【200億ファンド】2人で25社IPO|実力派VCが語る“投資基準の全て”【ALPHA 田中 正人 vol.01】
◯田中 正人 ALPHA General Partner
X(Twitter)▶︎https://x.com/masato611
公式HP▶︎https://alphavc.jp/
法政大学情報科学部コンピュータ科学科 卒業
2007年 SBIインベストメントに入社。ビジョナル、BASE、ANYCOLOR、ミンカブ、ギックス、Rebase、リンカーズなど16社のIPO企業への投資・育成・EXITを実施
2009年 クーポン事業を運営するシェアリー社を立ち上げ代表取締役に就任、社員数100名超の規模へ成長させ2012年に楽天へM&AでEXIT 2012年から2015年にかけて留学エージェント大手の経営再建に従事、M&AによるEXITを実施
2020年 大学のディープテック、研究シーズに投資をする専門会社を立ち上げ
2022年7月 オリックス・キャピタルのマネージング・ディレクターに就任
2024年 ALPHAを創業。
SBIインベストメントで16年、オリックスを経て独立へ
石橋:
はい、皆さんこんにちは。スタートアップ投資TV、Gazelle Capital株式会社の石橋です。
今回からは、株式会社alpha(ALPHA) General Partner の田中さんにご出演いただきますので、田中さんよろしくお願いします。
田中:
よろしくお願いします。
石橋:
すでにALPHAさんが200億円規模の1号ファンドを組成完了したというニュースが出た直後に配信をさせていただいていることかと思います。
この動画さえ見れば、これからALPHAの田中さんたちに出資検討してもらいたいという起業家さんが、ALPHAの全てがわかりますという動画に仕上げていこうと思っております。
いろいろお答えしにくいこともご質問させていただければと思いますので、改めてよろしくお願いします。
田中:
よろしくお願いします。
石橋:
ALPHAさんの200億円ファンドは足元ができたばかりだと思うんですけれども、そもそもここに至るまでの簡単な田中さんのご経歴だけお伺いできればと思いますが、お願いしても大丈夫でしょうか?
田中:
私は2007年にSBIインベストメント株式会社に入りまして、それから16年ほどSBIインベストメントの投資部門におりました。その間、スタートアップの経営を2社、6年にわたってやったりとか、最後は投資部の執行役員ということで国内投資を広めに見させていただいておりました。
直近2年は、オリックス・キャピタル株式会社のベンチャー投資の責任者をやらせていただいて、昨年の末に立岡と川西という3名でALPHAを創業しました。
石橋:
ありがとうございます。過去にオリックス・キャピタルさん時代の田中さんとしてYouTubeにすでに出ていただいておりまして、過去のご経歴的な動画は概要欄に記載させていただいておりますので、ぜひそちらからご覧いただければなと思っております。
なんで今1号ファンドとして独立を選ばれたというか、もともとSBIインベストメントさんの中でトップキャピタリストでスーパーエースみたいなことを張っていたわけだと僕は思っているんですけど、その思いとか立ち上げる背景みたいなところを含めてお伺いしたいんですがよろしいでしょうか?
田中:
いくつかの複合要因にもあるんですけど、一番大きかったのが共同パートナーをやっている立岡の存在ですね。今回ALPHAを立ち上げたのは立岡から声をかけてもらったのがこのタイミングです。
石橋:
田中さん発進というよりかは、立岡さんからこのタイミングでお声掛けもあって2人で独立しようというところは、マーケットの市況というよりはそっちのタイミングが大きかったという感じなんですね。
田中:
人のところというのが一番大きいです。
25社のIPO実績、700億円超のリターン
石橋:
1号ファンドに200億円をレイズしきるというのはだいぶ異例だなと、素直に思うところでもあるんですけど。
簡単に自己紹介の延長線上でいいので、田中さんと立岡さんのトラックレコード、投資実績みたいなところを簡単にバイネームで出していただいて、何社新規株式公開(IPO)をしていてとか、何社合併と買収(M&A)でイグジットしていてとか、そういうのはどんな感じなんでしたっけ?
