ファンド総額1600億!900社以上IPOできた投資戦略|起業家を選ぶ基準とは【三菱UFJキャピタル 田口順一 vol.1】
◯田口順一 三菱UFJキャピタル株式会社 執行役員 投資第二部長
Twitter▶︎https://x.com/meganefutsaler
公式HP▶︎https://www.mucap.co.jp/
早稲田大学商学部卒業後、監査法人系コンサルティング会社に従事。
2001年よりダイヤモンドキャピタル(現三菱UFJキャピタル)にてベンチャー企業への投資業務に従事。
デジタル領域を中心にシードステージからレイターステージまで投資を行っている。
石橋
皆さんこんにちは。スタートアップ投資TV、GazelleCapitalの石橋です。今回はですね、三菱UFJキャピタルの理事、投資第2部長を務めていらっしゃる田口順一さんにご出演をいただきますので、田口さんよろしくお願いいたします。
田口
よろしくお願いします。
石橋
今回は三菱UFJキャピタルさんに投資を受けたい起業家さんが、この動画さえ見れば全て分かるみたいな動画にしっかり仕上げていきたいと思っておりますので、田口さんから色々ともう是非カジュアルに、気持ちを楽にして、ただ根掘り葉掘り聞いていければなと思っておりますので、今回から2本よろしくお願いします。
田口
よろしくお願いします。
石橋
ちょっとまず最初にですね、簡単にご経歴みたいなところに触れていただければと思うんですけど大丈夫ですか?
田口
大学卒業後、新卒はコンサルティング会社に入りまして、そこで3年半勤めて、その後に今の会社に転職して、それ以降24年ですね、一貫してベンチャーキャピタルを担当しております。
石橋
24年選手って田口さん目線でもあんまりいないですよね。
田口
ジャフコさんのように新卒から長くやっている会社さんもいらっしゃるので、業界の先輩はもちろんいらっしゃいますけど、金融系で中途入社ということに限ると、国内でおそらく一番長い人間じゃないかなと思います。
石橋
第2弾の動画では、田口さんが24年の社歴の中で3社さん、具体的にどういう投資先がいて、なんで投資したんだみたいな話は聞いていこうと思ってるので、そこは1個人としてもシンプルに楽しみにしています。ただ今回はUFJキャピタルさんについてお伺いをしていきたいんですけど、直近だとUFJさんでも何社投資先がIPOされてるんでしたっけ?
田口
そうですね。累積で言うと、本当に1974年創業のベンチャーキャピタルですので、もう900社を超える水準でIPO社数がありますね、会社としては。
石橋
てなると今、撮影現在マーケットで3800社ぐらい上場されてらっしゃるので、20%強ぐらいはUFJキャピタルさんが投資したところが今の上場企業ってことなんですね。
田口
そうですね。かつて、それこそリーマンショック以前、成長市場ができる前の時代は、ベンチャーキャピタル自体の社数も限られていましたし、銀行系の存在感も大きかったので、未上場の会社さんの上場のお手伝いをするということで、結構な社数に携わってきたっていう歴史があると思います。
石橋
実際、今までで累積900社、上場するようなスタートアップに投資してきていらっしゃる中で、足元だと大体いくらぐらいの投資運用金額(AUM)はいくらぐらいでやってらっしゃるんですか?
田口
今日現在で言うとAUMは1400億円ですけども、新規投資をメインでやっているファンドは、ジェネラル300億とライフサイエンス特化の200億の合計500億円のファンドが、基本的には新規投資をアクティブにやっているファンドになります。
石橋
金融機関系の中で言うとこれって大きいですね。
田口
大きい方だと思います。
石橋
しかも、どこかしらのレポートで、UFJさんの投資社数がずば抜けて多いみたいなレポートも出てましたよね。
田口
そうですね。各種、直近1年ぐらいで発表される投資社数のランキングで言うと、我々が一番アクティブに投資させていただいてるんですけど、あまり社数を競う業界ではないんですが、我々はMUFGのベンチャー支援の先兵として、幅広く国内のスタートアップに支援するというミッションを負っているベンチャーキャピタルです。
石橋
へえ、先兵なんですね。ちなみに、先兵具合で言うと僕の認識だと、この投資第2部っていう田口さんたちのチームがむちゃくちゃ数やってるイメージがあるんですけど、これ実際どうなんですか?
