「ピッチ資料って何を書けばいいんだろう」「10枚でどう構成すれば伝わるんだろう」「投資家は結局どこを見ているんだろう」
初めての資金調達では、会社の未来を左右する場面だからこそ、スライドの組み立て方に迷う方も多いでしょう。
実際には、投資家が注目する要素は限られています。構成の基本型を押さえ、要点を絞れば説得力のある資料は作れます。
この記事では、ピッチ資料の定義から10枚構成の型、投資家の評価軸、作成手順、よくある失敗パターンまで紹介します。

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ピッチ資料とは「投資家の意思決定を動かす10〜15枚のプレゼン資料」
ピッチ資料は、起業家が投資家に対して自社の事業内容・成長可能性・投資機会を短時間で伝え、意思決定を動かすためのプレゼンテーション資料です。
スライド枚数は10〜15枚程度が目安で「読まれる資料」ではなく「聞き手の次のアクションを引き出す資料」として設計しておくと安心です。
ピッチ資料を理解するうえで押さえておきたい項目は、以下のとおりです。
- 事業計画書・ピッチデックとの違い
- ピッチ資料が必要になる主な場面
初めてピッチ資料を作成する方は、まず基本的な定義と活用シーンを確認してみてください。
事業計画書・ピッチデックとの違い
「ピッチ資料」と「ピッチデック」は呼び方が異なるだけで実質同じものです。どちらも投資家との初回面談やイベントで使う要約型スライドを指します。
一方で、事業計画書は役割が異なります。ピッチ資料で関心を引いた後、デューデリジェンス(DD:投資前の財務・法務・事業の詳細確認)の段階で提出を求められる、より詳細な資料です。
| 比較項目 | ピッチ資料/ピッチデック | 事業計画書 |
|---|---|---|
| 作成タイミング | 初回面談・イベント前 | DD・融資審査段階 |
| 主な対象者 | VC・エンジェル投資家 | VC・銀行・取引先 |
| 枚数・分量 | 10〜15枚 | 20〜50ページ以上 |
| 情報の詳細度 | 要点を絞った概要 | 財務モデル等を含む詳細 |
| 重視される要素 | ストーリー・市場性・チーム | 収支計画・リスク分析・実行計画 |
初期段階では、まずピッチ資料の完成に集中しましょう。事業計画書は、投資家との対話が進んでから準備しても問題ありません。
銀行融資向けの事業計画書は返済能力や安定性を重視しますが、スタートアップのピッチ資料は成長性や将来の伸びを伝えることが目的です。
事業計画書の具体的な書き方については以下の動画でも解説しています。
▶関連記事 シリーズAとは?スタートアップの成長を加速させる資金調達の基本を解説
ピッチ資料が必要になる主な場面
ピッチ資料は使う場面によって見せ方を変える必要があります。投資家の関心や持ち時間が異なるため、強調するポイントを調整しましょう。
- VC初回面談: 10〜15分で事業概要と成長可能性を伝える
- ピッチイベント: 短時間でストーリーと課題解決のインパクトを強調する
- アクセラレーター応募: ミッションへの共感や経営チームの覚悟を具体的に示す
- エンジェル投資家: トラクションの具体数字や資金計画の明確さが判断材料になる
汎用資料だけでは対応しきれない場面も存在します。状況に応じた資料設計について、アクセラレーターや先輩起業家に相談できる場を活用してみましょう。
▶関連記事 エンジェル投資家とのトラブル回避術|契約前に知るべき注意点と信頼できる投資家の見分け方 | スタートアップ投資TV ライブラリ
ピッチ資料の基本構成は?10スライドの主な型

ピッチ資料は業種やフェーズを問わず、10枚前後の基本構成が広く使われています。まずは型に沿って作ることで、伝えるべきポイントを漏れなく整理できます。
以下が代表的な構成です。
| # | スライド | 役割・記載内容 |
|---|---|---|
| 1 | 表紙 | 社名・サービス名・一言で伝わるタグライン |
| 2 | 課題(Problem) | 誰のどんな痛みを解決するのか |
| 3 | 解決策(Solution) | 自社プロダクト・サービスの概要と独自性 |
| 4 | 市場規模(Market) | TAM/SAM/SOMで示す事業の伸びしろ |
| 5 | 競合・優位性(Competition) | 競合マップと自社の差別化要素 |
