「自社で活用できる補助金・助成金が分からない」

「申請にかかる手間や時間に見合う制度なのか判断できない」

「後払い型の制度で、資金繰りが苦しくならないか不安を感じている」

創業期には、こうした悩みを抱える経営者も少なくありません。

資金調達の際、調達手法の選定や条件の検討など、様々な場面で専門的な知識が求められます。十分な知識がないまま進めると、自社に最適な調達条件や進め方を見極めるのが難しいこともあるでしょう。

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補助金・助成金には、返済不要という大きなメリットがあります。一方で、制度数が多く、申請要件や対象経費、入金タイミングもそれぞれ異なります。

そのため、制度理解が不十分なまま進めると、立替資金が不足したり、想定していた費用が補助対象外になったりするなど、資金計画へ影響が出るケースもあります。

この記事では、スタートアップが活用しやすい主要な補助金・助成金制度を整理したうえで、自社に合う制度の選び方や申請時の実務ポイント、よくある失敗例と対策、さらに融資・出資と組み合わせた資金調達の考え方まで解説します。

目次

スタートアップにおける補助金・助成金とは?他の資金調達方法との違い

スタートアップにおける補助金・助成金とは?他の資金調達方法との違い

スタートアップの資金調達において、補助金・助成金は返済不要という大きな特徴を持つ支援制度です。ただし、融資や出資とは審査基準や入金タイミングが異なるため、自社のステージに合った手段を判断しておくと安心です。

この章では、以下の3つの点を解説します。

  • 補助金・助成金・融資・出資の主な違い
  • スタートアップが補助金・助成金を活用するメリット
  • 見落としやすい補助金・助成金の制約

それぞれの特徴を理解して、自社に最適な資金調達方法を検討してください。

補助金・助成金・融資・出資の主な違い

4つの資金調達手段は、返済の要否・審査の仕組み・入金タイミング・資金規模が大きく異なります

項目補助金助成金融資出資
返済不要不要必要(元本+利息)不要(持分希薄化あり)
審査採択審査あり・競争率高要件充足で原則受給信用・返済能力を審査事業の成長性を評価
入金事業完了後の後払い申請後〜数カ月契約後に実行契約後に実行
規模数十万〜数千万円数十万〜数百万円数百万円〜数千万〜億円規模

助成金は主に厚生労働省が管轄し雇用の安定や労働環境の改善を目的とする制度です。補助金は審査があり採択件数に限りがあるため、必ず受給できるとは限りません。助成金は要件を満たせば原則受給できるという違いがあります。融資は確実性が高い反面、返済負担が続き、出資は大きな資金を得られる代わりに株式の希薄化や経営への関与が生じます。

返済不要の補助金・助成金は、創業期のキャッシュフローへの負荷が小さく、まず検討すべき手段といえます。

スタートアップが補助金・助成金を活用するメリット

スタートアップが補助金・助成金を活用するメリット

補助金・助成金の活用には、資金面にとどまらない3つのメリットがあります

  • 返済不要で財務リスクを抑えられる:元本返済や金利負担がなく、創業初期に負債を増やさずに事業投資へ資金を回せる
  • 採択実績が対外的な信用力になる:公的機関の審査通過は事業の妥当性を第三者が認めた証拠となり、融資審査やVCピッチでも説得力が増す
  • 申請の過程が事業計画のブラッシュアップにつながる:市場分析・競合優位性・収支計画を体系的に言語化する過程で、強みや課題が明確になる

「お金がもらえる」という表面的な魅力だけでなく、事業基盤そのものを強化する効果がある点を理解しておきましょう。

補助金の特徴や活用時の注意点については以下の動画でも解説しています。

スタートアップの資金調達方法について、詳しくはこちらの記事も合わせてご覧ください。

見落としやすい補助金・助成金の制約

魅力の裏側に、見落としやすい3つの制約があります

1. 後払い・精算払いが原則

補助金は事業完了後の精算払いが基本で、採択から入金まで半年〜1年かかるケースも珍しくありません。

補助金・助成金の支払いには2つのパターンがあります。助成期間中に必要と認められた場合に経費を支払う「概算払」と、助成期間の終了後(確定検査後)に経費を支払う「精算払」です。その間の事業費は全額自己負担となり、創業期のキャッシュフローを圧迫します