田口
うちの部でも年間今40社を超える水準の投資件数ですので、アクティブに投資しているのは間違いないんですけども、我々は分野ごとにある程度担当を持ってまして、ディープテックやライフサイエンスなどは他の部が担当してるんですけど、我々が見ている領域がデジタル領域ということで、BtoB向け、BtoC向け含めてですね、割とスタートアップの社数が多い領域ということもありますので、そこを我々の部としては積極的に投資させていただいてるということが数につながってはいると思います。
石橋
ありがとうございます。なので今回は、おそらく第2部のチームのお話がメインになってくるかなとは思うんですけど、改めて今足元のジェネラルファンドは300億円。このサイズで、どのぐらいのチケットサイズで、どういう領域で、どういう投資ステージみたいなところにフォーカスをしていらっしゃるのか、お伺いさせてください。
田口
領域は我々の担当はデジタルですけども、会社としてはIoT、生活関連、ディープテック、ライフサイエンスと本当に幅広く、ある意味上場を目指す領域ということに関してはオールジャンルでやっています。
それからステージも、本当に創業間もないシードステージから、グロースのフェーズ、IPO直前のレイターステージまで、全てのステージをやっているという、あまり領域とステージを絞ってないというところが特徴です。
チケットは1,000万円から5億円というところで、5億円超えてる事例もあるんですけども、基本的にはその中での投資が多いかなというところです。なので本当にシードVCの皆さんとシードステージにご一緒する時には、1,000万円から3,000万円というチケットサイズでも投資をさせていただいております。
リード・フォロー比率で言いますと、リード投資は分野やステージによっても違うんですけども、会社全体の1割から2割ぐらいがリードかなと思います。ただリードの定義も難しいですけれども。
石橋
個人的なイメージ、シードもリードも田口さんたちのチームしかやってないんじゃないかぐらいの勝手なイメージがあります。
田口
そんなことはないですね。シード投資、ステージが早いところが多い部なのは間違いないんですけども、例えばライフサイエンスの部では、リード比率はうちの部より大きいかなと思います。分野特化のファンドを切り分けて専門チームも作っていますし、時間もお金もかかる支援というミッションのファンドですので、リード投資の割合が、うちの投資ラインの中ではライフサイエンス分野が一番リード比率は高いかなと思います。
石橋
勝手なイメージですが、田口さんたちだからこそシードも、というのはあるんですけど、他の銀行さんとか金融機関系VCの方も、一般的にこういうシード投資ですとかリード投資ってやってるんですか?
田口
ここで他行さんのお話をするのもあれですけれども、一部もちろんリード投資をされているところは以前より増えてきているかなと思います。長く金融系ベンチャーキャピタルで働かれていて、IPO実績もあってトラックレコードが出ている方などが中心ではありますけども。
ステージに関しては、一定ステージが進んだところしかやらないという方針の金融系ベンチャーキャピタルさんもいらっしゃるかなと。やはり金融系のバックボーンなんで、銀行のネットワークでご支援できることを考えると、まだプロダクトができて、まさにこれから売上をつけるぞという手前の段階でできる支援って結構限られてますし、投資判断においてもステージが早くなればなるほど難しいという面もありますので、ここは各社カラーが分かれるというか、意識して早いステージに取り組むかっていうところは方針が分かれるかなと思います。
石橋
俗説かもしれないんですけれども、リード投資が金融系VCの方が少ないのは、5%ルールみたいな、金融機関系の方がスタートアップのマイノリティ株主になる場合は5%が上限だみたいな風の噂を聞いたことがあるんですけど。
田口
色々なスキームのやり方もありますので、弊社は別に5%と言わず、過去に自分で20%近くリードでやったケースもありますし、会社全体で言えばもっとシェアを持ってた過去事例もありますので、基本的にはそのシェアを超えられるスキームで投資はしています。
石橋
あんまりそういうレギュレーションがあるわけでもないっていうのが正しい理解なんですかね。
田口
そうですね。色々工夫をしなきゃいけない、契約の面とかはもちろんありますけども、基本的にはそういう5%などの縛りがあるわけではないですね。
石橋
なるほど、ありがとうございます。本当にある意味オールジャンルでオールステージに投資されてると思うんですけど、あえて言うと、田口さんたちの足元の代表的な投資先ですとか、直近のイグジット事例ってどんな会社さんになるんでしょう?