| 6 | ビジネスモデル(Business Model) | 誰から・何で・いくら稼ぐかの収益構造 |
| 7 | トラクション(Traction) | 現在の実績・KPI・成長曲線 |
| 8 | チーム(Team) | 創業メンバーの経歴・Why You |
| 9 | 資金使途・調達額(Ask) | 調達希望額・使途の内訳・マイルストーン |
| 10 | クロージング | コンタクト情報・次のアクション |
この順番は、聞き手の理解の流れに沿って設計されています。「課題の認識 → 解決への納得 → 市場の大きさ → 実現できる根拠 → 投資判断」という流れです。
順序を大きく崩すと、話が伝わりにくくなります。特別な意図がない限り、基本形をベースに組み立てるのが安全です。
また、スライドは詰め込みすぎないことが重要です。1枚1メッセージを意識し、全体で10〜15分以内に収まる構成にしましょう。簡潔に伝えるほど、投資家の理解と評価は上がります。
特に差がつきやすいパートは、以下の3つです。
- 表紙・課題・解決策|最初の3枚で関心を掴む
- 市場規模(TAM/SAM/SOM)|事業の伸びしろを示す
- トラクション・ビジネスモデル|実現可能性の裏付け
各パートの作り込み方を順に確認していきましょう。
表紙・課題・解決策|最初の3枚で関心を掴む
冒頭3枚で関心を引けなければ最後まで読まれることはないでしょう。
表紙は機能説明ではなく「誰のどんな課題を解くか」を一文で示します。創業年やチーム規模を添え、シード期なのかシリーズA前なのかを伝えましょう。
表紙に会社やサービスの名前、ミッションステートメント、住所、連絡先を明記することが基本です。
課題スライドは抽象表現を避け、具体的なペルソナの痛みを解像度高く描写します。原体験や顧客の声を盛り込み、リアリティを持たせてください。
解決策スライドでは、提示した課題との因果関係を論理的に示します。解決アプローチの妥当性が伝われば、投資家は自然と読み進めるでしょう。
市場規模(TAM/SAM/SOM)|事業の伸びしろを示す
市場規模スライドで大切なのは、数字の大きさよりも計算の流れが見えることです。
TAM・SAM・SOMの3層構造で事業の伸びしろを示しましょう。TAMは「Total Addressable Market」の略で理論上の最大市場規模を指します。SAMは「Serviceable Available Market」として自社のターゲットになり得る層の需要総数です。SOMは「Serviceable Obtainable Market」として自社が実際にアプローチ・獲得できる市場規模を示します。
この3層を同心円やファネル図で視覚化すると、規模感の絞り込みを直感的に伝えられます。
計算には官公庁統計などから逆算するトップダウンと、顧客単価×想定ユーザー数で積み上げるボトムアップの両方を併記し、整合性を示します。
新規事業では、検討フェーズに応じて情報の精度を使い分けることが重要です。企画段階では、統計データやニュース、簡易的な試算をもとに、市場の有望性を整理する進め方が一般的です。
ピッチ資料では、数値はシンプルにまとめて提示しましょう。細かい計算過程は無理に詰め込まず、参考資料として分けておく方が伝わりやすくなります。
そのうえで、一次データの出典を明記することが重要です。推定値であっても根拠が示されていれば、投資家の信頼を得られます。
▶関連記事 ユニコーン企業とは?定義から日本・世界の最新動向、成功の条件まで徹底解説 | スタートアップ投資TV ライブラリ
トラクション・ビジネスモデル|実現可能性の裏付け
トラクションスライドで見られているのは、「どの方向に、どれくらいの速度で伸びているか」です。単発の数字ではなく、成長の流れが伝わるかが重要です。
リリース前であれば、顧客インタビューの件数や検証結果などで裏付けを示します。売上が立ち始めている場合は、MRR(月次経常収益)やユーザー数を折れ線グラフで示し、最低でも3か月分の推移を提示しましょう。SaaSであればLTV/CACなど、業種に合った指標を選ぶと説得力が高まります。
ビジネスモデルは、1枚で全体像が分かるように整理します。
- 収益源の構造(課金形態)
- 顧客獲得チャネルとCAC(コスト効率)
- 単価の根拠(価格設定の妥当性)
初期段階では、絶対額よりも「伸び率」が重要です。月間30%成長など、継続的な成長が見えていれば高評価につながります。
