える場合、この制約は成長戦略のボトルネックになるでしょう。

3. ストックオプションを発行できない|採用競争で不利

ストックオプションの法律上の枠組みである新株予約権は、合同会社でも発行自体は可能です。ただし、税制優遇のある税制適格ストックオプションなど多くの優遇制度は株式会社を前提としており、スタートアップが採用競争で一般的なストックオプションスキームをフルに活用するには株式会社形態の方が有利になるケースが多いのが実情です。

合同会社にはこの制度がないのです。CxOや高度エンジニアは複数オファーを比較します。給与水準が同程度なら、ストックオプション付きの株式会社を選ぶのが自然です。インセンティブの幅が狭い時点で、採用競争において不利になります。

2024年度の税制改正により、社外の高度人材にもストックオプションを付与しやすくなっています。技術顧問などを迎え入れる場面でも、株式会社の優位性は一段と広がっています。

採用力は事業の競争力そのものです。給与以外で勝負するための武器を持てるかどうかは、法人形態選びの重要な判断材料になります。

スタートアップの採用戦略については以下の動画でも解説しています。

「先に合同会社・後で株式会社」戦略はアリ?想定される実コスト

「先に合同会社・後で株式会社」戦略はアリ?想定される実コスト

「合同会社で設立し、軌道に乗ったら株式会社へ変更する」という戦略は、設立費用を抑えられます。ただし隠れたコストとリスクも存在します。設立時の約14万円の差額で判断すると、後から想定外の負担を抱える可能性があります。

組織変更の実態について、以下の3点から整理します。

  • 組織変更には約10万円〜の費用と約2か月の期間が必要
  • 組織変更における具体的な手続きの流れ
  • タイミングを逃すと調達機会を失う隠れたリスクも

設立時の削減額と将来発生するコストを比較し、自分の事業計画に合った選択かどうか確認してみてください。

組織変更には約10万円〜の費用と約2か月の期間が必要

自力で手続きしても、法定費用だけで最低約10万円かかります。内訳は解散登記3万円、設立登記3万円、官報公告費約3.5〜4万円です。司法書士に依頼すると総額20〜30万円に達することもあります。

合同会社を選んで削減できた設立費用の差額は約14万円です。組織変更の実費だけで節約分はほぼ相殺され、専門家に依頼すれば完全に上回るでしょう。

所要期間にも注意が必要です。債権者を保護する手続きには最低1か月の公告期間が定められており、短縮できないのです。全体で約2〜3か月を要します。VC交渉中にこの空白期間が生じると、条件の再交渉など金額では測りにくいコストも発生します。

後から変更する戦略が合理的か、設立前に慎重に判断してください。

組織変更における具体的な手続きの流れ

組織変更の手続きは、大きく4つの段階で進みます。

段階内容所要期間
①組織変更計画の作成+総社員の同意株式会社としての設計を計画書にまとめ、全員の同意を得る1〜2週間
②債権者を保護する手続き官報への公告掲載と、既知の債権者への個別催告を実施する最低1か月(短縮不可)
③効力発生日計画で定めた日に株式会社へ切り替わる
④登記申請解散登記と設立登記を同時に提出する効力発生日から2週間以内

全体で1.5〜2か月が標準的な所要期間です。

なかでも②の債権者を保護する手続きには、1か月の法定要件があり短縮できないのです。官報公告の書類に不備があれば掲載をやり直すことになり、追加コストと数週間の遅延が発生します。

自力で進めた結果、書類不備で長引くケースは珍しくないのです。VC交渉が具体化する前に、専門家への依頼を含めた段取りを組んでおきましょう

タイミングを逃すと調達機会を失う隠れたリスクも

見落とされがちなのが、組織変更の期間中に資金調達のタイミングを逃すリスクです。

VCの投資判断には数週間〜数ヶ月かかります。関心を示されたタイミングで「組織変更に2か月必要」と伝えれば、検討が止まることも珍しくないといえます。持分から株式への換算が未確定の段階では、バリュエーション交渉が進めにくいからです。