田口
なかなか個別銘柄に触れづらいんですけども、我々IPOの数が多い会社なので、年間直近でも1年間に何社IPOしたみたいなものは発表させていただいてるんですけど、一方でM&Aイグジットも最近すごく増えていて、直近1年で言うとM&A事例がすごく増えてるかなと。なかなかM&AだとNDAがあったりして代表事例みたいなのも発表しづらいんですが、本当に長くVC業界にいますけど直近M&Aは増えたかなという…すいません、ストレートにお答えできてないんですけど。
石橋
逆に、バイネームは触れにくいかもしれないですが、いわゆるアンチポートフォリオですね。投資をお断りしたとか、投資できなかった先で、むちゃくちゃその後成長した会社さんについて是非触れていただければなと思うんですけど。
田口
我々投資担当として、いい会社だなと思って投資委員会に臨むわけなんですけども、我々の力不足でなかなか理解を得られず、承認を得られなかった中で、短期間で凄い時価総額で上場した銘柄もあります。そこは自分自身がもっと解像度高く説明しきるべきだったなと。
あるいは過去の事例で言うと、私の先輩のベテランキャピタリストは、何回否決されても再チャレンジしているような精神があるので、自分自身、もっとチャレンジするべきだったなっていうのはまず一つあります。
それから、自分の判断で見送って上場した会社さんももちろんあって、その中で印象に残っているのは、複数社あるんですけれども、共通点としては社長のバックグラウンドが強い会社ですね。ベンチャー投資はファンドの期間が決まってるので、どうしても時間軸を考えるんですけど、社長もいいし事業もいいし伸びるだろうと。ただ、ファンドの時間軸でご支援するのは難しいんじゃないかと見送ってしまった会社が、私の想定より順調に伸びて、本来投資していればファンドの時間軸に間に合う形でIPOまで駆け上がったっていうところがあって。たまたまそういう事例の中で2社、元リクルート出身の社長の会社さんで、それからどうしてもプラス評価というか、数字にコミットして採用も強くて、みたいなところで、見送ってしまった反省として少しその影響を受けてるというところは正直ありますね。
もちろん我々が投資するときは社長が過去どう言うことをしてきたと言うことは、一要素として深掘りしてお話して判断させていただくんですけれども、その時のエピソードでいろいろな特徴があるというところ、もちろんリクルートさんに限った話ではないんですが、私が自分の判断で投資を見送ったが上場した会社さんが何社かいらっしゃって、反省しているところではあります。
石橋
ちなみにどういう事業をざっくりやってる会社さんなんですか?
田口
どちらもBtoBのビジネスだったんで、伸びる線の角度が、営業というか、一人の説明でわかりやすさみたいなところを啓蒙というか、マーケットを作っていくみたいなところと合わせてやっていかなきゃいけない部分もあったので、少し時間がかかるかなという風には当時判断したんですよね。
石橋
伏せますね〜。
田口
いやいや、そんなことないですけどね。
石橋
もしかしたらこの動画を見ている方で「あ、うちだな」と思うかたもいらっしゃるかもしれないですが、名前挙げすぎるとPRの方に「削除で」って言われちゃうと思うので伏せながらで、気になる方は田口さんに直接聞いてみるのもいいのかなと思います。
話をぐーっと戻しまして、金融機関系VCの方って、三菱UFJさんだけではなくて、みずほ銀行さんSMBCさん、地銀さん信金さんも合わせるとたくさんプレイヤーいらっしゃると思いますけど、こういう方々から投資を受けることの特徴とか強みって、一般論で言うとどういったところが整理されるんですかね?
田口
一般論で言いますと、やはり金融のバックボーンがあるので、まず資金の安定供給ですかね。独立系ベンチャーキャピタルの皆さんのファンド組成って不安定な側面もありますけど、親会社というか親銀行のバックボーンがあるというところで言うと、まずファンドが立つというところは一つ大きいと思います。
それから、取引先数というところで言うと金融機関はかなり多いので、幅広い業種に融資だったり様々な接点を持っているというところが銀行系の特徴ですので、我々の投資先のベンチャーさんに紹介するというチャネルとしては、そこをすごくご期待いただいてるというところはあると思います。
石橋
そうなるとBtoB向けの方がより良いって感じなんですかね。
田口
そうですね。うちの部でもtoC向けも積極的に投資してますけども、私の担当先で言っても半分よりはBtoB向けの方が多いので、部としてももちろんそうです。
石橋
一般論がある中で、三菱UFJキャピタルとしては、どういうところに起業家さんから見た時の特徴とか強み、場合によっては金融系VCからいくつかオファーが出た時に「いや、うちにした方がいいよ」みたいな理由ってどういったところになるんですか?