投資家がピッチ資料で見ている3つの評価軸

投資家がピッチ資料で評価する要素は「市場」「プロダクト」「チーム」の3軸に集約されます。どれだけ魅力的なアイデアでも、この3つの観点で納得感を与えられなければ、投資判断には至りません。
投資家が具体的に見ている評価軸は、以下の3つです。
- 市場の成長性と根拠の確かさ|なぜこの市場が伸びるのかを数字で示す
- PMFの兆しとユニットエコノミクス|事業の再現性を定量データで証明する
- 創業チームの実行力(Why You / Why Now)|なぜこのチームが今やるべきかを伝える
それぞれの評価軸で求められる情報と、資料への落とし込み方を確認していきましょう。
1. 市場の成長性と根拠の確かさ
投資家は市場規模の大きさより、数字の出所と積み上げの論理を重視します。論理の詰めが甘ければ、他の主張も疑わしく映るためです。
単にTAMを引用するのではなく、特定セグメントの成長率や参入領域の追い風を自社の根拠と結びつけてください。
出典の選定も極めて重要です。StatistaやIDCなどの業界レポートは信頼性が高く、投資家にも馴染みがあります。できれば政府統計などの一次データも併記しましょう。
市場成長に伴う競合増加への回答も必要です。技術やチャネルなど自社独自の構造的優位性を添えると、説得力は格段に高まります。
2. PMFの兆しとユニットエコノミクス
シード期の投資家は、チームの課題設定能力と実行力を重視し、PMFの兆しよりも市場課題への深い理解を評価します。数字と顧客の声の活用が重要になるのはシリーズA以降です。
定量面では、リテンションカーブの安定や、LTV/CACの改善傾向が重要です。絶対値よりも「良くなっているかどうか」が評価されます。
ただし、数字だけでは決め手になりません。「なぜ使い続けるのか」を顧客自身が言語化できているかといった定性的な情報も重要です。継続理由が明確であれば、PMFに近づいていると判断されやすくなります。
シリーズA以降では、ユニットエコノミクスの健全性がより厳しく見られます。自社のフェーズに合わせて、示すべき指標や精度を調整しましょう。
3. 創業チームの実行力(Why You / Why Now)
投資家は事業ではなく人に張るのが、シード期資金調達の原則です。事業モデルは軌道修正できても、困難を乗り越える創業者の姿勢は変わらないと考えるためです。
チームスライドを経歴の羅列で終わらせず、説得材料として活用してください。
Why Youで問われるのは、課題解決に必要な知識と経験の深さです。業界経験や顧客理解の解像度が「なぜこのチームか」の答えになります。
Why Nowでは、規制緩和や技術コスト低下など外部環境の変化を言語化し、市場参入タイミングの根拠を示しましょう。
具体的に、CEOのドメイン知識とCTOの技術力が事業課題の解決に直結するなど、メンバー間の補完性を示せば投資家の安心感が高まります。
【4ステップ】実務で使えるピッチ資料の作り方
ピッチ資料は「準備→収集→デザイン→磨き込み」の4つの流れで作成すると、手戻りなく効率的に完成させられます。
実務で使えるピッチ資料の作り方は、以下の4つです。
- 調達額・相手・ストーリーを決める|資料全体の方向性を固める
- 情報・素材を集めてから書き始める|必要な数値やデータを揃える
- 1スライド1メッセージでデザインする|伝わる構成に落とし込む
- 第三者レビュー後に磨き込む|客観的な視点で完成度を高める
順番どおりに進めて、投資家や採用候補者に響く資料を仕上げていきましょう。
Step1. 調達額・相手・ストーリーを決める
スライド作成の前に、「いくら・誰から・なぜ今」の3点を固めましょう。
調達額は月次バーンレート(毎月の資金消費額)から逆算し、ランウェイ(資金が尽きるまでの期間)18〜24か月分を目安に設定します。採用計画などを上乗せし、使途ごとの内訳まで言語化しておくと対話がスムーズです。
投資家タイプごとに評価軸が異なる点も押さえてください。VCは市場規模、エンジェルは熱量、CVCは事業との相乗効果、銀行は収益性を重視します。
エクイティストーリー(株式投資家向けの成長シナリオ)を「市場課題→解決策→成長の筋道→投資リターン」の4要素で整理すれば、10枚の構成へスムーズに落とし込めるでしょう。
プレゼン資料には提案とその根拠を明確に示す骨太でシンプルなストーリーが必要であり、顧客の視点に立って一貫した流れを組み立てることが重要です。