2. 採択率は想像以上に低い

東京都の創業助成事業の採択率は、過去の公表データで概ね10〜20%程度です。申請書類の作成には数十時間を要することもあり、不採択時の準備コストは無視できません

3. 対象経費の限定と報告義務

制度ごとに補助対象の経費範囲は厳しく限定され、「使いたい費目に使えない」事態は十分起こり得ます。採択後も実績報告や経費証憑の管理が求められ、事務負担は軽くありません

補助金・助成金は「もらえるお金」ではなく「条件付きの支援制度」です。メリットだけを見て進めると、準備に費やした時間と労力だけが残る結果になりかねません。だからこそ、自社に合った制度を判断する選び方が重要になります。

スタートアップにおける補助金活用の注意点については以下の動画でも紹介しています。

スタートアップが使える主要な補助金・助成金一覧

スタートアップが使える主要な補助金・助成金一覧

スタートアップが活用できる主要な補助金・助成金は、管轄省庁や目的によって大きく4つに分類されます。自社の事業フェーズや申請目的に合った制度を選ぶことが、採択率の向上につながります。

主要な補助金・助成金のカテゴリは、以下のとおりです。

  • 経済産業省系の補助金|事業拡大や設備投資に活用できる
  • 厚生労働省系の助成金|雇用や人材育成に関する支援が中心
  • スタートアップ向けの研究開発の補助金|技術開発や実証実験を支援
  • 自治体の創業支援制度|地域独自の手厚い支援が受けられる

それぞれの特徴を確認し、自社に合いそうな制度をピックアップしてみてください。

経済産業省系の補助金

経産省所管の補助金のうち、スタートアップと相性がよい主要な制度を紹介します

制度名上限額補助率創業直後
小規模事業者の持続化補助金(創業型)最大250万円2/3(賃上げ特例3/4)申請可
ものづくり補助金750万〜4,000万円1/2〜2/3計画次第で可
IT導入補助金最大450万円1/2〜3/4申請可
中小企業の新事業参入の補助金最大9,000万円1/2〜2/3要確認

省力化の投資補助金はIoT・ロボット等を活用した人手不足解消、ものづくり補助金は先進的な設備投資やサービス開発、小規模事業者の持続化補助金は販路開拓等の取組を支援する制度として位置づけられています。公募スケジュールは制度ごとに異なるため、経産省の公募情報ページで最新の締切を都度確認しましょう※1。

小規模事業者の持続化補助金の詳細については以下の動画でも解説しています。

厚生労働省系の助成金

厚労省系の助成金は、要件を満たせば原則受給できる点が補助金との根本的な違いです

計画書の提出・要件どおりの実施・証拠書類の整備を1つでも欠くと支給対象外になります

スタートアップが活用しやすい主な制度は以下のとおりです。

制度名対象支給額
キャリアアップ助成金非正規社員を正社員化した場合重点支援の対象者なら1人あたり最大80万円
人材開発の支援助成金従業員への職業訓練やOJT付き研修経費・訓練中賃金の一部を助成
業務の改善助成金最低賃金引上げと生産性向上の設備投資を行った場合特例事業者は最大600万円

採用・育成フェーズのスタートアップにとっては、キャリアアップ助成金と人材開発の支援助成金が優先検討対象です。要件定義の正確な理解と事後報告の徹底こそが受給を左右する点を押さえておきましょう※2。

スタートアップ向けの研究開発の補助金

AI・量子・半導体・宇宙・バイオといったディープテック領域には、数千万〜数億円規模の大型補助金が用意されています。一般的なIT・サービス系とは対象分野が明確に異なるため、自社の技術領域が該当するかをまず確認しましょう。代表的な制度は以下の通りです。

制度名上限額対象・特徴
NEDOディープテック・スタートアップ支援事業(DTSU)1件あたり最大9億円AI・量子・宇宙・バイオ等を対象に事業化フェーズまで一貫支援
SBIR推進プログラム制度による設立15年以内の研究開発型スタートアップ等を対象に、各府省の補助金・委託費を省庁横断で束ねた制度
Go-Tech事業単年度最大約3億円大学等との連携による中小企業のR&Dを支援

政府は2022年に「スタートアップ育成5か年計画」を策定しました。

「スタートアップ投資額を5年後に10倍を超える額にする」「ユニコーン(時価総額1,000億円超の未上場企業)を100社創出する」といった大きな目標を掲げています。

