【1社1億円!】JAグルーブのCVCが100億円の投資を決める選定基準とは?|スタートアップ投資TV

〇児山 紗也 農林中金キャピタル株式会社 Vice President
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農林中金キャピタル HP https://www.nc-cap.co.jp/
AgVenture Lab HP https://agventurelab.or.jp/
2012年 第一生命保険入社。2017年から上場株投資において、ヘルスケア・食品・消費財等のアナリスト業務に従事。2021年よりBain & Companyにてコンサルタント業務に従事。約1年前より農林中金キャピタルに参画。CVCファンドのキャピタリスト業務をメインに、農林中央金庫やAgVenture LabにてJAグループのオープンイノベーションにも取り組む。
東京大学文学部卒、一橋大学経営学修士コース修了。

農林中央金庫とは──第一次産業を支える協同組合金融機関

石橋:
はい、皆さんこんにちは。スタートアップ投資TV、Gazelle Capitalの石橋です。

今回からですね、農林中金キャピタル株式会社ヴァイスプレジデントの児山さんにご出演をいただいておりますので、児山さん今回からよろしくお願いいたします。

児山:
よろしくお願いします。

石橋:
まず第1話では、児山さんが所属していらっしゃる農林中金さんの、100億円のファンドを2023年5月から新しくコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)として組成をしていらっしゃるというところをニュースでも拝見しておりますので。

親会社の農林中央金庫さんがあんまりイメージができていなくて。改めてどういう母体で、どんな歴史でCVCができてきているのか、まずお話いただいてもよろしいですか?

児山:
はい、農林中央金庫は一次産業に従事する方の協同組合である、農業だと農業協同組合(JA)、漁業だと漁業協同組合(JF)、あと森林組合(JForest)っていうのがあるんですけれども、その3つの協同組合を支えるための金融機関になっています。

各JAがバンクの機能を持っていて、地方に拠点が多いんですけども、JAバンクと呼ばれるものがあって。

石橋:
宮崎に少しいるので聞き覚えはあります。

児山:JAバンクに口座を持っていらっしゃる方々がリテール機能として銀行を持っていて、預金を預けてくださったりとか、預けていただいた預金をもとに住宅ローンをさせていただいたりとか、農業関連の融資をさせていただいたりとか、一般的なそういった融資をJAバンクの中で行っています。

農林中央金庫はリテール機能は自身では持っていないんですけれども、そのJAバンクでリテール機能を持っていて、預貯金としてお預かりしたお金を運用する組織に近いものになっています。比較的大企業を中心としたお取引先への融資、マーケット運用が中心になっているのが農林中央金庫で、そのJAバンクとかJFマリンバンクというのもあるんですけれども、そこと農林中央金庫が合わせてバンクグループみたいなものを形成しております。

2020年から始まった投資ファンドの歴史

石橋:
資産運用のある意味一環として、今回で言うと足元は2023年の5月に100億円のCVCファンドから始まっていらっしゃるって感じなんですかね?

児山:
そうですね。資産運用の一環でもありますし、一次産業の生産基盤が弱ってきている中で、いろいろイノベーションを起こさないといけないよね、というのがあって、単純なリターンだけではなくて、JAグループ全体でイノベーションを起こすために、CVCとして立ち上げたというものになっています。

石橋:
なるほど。もともとは足元が初めての取り組みになるんですか、どういう歴史を経ているんでしょうか?

児山:
一番初めに始めさせていただいたのが2020年に外部のベンチャーキャピタル(VC)の方をジェネラルパートナー(GP)にして投資ファンドを立ち上げています。それは50億円で立ち上げていて、直近で2023年の5月に自身の子会社である農林中金キャピタルでファンドを立ち上げて、というものになります。

投資領域は生活インフラ全般──1億円前後のフォロー投資が中心

石橋:
そのぐらいのサイズだと、やっぱり1社あたりの資金が大きかったりとか、ラウンドで言うとシリーズA・Bだったりとか、農業領域以外に見ているところなど、どのようなセグメントでやってらっしゃるんですか?