田中:
2人でこれまで投資している中で25社のIPOに投資をさせてもらっています。その25社については100億円ちょっとの投資が800数十億円になっているので、IPOした案件だけでも700億円以上のリターンが出ている。
石橋:
IPOだけでもってことですね。
田中:
代表的な企業様で言うと、立岡のところで言うと株式会社メルカリさんとか、あとラクスル株式会社さんとか、あとウェルスナビ株式会社、あとは株式会社クリーマさんとか、あとはIPOではないんですけど長期大型のM&Aが決まった株式会社UPSIDERさん。
石橋:
いいですね。700億円強ぐらいでのM&Aになっていますもんね。
田中:
そうですね。
石橋:
ミドルサイズぐらいのIPOよりよっぽど大きいM&Aですもんね。
田中:
そうですね。今後楽しみなとこだとキャディ株式会社さんとか、テイラー株式会社さんというところに立岡は投資をしてます。
石橋:
お名前めちゃめちゃ分かりやすいですけど、田中さんの方はどういう感じなんですか?
田中:
ビジョナル株式会社さんとか、あとはBASE株式会社さんとか、ANYCOLOR株式会社さん、自分っぽい投資だと思っているのは、コンサルで上場したリックス株式会社さんとか、そういったところ。
今後楽しみなところだと、五常・アンド・カンパニー株式会社さんとか、あと株式会社Sales Markerさん、ペイトナー株式会社さんとか、こういったところが私の投資先になっています。
石橋:
なるほど。本当にめちゃめちゃご実績のある2人が今のタイミングで、2人のタイミングありきで独立をされて今という感じなんですね。
田中:
そうですね。
金融庁のEMP取り組みが後押し
田中:
あともう一つ個人的に大きかったのが、2023年の末頃だったと思うんですけど。
金融庁からエマージング・マネージャー・プログラム(EMP)の取り組みの発表がありまして、当時から金融庁の関係者の人にいろいろ聞いていくと、金融庁としては資産運用立国を目指す中で独立系のファンドマネージャーを育成していきたいという思いがあって、やっぱり日米を比較すると日本というのは系列系の大手の運用会社のシェアが大きくて独立系が少ないというところで。
もちろんベンチャーキャピタル(VC)に限らず、プライベートエクイティ(PE)ファンドとか不動産ファンドも含まれるんですけども、一定VCの独立系のファンドマネージャーも育成していくというような指針が発表されまして。
この取り組みがどこまで本物なのかとか、大きな流れになるのかは当時は全くわからなかったんですけども、我々はもともと機関投資家さんに評価されるVCになりたいというふうに思っていたので、もし起業する、独立したVCを作るんだったら、このタイミングしかないんじゃないかなということもありました。
石橋:
なるほどですね。EMPについてはぜひまた別動画を個人的にも撮りたいなとは思っているので。
確かに田中さんたちとかALPHAさんはEMPのむちゃくちゃ最適解中の最適解というか、めちゃめちゃ綺麗な事例でも結果論ありますもんね。
実際200億円のレイズができたうち、機関投資家さんの比率もやっぱり結果として高いんですか?
田中:
そうですね、9割超あります。一般論として機関投資家は初号ファンドを出しづらいというのがあるんですけども。
石橋:
いわゆるそのファンドとしての実績はまだ出てないからということですね。
田中:
そうですね。それは大いに金融庁の働きかけ、EMPの後押しみたいなのもあったんじゃないかなというふうに思っています。
シリーズA前後が主戦場、月2社ペースで投資
石橋:
ありがとうございます。ALPHAさんにこれから検討いただくような方々、ご相談したいなという方にとっての有意義な情報だと、やっぱりファンドサイズはわかっているんですけど、改めてどういう領域に投資をするとか、どういうチケットサイズでとか、リード・フォロー投資でとか、そういう基礎情報をいただいていければと思います。
足元ちょうど200億円のファンドがクローズしたばかりで、今多分めちゃめちゃ投資欲が高い時期だと思うんですが、この収録時点で公開されているのは株式会社RENDEZ-VOUSという車領域のスタートアップに投資をされているかと思いますが、もう結構コミットメントというか、投資は始まっていらっしゃるんですか?
田中:
そうですね。結構なハイペースで今投資をどんどん決めていまして、足元で8社(2025年12月16日リリース時点)の投資委員会を通過しています。
石橋:
早いですね。月1ペース以上ぐらいでガンガンやっているということなんですね。
田中:
もう月2社ぐらいのペースで投資しているという感じです。
石橋:
ちなみにRENDEZ-VOUSさんはもう公開されているので、車領域、特にスーパーカーの領域ですけど、他の5、6社さんというとどういうカテゴリーの、どういうテーマの方々だったりするんですか?
田中:
特徴的なのが結構大きな挑戦をしている会社さんで、宇宙に挑んでいる会社さんとか、ロボット関連の会社さんです。
石橋:
ゴリゴリハードウェアなんですね。
田中:
そうですね。簡単ではないと思うんですけど、上手くいったら世の中を大きく変えるようなことに挑戦している起業家にも投資をさせてもらっています。
石橋:
ラウンドはもうシードからレイターまで、それも完全にオールラウンドなんですか?