国内スタートアップへの投資額は2013年には約900億円でしたが、2022年には約9,700億円となり、10年で約10倍にまで成長しています。該当分野で事業を展開している方は早期から公募スケジュールを把握しておくことをおすすめします※3。

自治体の創業支援制度

国の制度とは別に、都道府県や市区町村が独自に設ける創業支援制度も有力な手段です

代表例の東京都「創業助成事業」は助成率2/3・上限400万円と手厚い内容ですが、採択率は概ね10〜20%と競争が激しい制度でもあります※4。名古屋市のスタートアップ企業の支援補助金、横浜市の創業支援制度など主要都市にも類似の枠組みがあり、補助率や経費区分はそれぞれ異なります。

確認の際は、対象地域・対象者・補助率・上限額・対象経費の5点を必ず照合してください。

自社に合う補助金・助成金を絞り込む4つの判断軸

自社に合う補助金・助成金を絞り込む4つの判断軸

スタートアップ向けの補助金・助成金は国と自治体を合わせると数百種類にのぼるため、4つの判断軸で絞り込むと効率的に候補を特定できます。

自社に合う制度を見つけるための判断軸は、以下の4つです。

  • 事業ステージで絞る|創業前・創業後5年以内・それ以降
  • 使途で絞る|設備投資・人件費・研究開発・販路開拓
  • 所在地で絞る|全国対象と自治体限定
  • 事業内容で絞る|DX・GX・ディープテック等の戦略分野

自身の状況に当てはまる軸から、順番に確認してみてください。

1. 事業ステージで絞る|創業前・創業後5年以内・それ以降

「創業直後は実績がないから補助金は使えない」は誤解です。事業ステージごとに狙うべき制度は以下のとおりです。

ステージ主な制度規模
創業前〜創業5年未満東京都の創業助成事業、港区の創業の支援補助金上限250万〜400万円
ステージ不問ものづくり補助金、IT導入補助金創業年数による制限なし
シリーズA以降SBIR制度、NEDOディープテック支援事業数千万〜数億円規模

数年後に「あのとき申請しておけば」と後悔しないためにも、対象期間内に動くことが重要です。売上実績よりも、事業計画の具体性や実現性が重視される制度も多く、準備次第で十分に採択を狙えます

シードラウンドの資金調達について、詳しくはこちらの記事も合わせてご覧ください。

2. 使途で絞る|設備投資・人件費・研究開発・販路開拓

「補助金=設備費だけ」も誤解で、人件費・研究開発費・販路開拓費まで幅広くカバーする制度が存在します

使途対象制度
設備投資ものづくり補助金、中小企業の新事業参入の補助金
人件費東京都の創業助成事業、キャリアアップ助成金(非正規→正社員化で1人最大80万円)
研究開発NEDOの各種技術開発の支援事業
販路開拓小規模事業者の持続化補助金

補助金は国の政策目標を実現する制度であり、補助金によって目的は異なります。

事業者の戦略と合致した補助金を選ぶことが重要です。見落とされやすいのが人件費補助でしょう。キャリアアップ助成金のような雇用関係制度は採用後の申請が基本のため、「いつ雇うか」を決める段階で制度要件を確認しておくのが鉄則です。なお、設備投資へものづくり補助金・販路開拓へ持続化補助金といった組み合わせは可能ですが、同一経費への二重申請は認められません。

3. 所在地で絞る|全国対象と自治体限定

国のものづくり補助金やIT導入補助金は全国どこからでも申請できて予算規模も大きい反面、競争は激しくなります

東京都の創業助成事業(上限400万円・助成率2/3)や港区の創業の支援補助金(最大250万円)のように対象エリアを限定する分、採択ハードルが下がり伴走支援まで受けられる制度もあります※5。
地方創業の場合も、沖縄県のスタートアップ起業支援金(上限200万円)や国の起業支援金(東京圏外対象・最大200万円)など独自の枠組みが用意されています※6,7。

複数拠点で事業を展開する場合は、「本社所在地」と「事業実施地」のどちらが申請要件かを制度ごとに確認しましょう。自治体制度は事業の実施地を基準とするものが多く、本社が東京でも地方拠点で申請できる場合があります。