事業計画の立て方で避けるべきNG行動については以下の動画でも紹介しています。
Step2. 情報・素材を集めてから書き始める
修正ループを避けるため、スライド作成前に必要な情報をすべて手元に揃えることが重要です。
収集すべき素材は大きく3つに分かれます。
- 市場・競合データ: TAM/SAM/SOMの算出根拠や競合比較など
- 自社トラクション: 定量指標の推移や成長率の変化をグラフ化する
- チーム情報: 各メンバーの実績や役割分担を整理し優位性を語る
すべてのデータに出典元を記録しておくことも大切です。質疑応答で即答できる体制が、資料の信頼性を底上げします。プレゼン資料作成時に用意すべき素材として、会社案内(基本情報、経営理念、取扱製品、取引先情報)や自社製品資料・技術資料が挙げられます。
投資家や銀行員が好む事業計画の要素については以下の動画でも解説しています。
Step3. 1スライド1メッセージでデザインする
1スライドに詰め込む情報は1つに絞るのが基本です。複数のメッセージを入れると、結局どれも伝わりにくくなります。
スライドタイトルは「結論」をそのまま書きます。詳細データは補足として配置し、まず視線が結論に向かう設計にしましょう。たとえば、グラフの説明よりも「前年比3倍成長」といった要点を大きく見せた方が、短時間で理解できます。
デザインは作り込みすぎる必要はありません。重要なのは見やすさと整理です。Canvaなどのテンプレートを使い、色は3色以内、フォントは1〜2種類に抑えるだけで十分に整います。
5分ピッチなら1枚あたり約30秒です。この前提で、時間内に読み切れる量まで情報を削りましょう。
Step4. 第三者レビュー後に磨き込む
社内だけで資料を回すと「伝わっているつもり」の落とし穴にはまりがちです。投資家は初見で資料を判断するため、知識のない状態で理解できるかが大切です。
事業文脈を知らない第三者にレビューを依頼してブラッシュアップを図りましょう。
先輩起業家からは実践的な指摘が、VCやアクセラレータからは市場成長性やチーム実行力といった投資家目線のフィードバックが得られます。
金商法(金融商品取引法)が定めるルールに抵触する断定表現など、法的リスクの有無まで含めて外部の目を通すことが重要です。
経験が浅い段階ほど、専門家への早めの相談がコストパフォーマンスの高い方法です。プロの力を借りて完成度を引き上げてください。

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ピッチ資料の作成時にやりがちな6つの失敗

ピッチ資料の作成では、内容の充実度よりも「伝わりやすさ」が成否を分けます。初めての資金調達に挑む創業者ほど、情報を盛り込みすぎたり、投資家視点を見落としたりしがちです。
作成時にやりがちな失敗は、以下の5つです。
- スライドを詰め込みすぎて論点がぼやける
- 市場規模をトップダウンだけで見せてしまう
- 資金使途が抽象的すぎて投資家を納得させられない
- 「競合なし」と書いてしまう
- 金商法が定めるルールに抵触する断定表現をしてしまう
- 不特定多数に向けて具体的な資金調達額や時期を公開してしまう
提出前のセルフチェックとして、それぞれの失敗パターンを確認してみてください。
1. スライドを詰め込みすぎて論点がぼやける
情報を増やせば説得力が上がるわけではありません。むしろ、削ることでメッセージは明確になります。
投資家がピッチ資料に目を通す時間は5〜10分程度です。スライドが多すぎると論点がぼやけるため、10〜15枚に絞った方が内容は伝わりやすくなります。
本編と添付資料の切り分けも重要です。
- 本編に残す:課題・解決策・市場規模など、投資判断に直結する情報
- 添付資料にする:技術仕様や詳細な競合分析など、補足的な情報
判断に迷ったら、「このスライドがなくてもストーリーは成立するか」を基準にしてください。不要な情報を削ぎ落とすことで、伝えるべきポイントが際立ちます。
基本構成以外の裏付けデータは、本編ではなく添付資料にまとめておくと、質疑応答にも対応しやすくなります。
2. 市場規模をトップダウンだけで見せてしまう
業界レポートの総額をそのまま引用するだけでは、「自社がどれだけ取れるか」までは示せません。
投資家が知りたいのは、現実的に獲得できる市場規模です。TAM・SAM・SOMで整理し、特にSOMは自社前提で積み上げることが重要です。