児山:
投資領域としてはかなり幅広く見ていて、JAグループが非常に幅広くいろんな業務をしているということで、例えば病院グループも持っていたりとか、あとJA共済なんかもグループ会社で保険会社を持っていたりとか、あと各JAがガソリンスタンド持ってたり、スーパー持ってたり、介護施設持ってたりとか、暮らしに関わる領域は幅広くJAグループとして事業をやっているので、それに関連する領域であれば投資をしています。

石橋:
地域とか地方の生活インフラの近いところは、ほぼやってらっしゃるんですね。

児山:
そうですね。加えて農林中央金庫は金融機関なので、その金融機関として何かこうサポートできることってすごく幅広いと思うので、ファイナンス的なサポートをするですとか、そういった形で協業するということを目指しているので、比較的領域としては幅広く投資をしています。

石橋:
1社でどのぐらいで投資するとか、リードやフォローだとか、どんなスタンスなんでしょうか?

児山:
特に決めているものはないんですけれども、メインでターゲットとしているのはアーリーステージなんですが、案件によりすごく前後するものがあるかなと思っています。投資金額もこれも案件により柔軟に対応するというふうに考えてはいるんですけれども、1億円前後ぐらいで投資させていただくことが多くて、フォローで投資させていただくことが比較的多くなってますね。

石橋:
3億円以上ぐらいの全体のラウンドがあって、1億円前後ぐらいがフォローで農林中金キャピタルさんから入ってくるっていう感じのイメージだとは思うんですけど。

JAネットワークを活かした事業支援──kikitoriへの導入事例

石橋:
こういうところでこういう支援ができるよねであったりとか、追加投資をしてるしてないとか、どういう感じなんでしょうか?

児山:
追加投資については、かなりすることが多くはなっているんですが、毎回投資委員会にかけて判断はしているんですけれども、フォローもかなり前向きに検討することが多いです。

石橋:
資金面だけじゃなくて、こういう支援とか、こういう協業してますとかって、あったりするんですか?

児山:
農業関連ですとか食品関連のスタートアップさんですと、我々が持っているネットワークを使って事業面のご支援しやすいかなと思っていて、他のGPさんと一緒にやらせていただいたファンドにおいて、kikitoriさんというところに投資をさせていただいていて。

kikitoriさんは農業の商流をデジタルトランスフォーメーションしていくというスタートアップなんですけれども、デジタル化されたサービスを各JAとかに入れていかないといけないんですが、そこのご紹介ですとか。

石橋:
めちゃめちゃ心強いですね。

児山:
JAグループの全国組織として全国農業協同組合連合会(全農)という我々の関連会社があるんですけれども、全農がJAをサポートしたりとかする部があるので、そこと協力しながらJAへの導入を進めるみたいなことをサポートさせていただいています。

中間流通を飛ばすスタートアップとの向き合い方

石橋:
なるほどです。「JAとか中間流通業者をぶっ飛ばす」みたいなスタートアップ方は、JF領域でもJA領域でも、場合によっては林業領域でも必然的にいると思っていまして、農林中金グループさんからすると、イノベーションのジレンマみたいな状態になりえるのかなと。

食べチョクさんとか、代表的なスタートアップだと思うのですが、あのような領域ってどうなるんですか?

児山:
組織ミッションとして一次産業に従事する方々をサポートするというのが大きなミッションとしてあるので、商流が複数にわたっているということは、そういった方々にとってもすごくプラスのことかなというふうに考えています。

食べチョクさんのようなチャネルが持っている強み、例えば価格が良いものは高く売れるですとか、JAとして果たしている機能って違うものがあると思うので、併存していくのがいい形なのかなと考えてますね。

石橋:
そういう経緯で投資しているケースも、他社さんと一緒にやっているファンドがあったりするんですか?