4. 事業内容で絞る|DX・GX・ディープテック等の戦略分野

政府が重点的に予算を配分する戦略分野に該当するかは、採択率を大きく左右します。2026年度はDX・GX・ディープテック・量子・宇宙・創薬など17分野が重点投資対象です。ディープテック領域ではNEDOのDTSUがVC出資額の2倍を補助する仕組みを持ち、量産化段階では最大25億円の支援枠もあります※8。

「うちはレガシー産業だから対象外」と感じる方も多いでしょう。実は建設・製造・農業など従来型産業の省力化・DX化こそ、政府が最も後押ししたい領域です。自社の事業そのものが戦略分野でなくても、事業計画の中でDX・GXとの接点を明確に描くことで採択可能性は広がります。事業と政策分野を結び付ける構成は、補助金申請の経験が豊富な専門家と一緒に組み立てるのが効率的です。

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補助金・助成金の申請から受給までの流れと必要な準備

補助金・助成金の申請から受給までの流れと必要な準備

補助金・助成金は公募開始から入金まで6か月〜1年以上かかるケースが大半です。スケジュールの全体像を把握せずに動くと、資金繰りに支障をきたす原因となります。

申請から受給までに押さえるべき点は、以下の3つです。

  • 申請から入金までの一般的なスケジュール
  • 申請前にやるべき3つの準備
  • 採択率を高める事業計画書の要素

初めての申請で失敗しないよう、それぞれの内容を確認してみてください。

申請から入金までの一般的なスケジュール

補助金は「採択=入金」ではありません

全体の流れは公募開始→申請→書類審査→採択発表→交付決定→事業実施→実績報告→精算払いの8段階です。採択後に交付決定を受け、自己資金で事業を実施し、完了後の実績報告・確定検査を経てようやく精算払いに至ります。

公募が締め切られてから「採択」まで通常2か月程度かかります。その後「交付申請」の手続きがあるため、事業の開始は数か月後になる点を押さえてください。

事業実施期間は制度によって異なり、1か月前後のものから12〜28か月に及ぶものまであります。東京都の創業助成事業は申請受付期間がわずか10日程度、採択まで約5か月、その後の事業実施期間が6か月以上続きます

申請から入金まで長期間を要するケースもあるため、つなぎ融資の確保など補助金が届くまでの期間をどう乗り切るかを事前に設計しておくことが重要です。

申請前にやるべき3つの準備

公募開始から逆算すると、申請には最短でも4〜6週間の準備期間が必要です。次の3つを早めに進めておきましょう。

  • GビズIDプライムの取得:多くの補助金で電子申請の必須アカウントとなり、発行まで約2〜3週間。公募開始後に動くと締切に間に合わないリスクがある
  • 事業計画書のドラフト作成:完成版でなく構わない。売上根拠の試算と競合分析の初期案を整理しておけば、制度ごとの要件適合を事前判定できる
  • 認定の経営革新等の支援機関への事前相談:税理士や金融機関など中小企業庁が認定した専門機関で、申請書類の精度向上や加点要素の発掘を支援してもらえる

特にGビズIDの発行待ちはコントロールできない時間です。早めの着手をおすすめします。

採択率を高める事業計画書の要素

審査員が重視するのは、数字の根拠と論理の一貫性です。「なんとなく売れそう」では採択に至りません。次の4点を押さえましょう。

  • 市場規模・売上根拠の数値化:矢野の経済研究所やMM総研の市場調査レポート、経産省のe-Statなど、客観データで売上予測を裏付ける
  • 競合分析の具体性:「競合なし」は逆効果。競合企業名・市場での位置・差別化の工夫を明記する
  • 加点要素の織り込み:賃上げ・DX・GX・地方創生など、公募要領の審査基準を確認し該当する取り組みを自然に組み込む
  • 読みやすさ・構成の明快さ:審査員は大量の申請書を短時間で評価するため、図表や見出しの工夫が採択率に直結する

これら4点をすべて高水準で仕上げるのは初回申請では難しいでしょう。不安を感じる方は、補助金申請の専門家へ早めに相談するのも合理的です。

ものづくり補助金の採択率を上げるノウハウについては以下の動画でも紹介しています。

補助金・助成金の活用でつまずく典型パターンとその対策

補助金・助成金の活用でつまずく典型パターンとその対策

補助金や助成金の採択後、想定外の壁に直面して事業が行き詰まるケースは少なくありません。初めて補助金を活用するスタートアップや創業予定者にとって、制度特有の落とし穴を事前に把握しておくことは重要です。