田口
いくつかあるかなと思うんですけど、やはりMUFG全体でスタートアップを支援すると言った時に、我々は銀行本体のベンチャー支援の部署だったり、三菱UFJ信託だったり、モルガン・スタンレー証券だったり、それぞれもちろんスタートアップに力を入れていて、密に情報連携をしています。
去に弊社に出向していた人間が戻って活躍してるという面もあって、元同僚がそれぞれのチームに必ずいますので、人と人との繋がりというところで、かなり密に連携できる部分は、弊社のグループの強みかなと思います。他行さんと比べてっていうところですけれども。
そこは結構長くやっていますし、出向者が戻っているケースは多いです。あと、銀行系って担当者の人事ローテーションがあったりすると思うんですけど、
石橋
3年くらいで変わるイメージありますね。
田口
はい。我々は私自身が中途で入社しているように、出向者・転籍者と我々のような中途入社とのハイブリッドな組織でして、私が入社した24年前から中途採用の者が投資を継続しているというところでいうと、例えばライフサイエンスのヘッドの長谷川も弊社で長い人間ですし、各所にそういう長い人間がいることで、ご支援の継続性というところが担保されているというのも弊社の特徴かなと思います。
石橋
改めて、三菱UFJキャピタルさんの特徴は分かったんですが、田口さんないしはUFJさんとしてこの1、2年はこの領域とかこういうビジネスに投資していくべきだと思っているような、注目してる市場とかビジネスってあられますか?
田口
我々は領域は幅広く、私自身のやり方としては結構人にフォーカスして投資したいなって気持ちになることが多いので、特段一つの領域っていうことではないんですけど、やはり過去で言うとそのスマホシフトが起きたり、AIが出てきたりとか、そういう環境変化がある時に、AIそのもののベンチャーに投資するというよりは、その環境変化の中ですごく色々な産業に大きな変化があると思うんですよね。そこをいち早くキャッチアップして、新しいビジネスを組み立ててチャレンジしてる起業家というところはやっぱり注目してますね。
石橋
今で言うとそのAIシフトみたいなところで、業界特化型とかのところから始まるんですかね。
田口
そうですね。そこはすごく我々の投資先でも伸びてるところも多いですし、今のタイミングでは注目しているところではありますね。
石橋
田口さんって業界の好き嫌いとかってあるんですか?割とジェネラルなイメージあるんですけど。
田口
逆張りとかっていうわけじゃないんですけど、みんながいいって言う会社さんだけをやってると、ベンチャーキャピタルってパフォーマンスが出ないので、他の人があんまりやらないけど、そこに早めに投資しようという意識はやっぱりあるので、割とその時に狙ってこの領域やりたいなと思うことはありますね。
石橋
ちょっと第2弾の動画で具体的にお伺いするので、そういう話も伺えればと思います。最後に田口さんの方から、三菱UFJキャピタルとして、投資第2部として、今後どういうところを目指しているとか、成し遂げていきたいみたいなのを、一個人でも構わないですし、是非起業家の方々に向けてメッセージをいただければと思います。
田口
我々はMUFGという安定したバックボーンがありますので、次世代の産業を作っていくような成長企業を幅広くご支援したいと、会社としても私個人としても強く思っているところであります。特に銀行系というと、数字が出て黒字化してからじゃないと、みたいなご懸念をいただくこともあるんですけども、我々はステージが早いところからお付き合いして、投資を積極的にやっております。そのタイミングで投資できなくても、これからこういうことをやるっていうお話を聞かせていただいて、その半年後、1年後に実際どのぐらい実現しているかみたいなものを見させていただくと、我々としては投資確度が上がっていくということになりますので、是非、幅広い起業家の方にですね、ご相談いただければと思います。
石橋
それでは改めて田口さん、ありがとうございます。第2弾の方では、田口さんの具体的な投資先の事例にしっかり深掘りをして、もうちょっと細かなところのお話もいただければと思っております。それでは田口さん、今回もご出演ありがとうございます。
田口
はい、ありがとうございます。
石橋
皆さん次回もお会いしましょう。さようなら。
“人”に向き合う金融系VCが惚れ込む起業家像|事例で見る投資判断【三菱UFJキャピタル 田口順一 vol.2】
・美容整形領域で挑戦する「株式会社トリビュー」
・建設DXに挑む「クラフトバンク株式会社」
・高齢化社会の課題に挑む「トリニティー・テクノロジー株式会社」
石橋
皆さんこんにちは。スタートアップ投資TV、GazelleCapitalの石橋です。今回はですね、前回に引き続きまして、三菱UFJキャピタル理事、投資第2部長の田口さんにご出演いただきまして、田口さんたちがどういう具体的な投資先に、なんで投資したんでしたっけっていうところにフォーカスをしてお伺いをしていきたいと思いますので、田口さん今回もよろしくお願いします。
田口
よろしくお願いします。
石橋
早速なんですけれども、今回3社あげていただこうと思うんですが、まずは一旦その3社の社名だけ触れさせていただいても大丈夫ですか?