児山:
投資の検討としては上がることありますね。

東南アジアのユニコーン企業eFisheryへの投資

石橋:
2023年の5月に100億円のファンドが作られていると思うんですけど、そちらの方ではどういうところの投資をしているのか、具体例はありますか?

児山:
新しく立ち上げたファンドですと、eFisheryという東南アジアの養殖のプラットフォームを持っているような企業に投資をさせていただいています。

国内だと我々がそういった中間流通とかを担っている組織なんですけれども、東南アジアとか海外だとJFと呼ばれる組織とかJAみたいな協同組合がなかったりするような国だと、スタートアップがプラットフォームの役割を担っていたりするんですよね。

まさしくeFisheryさんはその養殖のIoT(モノのインターネット)デバイスを提供して、そこで作った産物をマーケットプレイスに載せてお客様に届けるというプラットフォームなので。

石橋:
もはやJFをデジタル化してやるような感じですか?

児山:
はい。なので我々はそこに投資させていただくことで、日本国内まだまだデジタル化進んでいないので、そういったところを学ぶというところもありますし。

我々日本ではJF、JAが持っている基盤を使ってそこにファイナンスしていくというのが我々の役割なんですけれども、そのポテンシャルが海外にもあるんじゃないかなというところで投資をさせていただいています。

AgVenture Labのアクセラレータープログラム

石橋:
アーリーがメインとは言いつつ、ユニコーンもたまにある中で、シードの方と接点を持つようなプログラムとかあられたりするんですか?

児山:
我々JAグループ全体でオープンイノベーションであるAgVenture Labというものを設立しておりまして、そこ主催でアクセラレータープログラムをやっています。

アクセラレータープログラムもシリーズを絞っているわけではないんですけれども、比較的シードとかアーリーくらいの方々がご参加していただくことが多くて、ご参加していただいた企業と我々のグループのネットワークを使って概念実証をして、ということをやっています。

アクセラレータープログラムにご参加いただいた企業から、その後ステージは少し進んで投資に至ったケースもございまして、kikitoriさんなんかもそのケースになっています。

石橋:
一番美しいパターンですね。AgVenture Labに参加してJAグループとかの連携をしながら、場合によってはファイナンスが付いてきて支援が拡大できるということですので、農業業界とか漁業業界でやるんだったら、そのリソース絶対あった方がいいですね。

児山:
特にJA、JFの組織と何か一緒にやるといった場合に、我々が一緒に訪問させていただくことで、少し向こうの方々が聞いてくれる気持ちが変わったりとかもするので、そういったところでご支援できる部分はあるかなと思います。

コンタクト方法と検討プロセス──最短1ヶ月でソフトコミットメント

石橋:
この番組見てる方がコンタクトこれからするとして、児山さんであるとか農林中金キャピタルさんだとか、どこのチャネルがいいかっていうご質問と、どのぐらい前には連絡が欲しいよねみたいな、検討プロセスとかどんな感じなんでしょう?

児山:
検討プロセスは、最短でソフトコミットメントまで1ヶ月ぐらいで、着金まで2ヶ月ぐらいで頑張ればできますね。ただ、ギリギリになってしまうので、できれば3、4ヶ月前ぐらいからご連絡いただくとゆっくり検討できるかなと思います。

アクセスいただくチャネルがすごく限定的なんですけれども、ホームページに載っている農林中金キャピタルが持っている代表メールみたいなところか、あとはFacebookで私を検索していただいてメッセージいただければなと思います。

石橋:
概要欄の方に児山さんのFacebookのURLと、農林中金キャピタルさんのメールアドレスのURLを記載させていただいておりますので、ぜひ早めにコンタクトを取ってみていただいて。

前に出たシードの方はAgVenture Labさんですね。定常的に募集してらっしゃるんですか?

児山:
アクセラレータープログラムは1年に1回ですね。

石橋:
大体毎年いつぐらいですか?