つまずきやすい典型的なパターンは、以下の4つです。

  • 後払い・精算払いによる資金ショート
  • 採択後の報告義務と経費管理の不備
  • 助成金ありきの事業計画によるピボット困難
  • 助成金依存の資金調達設計による計画破綻

それぞれの原因と具体的な対策を確認して、採択後のトラブルを未然に防ぎましょう。

後払い・精算払いによる資金ショート

補助金は立て替えた経費が後から戻ってくるお金です。事業実施→証憑提出→事務局審査→入金の順で進み、採択から口座着金まで6〜12か月かかるケースが大半です。この間も給与・仕入・家賃は待ってくれず、月50万円の支出が続けば6か月で300万円の立て替えが発生します。

資金ショートを防ぐには、つなぎ融資との併用をあらかじめ設計しておくと安心です。

日本政策金融公庫の「新規開業資金」は最大7,200万円、返済期間は設備20年以内・運転10年以内で、創業期でも利用しやすい制度です※9。いずれも申込から実行まで数週間〜1か月超を見込んでおきましょう。採択が決まってから慌てて融資を探すのでは間に合いません。申請段階から「入金までどう凌ぐか」を資金繰り表に落とし込んでおくことが、補助金活用の条件です。

日本政策金融公庫の資本性ローンを活用した資金調達戦略についてはこちらの動画でも解説しています。

採択後の報告義務と経費管理の不備

補助金は「採択されたら終わり」ではなく、採択後の報告義務と経費管理こそ最も手間のかかるフェーズです

事業完了後30日以内に実績報告書をJグランツ等で提出します。あわせて、事業化の状況報告を数年間にわたって提出することになります。証憑不足は経費不認定や返還請求のリスクに直結します。

経費認定でつまずきやすい点は以下のとおりです。

  • 交付決定前の支出は原則対象外
  • 請求書・契約書・納品書・振込明細のいずれかが欠けると不認定の可能性
  • 振込人名義が法人名と一致しない、個人口座からの支払いは認められにくい
  • 原材料費は用途別の区分管理と受払簿での数量記録が必要

創業期はバックオフィス体制が整っていないケースが多く、毎月の証憑整理や事務局からの問い合わせ対応など、本業と並行した管理負担は想像以上に大きいでしょう。クラウド会計ソフトの導入や月次での証憑チェック、顧問税理士との早期連携が現実的な防衛策です。

助成金ありきの事業計画によるピボット困難

スタートアップでは仮説検証とピボットが日常的に発生します。ただし、補助金の採択事業を大幅に変更するには事前承認申請が必要です。無断変更は交付決定の取消や返還命令の対象となります。「Web広告で顧客獲得する」計画で採択されたあと「対面営業のほうが適している」と判明しても、広告費から人件費への費目変更は容易ではありません。経費区分の変更だけで補助対象外になり得るのです。

深刻なのは「補助金に合う事業を探す」という優先順位の逆転です。事業が先、資金調達が後。この原則が崩れると、顧客が本当に求めているものではなく、補助金の要件に合う事業を追いかけるようになります。

結果として、採択されても顧客ニーズとずれた製品を作ってしまい、売上につながらないリスクが高まります。申請時の工夫として、「解決する課題」と「初期の実装手段」を明確に分離しておきましょう。課題定義が一貫していれば、手段の変更を事務局に説明しやすくなります。

スタートアップの資金調達方法について、詳しくはこちらの記事も合わせてご覧ください。

助成金依存の資金調達設計による計画破綻

補助金の採択率は制度によって大きく異なります。ものづくり補助金で約33%、東京都の創業助成事業では13〜15%と、5〜7社に1社しか通らない制度に資金計画の全額を賭けるのは、もはやギャンブルに近いでしょう。

落選すればつなぎ融資なしには翌月の給与原資すら確保できず、採用した人材への支払いが滞り、開発は中断します。チームの信頼も損なわれ、人材の流出や採用活動のやり直しなど、資金以上のコストがかかります。採択されても入金まで半年以上かかるため、「もらえる条件」で組んだ計画は採択・不採択どちらに転んでも資金繰りが苦しくなる構造です。