田口
クラフトバンクさんと、トリニティテクノロジーさんと、トリビューさんを、私が直接担当していて、割とステージが早いところから継続的にご支援してるというところで、今回選ばせていただきました。
石橋
正直どちらも僕個人としては、「ああ、いい会社に投資されてるんだな」っていうのがすぐ分かるような会社さんなんですけれども、おそらくこの配信の3ヶ月前ぐらいですかね、トリビューさんの毛さんにもご出演いただいた回がありまして、概要欄にその動画のURLを記載させていただいているんですけれども、是非トリビューさんから、なんで投資したんだっけみたいなお話を具体的にお伺いしていきたいんですが、改めてどういう会社さんで、いつぐらいに投資をし始めたのか、お伺いしても大丈夫ですか?
田口
我々はトリビューさんへの初回投資が2019年になります。その後2021年と2024年の2回、追加投資をさせていただいてます。
石橋
2019年で言うと、改めてトリビューさんの事業ってどういうことやってらっしゃって、どういう事業ステータスだったんですか?
田口
美容整形の写真共有アプリと口コミのメディアですね。どうしても美容整形の領域って情報の非対称性があって、クリニック発信の情報だけでは選びづらいとか、リスクを正しく判断するとか、どの病院のどの先生がいいんだろうというところで、かなり情報が不足してるというところを解消するサービスとして、当時トリビューさんが運営されてました。
石橋
2019年ってなると、今ほど美容整形が市民権を得てるようなイメージもない時期なのかなと思いますけど。
田口
そうですね。もちろん当時も美容整形のマーケットって大きくはあったと思うんですけど、美容皮膚科とかアンチエイジングとか、施術が増えたり、より一般化したというところで言うと、芸能人がテレビで触れたりとか、増えたとは思います、この期間に。
石橋
2019年当時、トリビューさんってどのぐらいの事業規模だったんですか?シードですか?
田口
シードとまでは言えなかったと思うんですけど、ただ売上は、今の規模からするとそれこそ100分の1とか、ほとんどなかったですね。
石橋
毛さんからもお聞き覚えありますけど、2年間ぐらい売上ほぼゼロで、ユーザーの方をめちゃめちゃ向いてやってたけど、マネタイズ始めたら思ったより売上が立たなくて、すごい壁を2段ぐらい超えてきたんだ、みたいな話は聞きました。
田口
まさにそうですね。初回投資したタイミングでは売上はあまりなかったです。
石橋
当時、売上もない中、トリビューさんに投資をされたと思うんですけど、偏見かもしれないですが、1男性からすると、そんなに美容整形って個人的な手触り感はないし、身近だとも感じにくいと思うんですけど、田口さんたちとしてどういう可能性を見出して、そのタイミングで、しかも売上がほぼないトリビューさんに、「いや、これはこうなるはずだろう」みたいな仮説を持って投資されたんですか?
田口
私自身、結構昔に、上場までは至らなかったんですが、ドクターズコスメの会社さんに投資をしていたことがあって、投資した時点では結構企業は小さかったんですけど、その後すごく順調に成長されまして。リーマンショックとか東日本大震災とか、結構な数のベンチャーが業績にダメージを受けるイベントを挟んだ際に、全然関係なく伸びてたんですよね。なので、不景気に強いというか、必需品なんだなと。美容の領域ってすごく悩みも深くて、でも情報としては不足してるみたいなところがありましたので、領域的には社会的な意味もあるというか、正しい情報が悩んでる人たちに届くサービスとしてはいいなという風に思いました。
石橋
そういう売り上げもなくラウンドも早いとなると、1話目でもお話のあったように創業者の方、毛さんの良かった点、どういったところが評価が高かったポイントだったんですか?