競合が先に調達を完了すれば、市場ポジションの確立も先を越されます。数ヶ月の遅れが事業の成否を分けることもあるでしょう。

合同会社で節約できる設立費用は約15万円です。調達機会を逃して失うのは、数千万円の資金と市場シェアです。事業に与えるインパクトの差は明白です。

「後から変更する」判断は機会損失リスクを伴います。法人形態の選択は、設立コストだけでなく調達戦略とセットで検討してください。

ベンチャーキャピタルの資金調達についてはこちらの記事も合わせてご覧ください。

自社が適するのは?合同会社・株式会社を選ぶ4つの判断軸

自社が適するのは?合同会社・株式会社を選ぶ4つの判断軸

どちらの形態を選ぶべきかは、事業の成長戦略と資金調達計画で決まります。正解は1つではなく、事業をどう育てたいかという意思で答えが変わります。

コスト面だけで合同会社を選ぶと、後から株式会社への組織変更が必要になり、かえって費用と手間がかかるケースも少なくありません。

自社に適した法人形態を判断するための軸は、以下の4つです。

  • 3年以内の外部からの資本調達計画の有無
  • 想定する事業規模とEXIT戦略
  • 採用・人事戦略におけるストックオプションの必要性
  • BtoB取引先・金融機関との関係性

それぞれの軸について、自身の事業計画と照らし合わせながら確認してみてください。

1. 3年以内に外部資本を調達する計画の有無

3年以内にエクイティ調達を計画しているなら、法人形態は株式会社一択です。

VCが株式会社を選ぶのは、議決権や配当権の設計ができ、出口戦略に直結する構造を持っているからです。合同会社は株式の概念がなく、投資家が求める持分設計やEXITの仕組みを用意できないのです。

早期の調達を見据えるなら、設立時点から株式会社を選ぶのが合理的です。組織変更のリスクを考慮すると、後から切り替えるメリットはほぼないといえます。

調達未定の場合は、事業計画の解像度を上げることを優先してください。MVP完成の時期や初期売上の見込みを具体化した段階で判断の目安とします。融資と補助金で回せる計画なら、合同会社のコストメリットを活かせる場面もあります。

2. 想定する事業規模とEXIT戦略

5年〜10年後に目指す規模によって、最適な法人形態は変わります。

IPOを視野に入れるなら手段は株式会社のみです。合同会社は上場できず、組織変更することになります。上場によるEXITを狙う計画であれば、最初から株式会社で設立するのが合理的です。

M&Aを出口に据える場合も、買い手企業は株式会社を優先する傾向にあります。株式譲渡なら経営権の移転がスムーズで、契約等の引継ぎも簡潔に進むからです。合同会社は全員の同意確認などが必要となり、買い手側の手続き負担が増えます。

安定収益を重視するビジネスなら、大規模なEXITを想定する必要はないのです。設立・維持コストの低さなど、合同会社の強みが活きてきます。

大きく成長させたいのか、堅実に続けたいのかを明確にする必要があるでしょう。

3. 採用・人事戦略におけるストックオプションの必要性

高度人材の採用では、現金報酬だけでなくストックオプション(SO)を提示できるかが競争力を左右します

SOは、株式会社を前提とした制度です。そのため、株式の概念を持たない合同会社では、一般的なストックオプション制度を活用できません。

特に、スタートアップで活用されることの多い「税制適格ストックオプション」は、一定条件を満たすことで税負担を抑えられる仕組みですが、これは株式会社であることが前提となります。

そのため、将来的にストックオプションを活用して、役員や従業員へのインセンティブ設計を行いたい場合は、株式会社を選択する必要があります。

すべての事業にSOが必要なわけではないのです。スモールビジネス型の事業モデルであれば、現金報酬のみで人材を確保できるケースも多いでしょう。この場合、合同会社であっても採用上の制約は限定的です。

採用計画の初期段階で、報酬体系にSOを含めるかを明確にしておきましょう。この判断が法人形態を選ぶ重要な分岐点になります。

4. BtoB取引先・金融機関との関係性

「合同会社だと信用されないのでは」という不安は、事業モデルによって実害の大きさが異なります。

大手企業とのBtoB取引では、契約先を「株式会社のみ」とする規定が残り、合同会社は審査で対象外になるケースがあります。与信確認で厳格な精査が進むため、説明コストが高くなりがちです。大手との取引が売上の柱であれば、株式会社を選ぶほうが摩擦は少ないでしょう。

融資については別です。日本公庫の創業融資は法人形態を限定しておらず、合同会社でも申し込めます。審査で重視されるのは事業計画と返済能力であり、形態そのものは否定材料にはならないのです。

BtoC領域では消費者が法人形態を意識する場面はほぼないといえます。主要取引先や資金調達方針を整理すれば、信用面のリスクを過大評価せずに済みます。

融資における個人保証の取り扱いについては以下の動画でも解説しています。

資金調達は、早い段階でプロに相談するほど選択肢が広がります。自社の状況を客観的に整理でき、タイミングを逃さず最適な手法を選びやすくなります。

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スタートアップが法人形態を選ぶ際によくある質問

スタートアップが法人形態を選ぶ際によくある質問

ここでは、法人形態の選択で創業者が抱きやすい実務的な疑問を解消します。

形態選びの失敗パターンから、投資家からの出資可否、IPOの制約、補助金の活用まで幅広く取り上げます。自社の調達計画に合った選択か、冷静に判断しましょう。

Q. スタートアップの法人形態選びでよくある失敗は?

起業家が陥りやすい最大の失敗は、「設立費用の安さ」だけで合同会社を選ぶ判断です。

VC調達の段階で株式会社への変更を求められ、急きょ組織変更に追われるケースは珍しくないのです。約10万円以上の追加費用や契約書の再整理が発生し、数週間の手続きにより調達タイミングを逃すリスクも生じます。