田中:
基本的にはシリーズA前後を主戦場とさせていただきながら、一部シードだったりレイターもやっていくということを考えています。
石橋:
理解です。ALPHAさん、田中さんの思うところのシリーズAは数字でわかりやすく表現すると、どのくらいのイメージですか?
田中:
バリエーションで言うと、7~8億から30~40億円くらいの企業様だと一番コンフォータブルというか、検討させていただきやすいですね。
初回投資1億円から、最大15億円まで追加投資
石橋:
めちゃめちゃイメージしやすいです。大体入口のラウンドによるという話があると思うんですけど、仮にスイートスポットのシリーズAラウンドだった場合は、ALPHAさんからは一番最初の入口はいくらぐらいから出資をされるようなイメージなんでしょうか?
田中:
大体1~5億円ぐらいを最初の投資として考えていて、一応追加投資を積極的にやっていく方針なので、2回3回上手くいっている企業様には投資をさせていただいて、最大10~15億円ぐらいまで投資をしていくというような方針ですね。
石橋:
理解です。基本はリード投資をするという前提で認識していいんですかね?
田中:
一応ALPHAとしては7割前後ぐらい、結果的にはラウンドのリードをやらせてもらうんじゃないかなというふうに思っています。
ただリード投資だけしかやらないようなVCさんがあると思うんですけど、我々はそこまではこだわってなくて、いい起業家様であればフォローでもしっかり投資をさせていただきたいなというふうに思っています。
石橋:
理解です。ALPHAさんとしてはかなり幅広、めちゃめちゃ大きいところもやるし、ニッチなところも触りに行くし、エントリーはシリーズA前後が多いけど、みたいなところでかなり幅広なイメージなんですね。
田中:
ALPHAとして常に考えているのは、大きな夢を実現してあげることを全力で応援したいと思っていて、ただそれだけだとファンドのリターンの安定性とかも欠けるので、しっかりリターンを出せるところにも投資していくと。
VC経営はどっちかだけでは成り立たないと思うんですよね。このバランスをしっかりとっていく、この狭間で自分なりの解を出していくというのがALPHAのチャレンジかなと思っています。
投資判断は最短1~2週間、意思決定は2人で
石橋:
いいですね。これからこの動画を見た起業家さんが何ヶ月間ぐらい、初回面談を田中さん達にしていただいてからデューデリジェンス(DD)だったりとか、投資検討のところのスケジュールを見立てておくと、期待値ズレがないよね、みたいなスケジュールのイメージになるんでしょうか?
田中:
基本的な資料が全部そろっている前提で、1ヶ月前後で投資委員会とできるような段取りで進んでいます。
ただ、基本、私と立岡で投資の意思決定ができるので、大枠の方針と言うんですかね、デューデリジェンスで大きな問題が出てこないことを前提に、1~2週間ぐらいで、GOをさせていただくようなスピード感で起業家様ともやり取りしていきたいなと思っています。
石橋:
いいですね。そこのエッセンスというか、どういうふうに投資先を見極めているとか、起業家さんは何が大事だと思っているというのは、2本目とか3本目で詳しくはお伺いしていきたいと思っているんですけれども、これはALPHAというよりは田中さん目線だと思いますけど、その上場後も投資したくなる会社は、要素分解すると何を満たしていると、みたいなイメージになるんですか?
構造的に成長し続ける事業を見極める
田中:
僕はよく言うのは、構造的に成長し続ける事業なのかどうかというのを見ています。もうちょっとブレイクダウンすると、まずついているマーケットがしっかり5~10年中長期で成長していくかとか、ユニットエコノミクスだったり収益性だったり資本効率だったり、そういうところで上場後の投資家からもしっかり評価されるようなビジネスになり得るのかというところを見させてもらいます。
僕らが投資をするときにはそこまで強固なビジネスは作れていないんですけども、そういった予兆があるのかとか、そういうところが自分の目利きのポイントかなと思っています。
石橋:
先ほど名前が挙がったビジョナルさんだと、どんなところがここは絶対にいけるなというポイントだったんですか?
田中:
一番マクロ的に大きかったのは、南さん(ビジョナル株式会社 代表取締役社長)もよく言っている、人材の流動性がどんどん高まっていて、人材紹介関連のビジネスが急拡大していく中で、彼はもともと日本版のLinkedInを作ろうと思っていたんですけど。
そこをすごく柔軟にローカライズしていって、今のビズリーチになっていると思うんですけど、プラットフォームになり得る素地があったので、すごく可能性があるんじゃないかというふうに思いましたね。
ビジョナル投資の裏話、10億円が1億円に
石橋:
あとは当時の経営チームとかトラクションというところから、わりと当時でいうと結構大きい金額を投資されたんですか?