SOMはSAMに想定市場シェアを掛けて算出するのが標準的ですが、ボトムアップ・アプローチではターゲット顧客数、年間単価、採用率などの顧客データを積み上げて算出することもあります。
数値の精度を高めるには、顧客インタビューなど一次情報に近いデータを使うことが有効です。仮説でも、根拠があれば十分に評価されます。
SOMを具体化できると、成長ストーリーや資金使途とのつながりが明確になります。
3. 資金使途が抽象的すぎて投資家を納得させられない
「採用や開発に使います」という説明では投資家を納得させられないでしょう。投資家が知りたいのは、資金がどんな成果を生むのかという因果関係です。
「1,500万円でエンジニア3名を採用し、半年後にMRRを100万円へ引き上げる」など、投入→施策→KPI達成という一本の線を描きましょう。
18か月分の資金消費スケジュールを月別で示し、各フェーズにマイルストーンを設定してください。時間軸とKPIをセットにすると説得力が飛躍的に高まります。
投資家は資金を効率的に使える実行力を見ています。数字の粒度を上げるほど、信頼感は積み上がっていくでしょう。
4. 「競合なし」と書いてしまう
ピッチ資料で「競合なし」「類似サービスは存在しません」と記載するケースがありますが、これは投資家視点では「市場にニーズがない」というマイナスシグナルに映ります。競合の存在は、お金を払う需要があることの裏付けでもあるためです。
競合は直接競合だけでなく、間接競合や代替手段(Excel管理・外注・人手対応など)まで含めて整理します。投資家が知りたいのは「顧客は現状どう解決しているか/自社はなぜ選ばれるか」です。
整理には、縦横2軸でプロットするポジショニングマップや、主要競合3〜5社との機能比較表が使いやすいです。自社の独自ポジションが視覚的に伝わり、差別化要素が明確になります。
5. 金商法が定めるルールに抵触する断定表現をしてしまう
「市場は確実に拡大する」「3年で上場確定」といった断定表現は避けるべきです。金商法(金融商品取引法)第38条では、将来の運用成果について断定的判断を提供することを禁じています※1。違反すると行政処分の対象となり、信用を一気に失います。
内容を変えずに表現を慎重に選ぶ工夫が大切です。
NG表現:確実に拡大する、3年で上場確定、必ず儲かるなど。
市場調査データなどをセットで示し、断定を避けつつ説得力を保ちましょう。法令を遵守する姿勢は起業家の信頼度向上にも結びつきます。
6. 不特定多数に向けて具体的な資金調達額や時期を公開してしまう
ピッチイベントや公開プレゼンにて公開するピッチ資料に、「〇月に〇億円を調達予定」「今回〇,000万円を募集」など、具体的な調達条件を明記するケースがあります。しかし、こうした情報を不特定多数へ向けて発信すると、金融商品取引法上の「有価証券の募集(内閣総理大臣への有価証券届出書の提出が必要)」に該当する恐れがあるため、避けるようにしましょう。
特に近年は、ピッチイベントの内容がYouTubeやSNSへ公開されるケースも増えています。イベント会場ではVCや投資家向けの説明だったとしても、動画公開によって、一般投資家を含む不特定多数へ勧誘していると判断されるリスクがあるため注意が必要です。
公開ピッチでは、特に以下のような情報は極力控える方が安全です。
- 具体的な調達予定額
- 募集時期
- 株式発行条件
- 出資募集と受け取れる表現
詳細条件は、NDA締結後の個別ミーティングやデータルーム内で共有する運用が一般的です。公開情報と個別説明を切り分けることで、法令リスクを抑えやすくなります。
新たに発行する有価証券について、50名以上に取得を勧誘する行為は「有価証券の募集」に該当し、原則として有価証券届出書を提出しなければ実施できません※2。これは、広く一般から資金調達を行う際に投資家を保護するためのルールです。なお、人数は実際の株主数ではなく「声掛けベース」でカウントされる点に注意が必要です(YouTubeやSNS等での『出資募集中』のような発信も、不特定多数への投資勧誘にあたる恐れ)。違反した場合は、届出書・有価証券報告書の継続提出義務に加え、課徴金納付命令の対象となり、IPOが事実上不可能になるリスクもあります。
ピッチ資料の作り方に関するよくある質問

ピッチ資料作成における実務的な疑問に回答します。枚数やツール選び、事業計画書との違いなどを把握し、資料を適切に作成しましょう。
- ピッチ資料は何枚が適切?