児山:
毎年年初ぐらいから募集を始めて、プログラム自体は5月〜6月ぐらいから始まります。

石橋:
ぜひそちらの方もチェックをしていただければなと思います。第2弾は児山さんの自己紹介というか、なんでそもそも今、僕からするとちょっと堅い組織にいらっしゃるような感じのところを、お伺いをしていければと思いますので、次回もよろしくお願いします。

児山:
よろしくお願いします。

100兆円の預金資産を抱えるJAグループを目指した背景とは?|スタートアップ投資TV

コーポレートガバナンスとの出会いが転機に

石橋:
はい、皆さんこんにちは。スタートアップ投資TV、Gazelle Capitalの石橋です。

今回も前回に引き続きまして、農林中金キャピタル株式会社ヴァイスプレジデントの児山さんにご出演をいただいておりますので、児山さん今回もよろしくお願いいたします。

児山:
よろしくお願いします。

石橋:
前回は直近で組成されていらっしゃる100億円の農林中金キャピタルさんのCVCファンドのお話をいただいてまいりましたが、そもそもなんで児山さんが農林中金キャピタルにいらっしゃるのかというところを今回は深掘りしていければと思うんですけれども、そもそもご出身は農業系のキャリアでいらっしゃるんですか?

児山:
全然違っていてですね。

石橋:
なおさらなぜここにいるのか謎ですね。

児山:
もともと新卒で保険会社に入社したんですけれども、自分が今このキャリアへの最初のきっかけは国内でMBAに行った時にコーポレートガバナンスとかを学んでたんですね。株主と企業との関係みたいなことを学んでいて、ちょうど日本でもコーポレートガバナンス・コードとかスチュワードシップ・コードとかが導入された時で、その株主側から日本の企業を変えていこうみたいな動きが活発になった時でした。

それをきっかけにして私も投資をやりたいなというふうに思って、大学院を卒業した後に株の投資をやり始めたんですね。

石橋:
それはお仕事としてですか?

児山:
そうですね。保険会社の中で株式部に行って、上場株の投資・アナリストをやってました。

数十兆円規模の運用とエンゲージメント活動

石橋:
結構規模が大きそうな話ですね。

児山:
そうですね。数十兆円あるうちの約10%くらいが株だった。兆円単位だけどすごく回転させるようなものではなかったんですけれども、それくらいの規模の投資の中で実際に売買もしていました。

それに加えて長期的に保有するというのが当時所属していた会社の基本方針だったので、長期保有しているところに対して企業のガバナンスを向上させるためとか、それに伴って業績を向上させるためにどうしたらいいかみたいなところを議論する、よくエンゲージメントと言われている活動をやっていました。

石橋:
肩書きで言うと上場株のアナリストとして活躍されてたって感じですね。

児山:
当時は食品セクターですとか、あとヘルスケアセクターとか、化粧品とかそういった日用品関連のところ、あと医薬品、医療機器とかも一部見ていました。

ベイン・アンド・カンパニーで企業変革の最前線へ

石橋:
そこまでお話を伺っていると、株っていうキーワードは共通しているものの、その後は、いきなり農林中金キャピタルさんの事務所にいらっしゃったんですか?

児山:
その後ですね、コンサルティングファームに転職しまして、その背景も株主として企業と関わるとちょっと距離が遠いと上場株の時は少し感じてですね、もうちょっと入り込みながら日本企業を変えるっていうことができないかなと思ってコンサルティングファームに転職しました。

石橋:
ちなみに今コンサルティング会社に転職されたとお話を伺いましたけど、どちらの会社さんに行かれたんですか?

児山:
ベイン・アンド・カンパニーというところに2年弱ぐらいおりました。

石橋:
ベインさんの中では具体的にどういうことをやられてらっしゃったんでしょうか?