田口
毛さんも元リクルート出身なんですけれども、やはり領域の解像度が高くて、数字とか色々なところにこだわって、サービスのクオリティとかもこだわってというところもすごく魅力に感じましたし、割と初期からですね、CTOの小尾さんを早くから捕まえていて。デューデリジェンスの期間も小尾さんと結構お話しさせていただいて。ああいうプロダクトはUI/UXも大事ですし、その後の展開を考えてもCTOはすごく重要な領域ですので、小尾さんがいたというところは、我々が初回投資した時にはもういらっしゃいましたので、そこも一つ評価させていただいたポイントでありますね。
石橋
元リクルートに引っ張られている気もするので、一旦田口さんがどういう起業家の人たち、チームに魅力を感じるんですか?
田口
やはり事業の解像度というか、その業界で何をしたいかという想いみたいなところは明確にあって、かつ過去に課題に取り組まれる際に、どういうところにを重要視して、何にこだわって努力されてる方なのかっていうところは結構着目してますね。
石橋
なるほど。初めましてで投資検討するってなると、やっぱりしっかり過去でどういう向き合い方してるのかって当然すごく重要ってことですね。
田口
もちろん仕事に限らず、学生時代のエピソードとかも含めてというところですけども。特に若い起業家さんは前職がない方もいらっしゃるので、我々は学生起業の投資先も私も何社かあるんで、別に前職で何をしてきたかだけがポイントではもちろんないんですけども、今までどういう考え方で何をしてきたかっていうところはやはり聞かせていただいてますね。
石橋
合計3回、追加出資も含めてされてらっしゃるという話でしたけど、どういったところで追加投資していこうっていう決め手になったんですか?
田口
毎月その定例の会議で相談を受けてますので、事業進捗というところはしっかり見させていただいて、概ね順調に成長されてるので、追加投資は比較的に社内でもスムーズに意思決定されました。トリビューさんの場合は、追加投資の意思決定というより、やっぱり初回投資がかなり意見が分かれる、売り上げもなかったので、喧々囂々あった投資委員会ではあったので、結構思い出深いというか、投資できてよかったなっていうのは担当として思ってますね。
石橋
ありがとうございます。今回はtoC向けの1社目の事例でしたけど、1本目の動画でも、やはりtoBとのシナジーがいいっていうのは三菱UFJキャピタルさんとしての特徴の1つなのかなと思いますし、残りの2社はtoBのビジネスをやられてらっしゃると思うので、次の会社についてもお話伺えればと思うんですが。
田口
2社目がですね、クラフトバンクという会社さんです。
専門工事会社とか地場の中小のゼネコンさんとかに、経営管理システムとかを幅広く提供してるベンチャーさんなんですけども、初回投資は2021年の5月で、前身の内装工事会社からのスピンアウトという形で、設立2ヶ月目のタイミングで投資させていただいてます。その時、韓社長のFacebookで「ノールックかと思う意思決定の速さで」みたいなことも書いていただいて。もちろんノールックといっても、ちゃんともちろん人となりは見てるんですけども、そういう意味で言うと、早いステージで初回投資をさせていただいてます。
石橋
改めて、どういうマーケット課題、お客様の課題にクラフトバンクさんは向き合ってらっしゃるスタートアップなんですか?
田口
国内で技術もあってという職人さんがたくさんいらっしゃる中で、やはり人手不足の課題がある中で効率化を進めるというところで、DXはすごく課題がありまして、そこのペインを解決するというところにチャレンジしてる会社さんです。建設業と一言で言っても、商業施設を作ってるところなのか、マンションをやってるのか、工事の中でどのプロセスをやるのか、規模によっても地方によってもということで、産業としてはすごく大きいんですけども、一つ一つニーズってそこまで共通じゃないものも結構あって。その一つの領域の中で、結構解像度高くチャレンジしてるなっていうところを、私としては期待して投資させていただいております。
石橋
韓さんはスピンアウトしてやってらっしゃると思うので、どういうご経歴の方なのか。売り上げがなかったということなので、だいぶチームのところの評価もあったんじゃないかなと思うんですけど、そこら辺っていかがですか?