現実的には、補助金の期待値をゼロとして計画を立て、採択されたら上振れと捉える発想が重要です。日本政策金融公庫の創業融資やエクイティを軸に据え、補助金はあくまで第三の柱として位置づけましょう。最適な組み合わせは事業ステージや成長戦略によって変わるため、判断が難しいと感じたら資金調達全体を俯瞰できる専門家への相談が合理的です。

補助金・助成金と他の資金調達手段の組み合わせ戦略

補助金・助成金と他の資金調達手段の組み合わせ戦略

補助金・助成金は単独での活用だけでなく、融資やエクイティと組み合わせることで資金繰りの安定性と成長スピードを両立できます。特に創業期は、助成金の「入金までのタイムラグ」を補う資金調達手段との併用が現実的です。

資金調達を組み合わせる際に押さえておきたい戦略は、以下の3つです。

  • 助成金×融資|創業期の現実的な組み合わせ
  • 助成金×エクイティ|成長加速を狙う場合の設計
  • ステージ別の資金調達ポートフォリオ例

自身の創業ステージや成長方針に合わせて、最適な組み合わせを検討してください。

助成金×融資|創業期の現実的な組み合わせ

補助金は後払い・精算払いが原則で、採択されても事業実施と実績報告を終えるまで1円も振り込まれません

この6〜12か月間の資金を自力で回しておくと安心です。ここで軸になるのが日本政策金融公庫の「新規開業・スタートアップ支援資金」です。創業前から税務申告2期未満が対象で、原則無担保・無保証人で申し込めます。融資限度額は7,200万円(うち運転資金4,800万円)、運転資金の返済期間は最長10年、据置期間も5年まで設定可能です。

具体的な併用イメージはこうです。補助金で採択された事業の自己負担分+運転資金を融資で確保します。補助金入金のタイミングで繰上返済に充てます。こうすれば利息負担を最小限に抑えつつ資金ショートを回避できます。融資額の目安は「補助事業の総額 − 手元資金」で算定します。

日本政策金融公庫の新規開業・スタートアップ支援資金の金利は、条件により変動し、特別利率が適用されると1%台後半〜2%台前半もあり得ます。一方、基準利率は3%台後半〜5%前後です。「返済不要の補助金」と「すぐ手元に届く融資」を組み合わせれば、入金を待つ間も事業を止めずに済みます。この安心感は、経営判断の質にも直結します。

融資と補助金を組み合わせる際の鉄則については以下の動画でも解説しています。

助成金×エクイティ|成長加速を狙う場合の設計

VC出資と補助金ではカバーできる経費の範囲が異なります

出資は株式(エクイティ)を発行して資金を集めることで、原則としてスタートアップは出資者に資金を返済する義務を負いません。その代わりに出資者は出資先のスタートアップの株式を所有し、会社経営に対する発言権を獲得し、経営に関与できます。

NEDOなどの研究開発系の補助金は原材料費・外注費・人件費の一部などR&Dに直結する費用が対象です。シードVC出資は採用・営業・マーケティングなど成長投資に幅広く充当できます。この違いを活かし、補助金で研究開発費をまかない、VC資金を事業拡大に集中させる設計が適しています

成長段階で見ると、プレシード〜シード期にまず補助金を採択して技術的な実証データを積み上げてからVC調達に臨む流れが資本効率を高めます。採択実績そのものが技術力の裏付けとなり、バリュエーション交渉でも有利に働くからです。制度要件と調達タイミングの最適な方法は個社ごとに異なるため、早期に専門家の視点を入れることをおすすめします。

ステージ別の資金調達ポートフォリオ例

各ステージでの資金調達配分の目安を、参考比率として整理します

ステージ自己資金助成金融資エクイティ
プレシード〜シード30〜40%20〜30%20〜30%10〜20%
プレシリーズA10〜20%10〜20%15〜25%40〜55%
シリーズA以降5〜10%5〜10%15〜25%50〜70%

シード期は売上が立っていない段階のため、自己資金と公的支援で土台を固め、株式の希薄化を抑える資本政策が一般的です。プレシリーズAに入るとVC調達の比重が一気に高まり、助成金はSBIR推進費などR&D補助に役割が移ります。シリーズA以降ではエクイティと融資が調達の中心となり、助成金はPoC・量産準備・海外展開など特定用途に限定した非希薄資金として機能します。