児山:
ベインはいろんなプロジェクトをやっているので特定の業界やプロジェクトをやっていましたというわけではないですが、その時にアサインされたプロジェクトでクライアントの企業変革に携わっていくことをやっていました。

CVCという選択──2つのキャリアを活かす道

石橋:
上場株のアナリストから本当にゴリゴリのコンサルタントになられて。

児山:
農林中金。

石橋:
次は農林中央さんになるんですね。ここはどう接続されていくんですか?

児山:
私の中ではすごく接続があってですね、上場株の投資をやった後に日本企業を変えるみたいなことをやりたいなと思ってコンサルティングをやっていて、どちらのキャリアも活かせるものってなんだろうなって考えた時に、投資もするし、その投資に関連して企業変革も促していくっていうのってCVCなんじゃないかなっていうふうに思って。

石橋:
投資をして企業変革を促す企業っていうのは、親会社さん側のことをある意味指している?

児山:
そうですね、それも含めてお互いにではあると思うんですけれども、投資したスタートアップにとっても何か取引が生まれてくれば成長につながると思いますし、そういう新しいテクノロジーとか文化に触れることによって親会社側のややコンサバなマインドも変わっていくのかなと思って。

その2つのキャリアを生かすためにはCVCって面白いキャリアなんじゃないかなと思ったのが転職したきっかけで、その中でなんで農林中金を選んだかなんですけれども、コーポレートガバナンスを学んでいた時に日本の資産がちゃんと成長産業に流れていくのってすごく重要だなというふうに思っていて、JAバンクが持っている預金って大体100兆円ぐらい実はあるんですよ。

石橋:
1%で今のVCマネーを全部網羅的にカバーできるぐらいですもんね。

児山:
その100兆円の資産をもっと成長産業に振り向けることができたりとか、その一部を使ってスタートアップの成長にも、かつ我々のグループ基盤である一次産業の成長にも貢献できたら面白いんじゃないかなと思って、そういう組織だなと思ったのが転職したきっかけです。

100億円ファンドを3名で運用する挑戦

石橋:
海外投資とかそういう新興国投資も農業にとらわれずやっていかれるんですか?

児山:
そうですね、その方針です。今ファンドの半分ぐらいは海外に投資しようというふうに考えていて、特にアジアを中心に、あとアメリカのシリコンバレーにも実はチームメンバーがいるので、アメリカのチームは欧米中心に見ていて、海外の成長ポテンシャルも見ながら投資をしています。

石橋:
なるほどです。23年の5月に100億円のファンドを作っていらっしゃるということは、そもそもじゃあ改めてCVCをそれこそ外部じゃなくて自分たちでやっていくために、そのためのチームみたいな感じなんですか?

児山:
そうですね。なのでチームメンバーはキャピタリスト今5名でやってるんですけれども。

石橋:
少ないですよね?

児山:
5名のうち3名が今日本におりまして、その3名は全員このCVCファンドのために採用された人員でやっています。

石橋:
全員外部の方なんですか?

児山:
日本チームは外部の者ですね。

石橋:
プロパーの人いないんですか?

児山:
海外チームはプロパーの者もいますし、あとチームのマネージャーが別途いるので、CVCなので全員外部だと成り立たないと思うので。

石橋:
本体との接続とかできないですもんね。

児山:
そこは半分半分ずつぐらいというイメージでやってますね。

石橋:
結構初手から外部の方が登用されるCVCは珍しいですよね。

児山:
そうかもしれないですね。もともと農林中央金庫自体が、投資がメインの会社だということもあって、農林中金キャピタルという会社も実は直近に立ち上げられたものなので、ストラクチャーを整えたりとか、人材採用もそういう形でやっていこうということになりました。

ネットワークゼロからの挑戦──1年目の奮闘

石橋:
わかりやすいです。ご前職の2社のお話から聞いていると、スタートアップというところとのコミュニケーションはもともと何かであられたんですか?