- ピッチ資料作成時のデザインツールは何を使うべき?
- ピッチ資料と事業計画書は両方必要?
- ピッチ資料の作成にかかる時間はどのくらい?
Q. ピッチ資料は何枚が適切?
投資家向け本体資料は10〜15枚が基本です。30分の初回面談でストーリーを完結させる現実的なボリュームであり、補足データは添付資料に切り出しましょう。
一方、持ち時間が3〜5分のピッチイベントなら5〜7枚に絞り込みます。「課題と解決策」「市場規模」「トラクション」を優先し、時間に合わせた構成へ調整してください。
Q. ピッチ資料作成時のデザインツールは何を使うべき?
ツール選びで迷いすぎないことが大切です。重要なのは見た目より、内容と構成がきちんと伝わることです。
代表的な選択肢は次のとおりです。
- Google Slides: 共同編集に優れスピード重視
- PowerPoint: レイアウト崩れが少なく汎用性重視
- Figma Slides: プロトタイプ連携が容易でデザイン重視
- Canva: 直感操作で着手しやすくテンプレート重視
デザイナーがいない場合は、CanvaやGoogle Slidesのテンプレートを活用するのが現実的です。最初から凝った見た目を目指すより、伝える順番やメッセージの明確さを優先しましょう。
Q. ピッチ資料と事業計画書は両方必要?
どちらも必要ですが、同時に完成させる必要はないでしょう。
ピッチ資料は初回面談で関心を引く要約資料です。対する事業計画書はDD段階で投資判断の裏付けとなる詳細資料であり、詳細な財務予測や組織体制のロードマップなどを網羅します。
ピッチ資料を仕上げ、DD段階に進むタイミングで事業計画書を整える進め方が効率的です。
Q. ピッチ資料の作成にかかる時間はどのくらい?
初回作成の目安は2〜4週間です。データや写真など、散在する素材を集める作業に多くの時間を要します。
レビューとフィードバック反映にも1〜2週間を見込み、調達ラウンド開始の最低6週間前には着手してください。素材が揃わず構成に迷う段階であれば、専門家へ相談して完成度を引き上げるのも現実的な方法です。
ピッチ資料の作り方で迷ったら、専門家への相談も検討を
投資家に伝わる内容に仕上げるには、経験者の視点が役立ちます。特に、市場規模や資金使途の説明に不安がある場合は、専門家への相談を検討するタイミングです。
資料のブラッシュアップだけでなく、投資家との接点づくりや補助金の活用まで支援してくれる窓口もあります。
自力で抱え込まず、必要に応じて外部の力を活用することで、資金調達を前に進めやすくなります。
まとめ
投資家を動かすピッチ資料の構成や作成手順、よくある失敗と対策を紹介してきました。
10枚前後の基本型を押さえ、1スライド1メッセージを徹底することで、資料の説得力は格段に高まります。要点となる構成を固め、必要な素材を集める作業から着手しましょう。
自社の魅力を客観的に言語化し、投資家の厳しい目線に耐えうる資料へ仕上げるには困難も伴います。「資金調達の窓口」では、ピッチ資料のブラッシュアップから適切な投融資先の紹介、補助金申請のお手伝いまで、創業期の資金調達をトータルで無料相談いただけます。行き詰まりを感じたら、ぜひ一度プロの視点を取り入れてみてください。

「何から着手すべきか、自社に合ったプランへ落とし込みたい」そんな方は、プロと一緒に整理するのも1つの方法です。
「資金調達の窓口」では、御社のステージや事業モデルに応じた調達プランを無料でご提案しています。ぜひご相談ください。
参考文献
※1 e-GOV法令検索「金融商品取引法第38条」
※2 日本証券業協会「(有価証券の)募集」