これらはあくまで目安であり、業種・地域・成長速度によって最適な方法は大きく異なります。

融資を最大限に活用するための戦略については以下の動画でも紹介しています。

スタートアップが使える補助金・助成金に関するよくある質問

スタートアップが使える補助金・助成金に関するよくある質問

補助金・助成金は、制度ごとに仕組みやルールが異なるため、違いを理解しておくことが大切です。

ここでは、スタートアップが使える補助金・助成金に関するよくある質問に回答します。

  • 補助金と助成金の違いは?
  • 採択された補助金・助成金に税金はかかる?
  • 補助金・助成金は複数併用できる?
  • VCから出資を受けていても助成金は申請できる?

Q.補助金と助成金の違いは?

補助金は主に経済産業省の管轄で審査があります。採択件数に限りがあるため必ず受給できるとは限りません。助成金は主に厚生労働省の管轄で、要件を満たせば原則受給できる違いがあります

また、財源についても補助金は国や地方自治体の税金(予算)、助成金は主に事業主が納める雇用保険料という違いがあります。設備投資や新規事業には補助金、採用強化や働き方改革には助成金と、目的に応じて使い分けましょう。

Q.採択された補助金・助成金に税金はかかる?

法人の場合、受給額は益金として計上され法人税等の課税対象になります。実効税率が約30%であれば、100万円の補助金で手元に残るのは約70万円です。受給額=使える金額ではない点を資金計画に織り込んでおきましょう。固定資産取得に充当した場合は圧縮記帳で課税負担を繰り延べる余地もあり、税務処理は早めに税理士へ相談するのが安心です。

Q.補助金・助成金は複数併用できる?

対象経費が重複しなければ併用可能です。IT導入補助金でSaaSライセンス費用、東京都の創業助成事業で人件費や賃料といった費目の切り分けが重要になります。

各制度の申請書には他制度の利用状況を記載する欄が設けられているケースが多く、実績報告でも経費の按分根拠を示すことになります。領収書を制度ごとに整理し一対一で対応づけられる状態にしておきましょう。

Q.VCから出資を受けていても助成金は申請できる?

申請は可能で、NEDO系の一部事業ではむしろ認定VCからの出資が参加要件になっています

注意すべきは「みなし大企業」判定です。特定の株主が発行済株式の2分の1超を保有していたり、役員の過半数が出資元から派遣されていたりすると申請資格を失う制度があります。複数ラウンドを経て株主構成が複雑になったスタートアップほど引っかかりやすいため、公募要領の中小企業者の要件は必ず確認してください。

まとめ

まとめ

この記事では、スタートアップが活用できる補助金・助成金の全体像から、自社に合う制度の絞り込み方、申請の流れ、よくある失敗パターン、他の資金調達手段との組み合わせ戦略までを解説しました。

補助金・助成金は強力な資金調達手段ですが、制度選びから申請書作成、採択後の資金繰りまで、判断すべき点は多岐にわたります。自社に合った調達手法は、事業フェーズや財務状況によって変わります。最適な資金調達戦略を描くには、金融機関や投資家と適切に交渉を進めるための知見が必要です。

何から着手すべきか、自社に合ったプランへ落とし込みたいと考える方は、プロと一緒に整理するのも1つの方法です。

資金調達は、早い段階でプロに相談するほど選択肢が広がります。自社の状況を客観的に整理でき、タイミングを逃さず最適な手法を選びやすくなります。

資金調達の窓口では、融資・補助金・エクイティの中から御社のステージに合った手法の相談などを無料で対応。事業計画書がない段階からでもご利用いただけますので、まずはお気軽にご相談ください。

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参考文献

※1 経済産業省「人気の補助金
※2 厚生労働省「雇用関係助成金一覧
※3 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「知っておきたい基礎知識
※4 東京都産業労働局「融資・助成制度
※5 港区立産業振興センター「創業・スタートアップ支援事業補助金
※6 沖縄県「令和8年度沖縄県スタートアップ起業支援金の公募開始
※7 内閣府地方創生推進事務「起業支援金
※8 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「ディープテック・スタートアップ支援基金/ディープテック・スタートアップ支援事業(DTSU)、GX分野のディープテック・スタートアップに対する実用化研究開発・量産化実証支援事業(GX)
※9 日本政策金融公庫「新規開業・スタートアップ支援資金


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