児山:
それがなかったので、自分の中でチャレンジだったので正直転職するときにすごく悩みました。ネットワークをもともと持っていたわけではなかったので、上場株をもう一度やろうかなと思ったりとか、でももう一度チャレンジしてみようと思ってスタートアップ業界に来て、本当にまだ1年経ってないですけれども、ネットワークを作っているところです。

石橋:
僕もだって初めて児山さんにお会いしたの、サイバーエージェント・キャピタルさんが実施されているマンスリーピッチ。マンスリーピッチのプレゼンテーションも定期的に募集しているのでぜひ見ていただければと思うんですけど、それは浜松のリトリートみたいなやつでしたよね。

児山:
そうでしたね。

石橋:
結構この1年でも逆にどうですか?実際転職されてみて、ネットワーキングとか思っていた懸念とか不安とかって払拭されましたか?むしろ加速してるんですか?

児山:
いろんなイベントに参加させていただくとネットワークがどんどん広がっていってるなと思うので、これを継続的に続けたいなと思っています。

石橋:
少人数だったら絶対大変ですよね。

児山:
そうですね、大変ですね。

石橋:
国内3人ですもんね。だいたい50億円くらいは国内担当のチームでやっていくってことですもんね。

児山:
そうですね。

アナリスト出身という希少性──次回予告

石橋:
農林中金キャピタルさんの話にも一部なってしまいましたが、詳しく知りたい方は第1話をまた見返していただいて、第3話ではもともと今お話しいただいたキャリアの上場株のアナリストというところのご経歴をお持ちだと思いますので。そのキャリアの人はあんまりいないですよね?

児山:
プライマリーで新規公開株式とかに携わってた方は結構投資銀行部門の方とかいらっしゃるかなと。アナリストの方はあんまり聞いたことないかもしれないですね。

石橋:
その目線感でVC業界とか未上場国内マーケットを見ていくと思われることがいろいろあるんだろうなっていうふうには個人的には思うところもあるので、またそれは第3話でご意見というかお話いただければと思っておりますので、引き続きよろしくお願いします。

児山:
よろしくお願いします。

上場後に伸びる企業と上場・非上場企業の違いを元アナリストの児山さんが解説!|スタートアップ投資TV

上場株アナリストの仕事とは?企業分析のプロフェッショナル

石橋:
はい、皆さんこんにちは。スタートアップ投資TV、Gazelle Capitalの石橋です。

今回もですね、前回に引き続きまして農林中金キャピタル株式会社ヴァイスプレジデントの児山さんにご出演いただいておりますので、児山さん今回もよろしくお願いいたします。

児山:
お願いします。

石橋:
第1話では農林中金キャピタルさんって何だっけみたいなお話と、足元100億円お話を伺いつつ、第2話ではなぜVCになられたのかを伺い、その中でもともとファーストキャリアのプロセスに上場株のアナリストとしてのご経験がありますと。

僕自身アナリストの方々とお話しする機会は少なかったり、VC業界もその畑出身の方ではいらっしゃらないと思うので、今回は第3話のテーマトークとして、元上場株アナリストから見るVC業界の違和感や、「こうあるべきだよね」というところを一般論としてご提言・ご意見を聞いていければと思います。そもそもアナリストって何をしているのか?お仕事の説明「こんなことをしていました」などお伺いできればと思いますが、お願いしてもよろしいでしょうか?

児山:
上場株のアナリストは、基本的に投資対象企業の戦略を分析して財務モデルを作り、将来的にその企業の株価がどれくらいになるか、今投資したら儲かるのかを分析する仕事です。その分析をもとに、買いなのか売りなのかという意思表示を出します。

社内にいるファンドマネージャーが、そのアナリストの「推奨」と呼ばれるのですが、その「推奨」を元にその銘柄を買うか売るかを決める材料にしてもらうために、日々いろんな上場株の分析をしている役割です。

石橋:
まさに未上場企業さんでもシリーズが大きいと、デューデリジェンス(DD)と呼ばれるようなプロセスが割と似ているんですかね?