田口
韓さんもですね、これも別に狙ったわけじゃないですけど、リクルート出身の起業家で。その後内装工事を手掛ける会社の経営もされて、今のクラフトバンクの前身となる事業だけをスピンアウトさせている経緯もある方です。リクルートで事業の経験もされていて、その後、内装工事会社で業界の状況とかも見られていて、その上で起業されているので、本当に業界の解像度も高く、事業の経験もしっかりあるというところで、そこはすごく評価できるポイントでもありました。私がいいなと思ったのは、自分の世代じゃない、一世代以上若い、意欲の高い人材を実際に採用できていて、かつ活躍する場を作っていくというところに、すごく意欲的に取り組まれていて、そこはすごく高く評価してるポイントです。
石橋
人としての魅力がある、事業解像度だったり業界への知見がありつつも、MBOされたばかりで、まだまだ事業トラクション、実績が少ない中で、ノールックで投資したんじゃないかと思わせるぐらいのスピードを持って検討するってなかなか難しいと思うんですけど、実際、建築建設業界特化のSaaSっていう単位だけ見ると、競合もいっぱいいるじゃないですか。どんな見立てをしてらっしゃって、「いけるっしょ」ってなったんですか?
田口
それを言うとですね、出資を意思決定したタイミングではSaaSベンチャーですらなかったので。
石橋
あ、そうなんだ。
田口
何をもって仮説と合ってるかって難しいんですけども、「馬力があって突破力がある社長だな」「採用に強い社長だな」「若い世代を生き生きと働かせられる社長だな」っていうところの仮説は間違ってないんですけど、それ以外はたいして合ってないっちゃ合ってないですね。
石橋
ちなみに当時はどんな事業だったんですか?
田口
マッチングのウェイトが事業計画上、大きかったです。なんで、まだSaaSは提供してなかったですし、将来こういうことをやるみたいな構想はもちろんありましたけど、仮説にどのぐらい合ってたかって言われるとちょっと難しいんですけども。
石橋
彼らの今後の成長で言うと、どういうところまでやってくれることを期待している、みたいなイメージなんですか?
田口
すごく地味なというか、地方も含めて、マーケティングの仕方とか課題解決みたいなところを愚直に真面目にやられてる会社さんなんで、そこはすごく期待しています。将来的には、なかなか日本のSaaSベンチャーが海外展開で成功するという事例がまだ少ないので、海外でのチャレンジも期待してます。
石橋
ありがとうございます。是非最後のトリニティテクノロジーについても触れていただければと思うんですが、僕自身、側で見ててもいい会社だよなって思いながら、よくお名前は聞いてますし、ラウンドもかなり大きくなってらっしゃいますね。
田口
そうですね。
石橋
直近だとシリーズCぐらいですか?
田口
そうですね。
石橋
改めて、トリニティテクノロジーさんに田口さんたちが出資したタイミングとか規模で言うと、どんなイメージだったんですか?
田口
初回投資が2021年で、追加投資が2023年。初回投資のタイミングは、最初のVCが入るラウンドで、我々もジャフコさんとかとご一緒させていただいていて。私自身が投資したいという風に、先方の磨社長に伝えたのは、本当に創業まもない時で、司法書士グループを経営されているところからベンチャーを立ち上げられるタイミングで、たまたま縁があってご相談を受ける機会があった時の、本当に初対面で「投資したい」と伝えました。あんまりそんなにたくさんないんですけど、初対面の時に、私は決済権ないんですけど、「絶対に投資します」と。
石橋
へえ。
田口
「絶対投資します」という風にお伝えした、本当に数少ないところで。今でも磨さんから、「創業したばっかりの時にそう言ってくれたことは嬉しかった」という風に言っていただけるので。もうお会いして、馬力というか、目力というか、パワフル、エネルギッシュ、総エネルギー量が多い方だっていうのは、当時の印象ですごく覚えていて、今もそれはすごく感じます。
石橋
それって、いつぐらいに出会って、21年に投資されてるってことは、何年越しに出資されたんですか?