成長期にはBtoB取引の審査や採用競争でも不利になる場面が出てきます。将来のスケールを見据えた事前判断が重要です。

Q. 「合同会社はスタートアップに向かない」と言われるのはなぜ?

合同会社が「スタートアップに向かない」と言われる最大の理由は、VCからのエクイティ調達に必要な制度設計と相性がよくないためです。

合同会社には株式の仕組みがなく、株式会社のように株式やストックオプションを発行できません。

そのため、IPOを前提とした資本政策や、VCによる一般的な投資スキームに対応しづらいという課題があります。

また、合同会社では、出資者と経営者が基本的に一体となる構造を取ります。

株式会社のように「出資だけを行う株主」と「経営を担う取締役」を明確に分けにくいため、外部投資家にとっては関与範囲を調整しづらい側面もあります。

ただし、この評価は、あくまで「VCからの資金調達を前提とする場合」の話です。

例えば、融資を中心に事業を成長させるスモールビジネス型であれば、合同会社の低コスト運営や意思決定の速さが大きな強みになるケースもあります。

つまり、正確には「VC調達を前提としたスタートアップには向きにくい」という表現が適切でしょう。

Q. 合同会社でもエンジェル投資家から出資を受けられる?

制度上、投資家を「社員」として迎え入れることで出資を受けることは可能です。

実務上、投資家が合同会社への出資を避ける主な背景は3つあります

  • EXIT手段が限られる:持分の譲渡には全社員の同意が必要で自由に売却できない
  • IPOという出口がない:上場できるのは株式会社のみが対象である
  • 契約設計が複雑になる:個別の契約交渉や定款調整を要する

出資を受ける場合でも「将来の株式会社化」を条件とされるケースが大半です。投資時に組織変更を求められるなら、最初から株式会社を選ぶのが合理的です。

Q. 合同会社のままIPOはできる?

合同会社のままIPOはできないのです。証券取引所への上場は株式会社のみが対象であり、合同会社は申請資格を持たない構造です。

IPOを目指す場合、事前に株式会社への組織変更が必須です。手続きには登記完了まで約2か月を要します。

「上場が見えてきたら変更する」という考えもありますが、変更が遅れると資本政策の設計や監査法人との契約が後ろ倒しになります。

IPOを視野に含めるなら、設立時点から株式会社を選ぶのが合理的です。IPOを想定しない事業であれば、合同会社のメリットを活かす余地があります

Q. 合同会社でも補助金や助成金は使える?

合同会社でもほぼすべての公的補助金・助成金に申請可能です。主要な制度は法人格で申請資格を制限していません。一方で、医療法人や学校法人など一部の法人種別は対象外とされていたり、自治体の創業補助金のように法人形態ごとに金額や条件が異なっていたりする場合もあります。

「合同会社だから不利になる」という設計にはなっていないのが実情です。

採択可否を左右するのは法人形態ではなく、事業計画の具体性や実現可能性です。専門家の力を借りて計画を練り上げるのは合理的な選択といえます。

エクイティ調達が難しい合同会社にとって、補助金は貴重な資金調達チャネルです。早い段階から活用できる制度を把握しておきましょう。

まとめ

まとめ

法人形態の選択は、スタートアップの資金調達戦略と直結する意思決定です。エクイティ調達を見据えるなら株式会社、融資中心で小さく始めるなら合同会社が合理的でしょう。迷いが残る方は、事業計画の解像度が上がった段階で専門家へ相談してください。

資金調達の際、調達手法の選定や条件の検討など、様々な場面で専門的な知識が求められます。十分な知識がないまま進めると、自社に最適な調達条件や進め方を見極めるのが難しいこともあるでしょう。

Gazelle Capitalが運営する「資金調達の窓口」は、年間1,000社以上の面談実績を持つ、あらゆる調達手法をサポートするサービスです。調達手法の選定などご相談いただけますので、ぜひご活用ください。

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参考文献

※1 法務省「合同会社の設立手続について
※2 中小企業基盤整備機構「株式会社と合同会社のどちらがよいか


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