児山:
未上場でも上場でも、DDのプロセスはすごく似てるかなと思います。

アナリストから見たVC業界、DDは似ているが決定的な違いも

石橋:
とはいえ、未上場企業になると値段の付け方も少し違うロジックなのかなと思うのですが、もともとアナリストの経験を持たれていて、ちょうど昨年にVC業界に初めて飛び込んできた時に、結構同じなんだなという印象でしたか?それとも全然違うなと感じましたか?

児山:
似てるなと思ったのは、DDをする、企業分析する、戦略分析するというところは大きな違いはないかなと思います。ちょっと違うのは、未上場株の方が相対で情報を取れるので、すごく細かい分析もできたりする。

上場株は何の情報を外に出せるかが、かっちり決まっているので、もらえる情報をベースで分析しなきゃいけない。そこが少し違うのかなと思いますね。

あとは未上場でも本当にステージによると思うんですけれども、基本的にレイターは上場株の分析に似ているのかなと思いつつ、アーリーだと分析できるものが少なかったり、レファレンスコールがすごく重要だったり、分析手法は少し違う部分はあるかなと思います。

あとは未上場というだけあって、相対でいろいろ取引をしないといけないし、直接お金を投資するという形になるので、投資先の企業との関係がより近いし、そのラウンドに入るためには人間関係が必要。

そこが上場株は相手がいないと言っては言い過ぎですが、セカンダリーで取引をしているので最後売買する時は、機械と対峙しているところが大きく違う。売るも買うも投資側である程度自由に判断できるというところが大きく違うかなと思います。

バリュエーションの考え方、上場と未上場で何が違う?

石橋:
逆にDDのプロセスは一定近しいものがあっても、決定的に違うこととか、すごく違和感があったことはなかったんですか?

児山:
上場株だと、利益の成長率が四半期とか年単位でどれぐらい続くかというのと、セクターの中でその企業の利益を出すポテンシャルがどれぐらい高いのか低いのかをかなり細かく分析してバリュエーションをつけることが多いのと。

株以外のアセット、例えば債券で金利環境がどうなのか、それ以外のアセットとのバランスで今株がどういう状況なのかを見ながらバリュエーションを最終的には決定します。

未上場の投資の場合にはそこまでは加味せずにバリュエーションを決める、そういうことがアーリーだと多いのかなと思います。最終的にイグジットするタイミングでは、上場株のアナリストが見ているバリュエーションにさらされると思うので。

アーリーの入るタイミングでそこまで分析するのは無理だと思うんですけれども、上場のタイミングではそういう目線で見てバリュエーションが決定されるっていうところは、頭の片隅に置きながらアーリーのバリュエーションのあり方を見た方がいいかなとは思います。

石橋:
そういうアナリストの経験を持っていてアーリー投資していると、株価は「高いな」って思うんですか?「安いな」って思うんですか?

児山:
将来のポテンシャルに対してはまだまだ全然安いんじゃないかなって思うこともあるし、逆に上場だとこれぐらいにしかいかないんじゃないかな、今は高すぎるんじゃないかなと思うこともあります。どちらもあるかなと思いますね。

CVCでもファイナンシャルリターンが第一、シナジーはその次

石橋:
農林中金キャピタルさんの場合は、ピュアなVCという側面だけではなくて、一次産業の方々のエンパワーメントや変革を促すという主目的もあるのかなと思う中で、CVCとしての株価の考え方っていうのは、別のロジックで感じることがあられるんですか?

児山:
我々農林中金キャピタルという子会社でやっていて、投資子会社としてやっているので、第一にファンドとしてきちんとファイナンシャルリターンを出せるかという目線で投資はしています。

なので、戦略性が高いからファイナンシャルリターンは見ないで投資するということはあまりせずに、まずは第一ハードルをクリアした上で戦略性を考えるという形で投資委員会をやっています。

石橋:
よく俗説として聞くのは、シナジー投資だから株価無視して良いとか。そういうことはないんですね?