田口
創業からは多分1年半ぐらいは経ってるタイミングだと思います。トリニティテクノロジーさんって、高齢者向けのサービスを幅広くやられてるんですけども、元々出発点としては「家族信託」ということで、認知症になられる方の資産凍結をカバーするソリューションを提供するというところが出発点ですので、私がお会いしたタイミングでは、家族信託に関連するソリューションを始めるというところで接点を持ってます。
石橋
家族信託系はすでに2社ほど大きめのスタートアップがいらっしゃったと思うんですけれども、市場にああいう話が出てきた時に、「絶対にいいマーケットだな」と個人的には思ったんですけれども。田口さんもそれで最初、もう「絶対通します」って感じだったんですか?
田口
それで言うと、あんまりその家族信託の普及みたいなものは、いいスキームだとは思うんですけど、やはり条件というか、理解を得るというところは時間かかると思いましたし、1つの事業として短期間でIPOするにはニッチな市場だと思いました。私自身も、トリニティテクノロジーさんに投資させていただいたのは、家族信託を評価したというよりは、磨さん当時から、やはり高齢化というのは日本の優先課題だと思っていて、そこのいろんな課題に取り組むというところを順番にやっていくみたいなビジョンもちゃんとある経営者で、そこはすごく「この人だったらやってくれるんじゃないかな」っていう期待感のウェイトが高くて。高齢者向けのサービスでいい企業がいないかなっていう意識が私の中にあって、そこにミートしたっていうところが、「投資したいな」と思わせてくれたポイントですね。
石橋
高齢者向けだったらいいってわけじゃ当然ないじゃないですか。トリニティさんはどういう角度でそこのマーケットにエントリーしていたから、こういう成長仮説作れるんじゃないか、みたいなどういう見立てだったとかってあります?
田口
ただこれはもう、初回投資はですね、もう本当に磨さんの「人」です。人って言った時に、どういうことをやりたいかってお話を聞くのもそうなんですけども、例えば人からアドバイス、何か吸収した時にそれを実行するっていう部分って、結構個人差がもちろんあるんですけど、磨さんはもうそこはズバ抜けて素晴らしいなと思っていて。いろんな方から素直に学びを得て、それをもう本当にスピード感を持って取り組むというところを本当にそのひたむきさというか、そういうところを見させていただいて、っていうところですね。初回投資に関してはもう本当にそうです。
石橋
2回目の投資はどういう理由で?
田口
2回目の投資はもう業績も順調に伸びてきていたので、そこのフェーズで必要な資金もっていうところで、我々も既存株主として継続して支援させていただいたっていうところになりますね。
石橋
ああいったマーケットの事業ですと、やはり金融機関と組むとか、UFJさんとしてできることとか貢献できる幅みたいのって、当然やっぱり広がるんですかね。
田口
そうですね。現在のトリニティテクノロジーさんはすごく幅広い事業、家族信託以外にも、おひとりさまの高齢者の課題をお手伝いする「おひさぽ」ですとか、相続とか事業承継とか、様々な取り組みをされてますので、我々もMUFGの中の該当部署を順次お繋ぎして、協業が進むというところも、もちろん期待されて我々の株主として参画してますので、ご支援できたらなという風に思ってます。
石橋
最後に、トリニティさん、磨さんたちに今後期待してることでいうと、どんな感じになりますか?
田口
誰もが年齢を重ねて、私も今50歳なので、自分自身の両親の年齢とか、本当にその課題っていうのはすごく身近なことというか、誰にも訪れるところですので、そこにいろんなサービスを提供することによって、待ってる人に届くといいなというところで、トリニティさんが飛躍していくと、その辺りの悩んでる、困ってる人が助かっていくというところに、すごく期待してます。
石橋
ありがとうございます。前回田口さん出てもらったのが3年、4年前でして、また3、4年後にこの動画を見ると、トリビューさんとクラフトバンクさんとトリニティテクノロジーさんが、場合によっては大きな成果を上げてらっしゃって、答え合わせ的な動画にもなる可能性はあるのかなと思いますので、是非皆さん数年後にもですね、田口さんの投資仮説が、UFJキャピタルさんの投資仮説が合ってたのかみたいなところは、答え合わせ的にも見ていただければなと思っております。
田口
そうですね。
石橋
それでは改めて田口さん、全2話にわたりまして、ご出演ありがとうございます。
田口
はい、こちらこそ貴重な機会をありがとうございました。
石橋
皆さんも是非ですね、田口さんたちから出資受けたいとか、三菱UFJキャピタルさん全体のお問い合わせも是非していただければなと思っております。
それでは次回もお会いしましょう。さよなら。