児山:
ないですね。

成長ポテンシャルとセクターアロケーション、上場時の株価を左右する要素

石橋:
先程児山さんがケースバイケースで「安いな」と思うこともあるし、「高いな」って思うこともあるとおっしゃってた思うんですけど、「全部高い」って思うのかなって思ってたんですよ。普通に上場株のロジックからすると、株価の付け方おかしいだろうみたいに思われるかなと思ったんですけど、そこで言うと、成長ポテンシャルから逆引きする視点というのが1つキーワードになってくるんですね。

児山:
そうだと思います。あとは、皆さんこれはご存知だと思いますが、上場のタイミングで株価としてバリュエーションがどうなのか、それは他のアセットと比較してどうなのかとか。

あと株の中でも、上場株のアナリストってセクターアロケーションっていうのをすごく見ていて、セクターごとに今このマーケット環境でここのセクターは張ってもいい・張っちゃいけないっていうのが結構あるんですよね。

なので、その上場のタイミングの時に、じゃあその株がそもそもどうなのか、その該当する上場企業のセクターがどうなのか、みたいなところを考えないといけないけれども、そこのタイミングの見方はやはり難しいなとは思います。

起業家へのティップス:日々の株価と金利チェックが上場への準備になる

石橋:
逆に、これ見ていただいている起業家の方が、今日の話を日々の思考のTipsとして持ち帰るのであれば、こういうところを見ておく、ないしはこういうものを勉強してキャッチアップしておくと、ご自身たちの取り組んでいる事業の成長ポテンシャルがおぼろげながらに把握できるんじゃなかろうか、こういうことをやるといいかもしれないです、みたいなTipsを最後にいただけるといいかなと思うんですけど、何かございますか?

児山:
上場株の目線から言うと、ちょっと事業と離れちゃうように聞こえるかもしれないんですけど、日々やっぱり株価と金利をチェックするっていうのはすごく大事かなと思っていて。

本当にその2つであれば多分5分ぐらいでチェックできると思うので、それがどうなっているのか見ながら、最後に自分が上場する1〜2年ぐらいのタイミングになった時に、マーケットってどうなんだっけっていうのを考えられるとすごくいいのかなと思います。

石橋:
ありがとうございます。ぜひ見ていただいている起業家の方、もしくはVCの方でも同じことを言えるのかなというか、あまりそもそもアナリストの経験を持たれている方が界隈にいないっていうのは、本来的に言うと未上場株のプロであればいいって話でもありつつも、そこは繋がっているので。

VC側がそういった知識もしっかり持っていることは大事かなって思いますし、最近であれば若手のVCさんだとあんまり金融業界出身じゃないこともすごくいい意味で増えてきてると思うので。

僕も元々金融業界ではないんですけど、そういうバックグラウンド知識はないので、ちゃんと僕ら自身もリスキリングして、結果的に起業家の人よりかはちゃんとプロであり続けないといけないなと思うので、勉強させていただきます。

未上場と上場が連続したキャリアで、業界はもっと盛り上がる

児山:
未上場と上場株がもっと連続したキャリアになると、より業界が盛り上がるのかなと思ってます。

石橋:
ある意味、これを見ていただいてるアナリストとかの人はいないかと思いますけど、もしVC業界のキャリアに関心があれば、最近求人企業いっぱいありますもんね?転職される時に結構いっぱいあったんじゃないですか?

児山:
そうですね、CVCだけでもいくつかありましたね。

石橋:
ぜひ業界に関心のある方はそういったところを見ていただければと思いますし、もしどこがいいのかわからない場合はご相談とかご連絡いただければなと思っております。それでは改めて全3話にわたりましてご出演ありがとうございます。

児山:
ありがとうございました。