田中:
実は悔やんでることがありまして。当時、私なりに自信があったので投資委員会に10億円でかけさせてもらったんですよ。
石橋:
10億円投資しようと?
田中:
そうです。
石橋:
結構デカい。当時のビジョナルさんはそれこそシリーズAぐらいということですか?
田中:
シリーズAでした。時価総額が200億円とかになってはいたんですけど、ジャフコ グループ株式会社さんがシードステージに投資した後の次のラウンドということで。
石橋:
2回目で200億円だったんですね。そこに10億円のオファー出そうとしてたんですね。
田中:
そうですね。ただ投資委員会であまり私の説明が伝わらなかったこともあって、しっかりビジョナルの魅力が伝わらなくて、多くの人に反対されて1億円に減額になったんですね。
石橋:
10億円予定が1億円になったんですね?
田中:
そうです。
石橋:
当時はシリーズAラウンドでしたけど、今となっては何倍ぐらいで、10億円投資してればどんぐらいのリターンが出るはずだったということなんですか?
田中:
IPO時の株価で言うと9~10倍ぐらいになっていた。
石橋:
本当は、10億円の10倍で100億円ぐらいのリターンが発生するはずが、1億円投資をしていたので1億円が10億円になって帰ってきて、田中さんの見立て通りいっていれば90億円ぐらい機会損失しているかもしれないということですね。
田中:
そうです。最終的にはビジョナルが上場を決まったときに北尾さんに報告しに行ったら、「なんでお前は1億円しか投資してないんだよ」とすごい激詰めされるという。「いやいやいやいや……」と思って言えなかったんですけど。そういう裏話もあってすごく印象に残っています。
石橋:
今みたいなお話で、田中さん的には「これ一発目から5億~10億円いけるぞ」というときにも、仮に意見が2人で割れたときとかはどういうふうになっていくんですか?
田中:
ALPHAについては、形式的には私たちお互いに拒否権を持っているような形になるんですけども、いい投資先を見つけるアプローチとか案件を作っていく流れも違うので、基本的にはよほどのことがない限り、相手を尊重して、パートナーが投資したいという案件は通していこうというような枠組みでやっています。
石橋:
ちゃんと拒否権もあって、2人で決めているということではあるんですね。
田中:
ただ、ほぼ毎日のように一緒にミーティングしているので、こういう企業があってこんな話をしているとか、これはちょっと迷っているんだけどどう思うとか、そういうのは日々やっているので、投資委員会に上程しているタイミングでも2人の中ではいろいろ議論を尽くし終わっている状態、そんなイメージですかね。
石橋:
了解しました。ありがとうございます。
次回予告:注目領域と成功する起業家の条件
石橋:
1本目は出来立てホヤホヤというか、最後の200億円の発表をされて間もないというタイミングだったので、大きいところからお伺いしましたが、2本目3本目ではもうちょっとブレイクダウンして、なんで投資したんだっけとか、そういった具体的なところを通じて、ALPHAさんとしておそらく向こう2~3年ぐらいが特に新規投資を積極的にやられるタイミングなのかなと思うので。
この2~3年であればここの領域に注目するよねとか、こういう起業家さんがそれこそプロVCとして今やっていらっしゃると思うので、プロVCとして見たときにこういう起業家が成功していくみたいなお話を2本目3本目でお伺いしていければと思いますので、引き続きよろしくお願いします。
田中:
よろしくお願いします。
【投資家が注目】これから伸びる”まだ誰も気がついていない市場”とは|成功する起業家に共通する”熱と課題理解の深さ”を語る【ALPHA 田中 正人 vol.02】
共働き世帯の「無理ゲー」を解決するマチルダの世界観
石橋:
はい、皆さんこんにちは。スタートアップ投資TV、Gazelle Capital株式会社の石橋です。
今回も、前回に引き続き、ALPHA General Partner の田中さんにご出演いただいておりますので、今回もよろしくお願いします。
田中:
よろしくお願いします。
石橋:
今回は、ALPHA 田中さんの「なんで投資したのシリーズ」というところで、いわゆるかっこつけてインベストメントハイライトとか呼びますが、ALPHAさんは先週先々週ぐらいに200億円の1号ファンドのファイナルクローズを終わりましたというプレスリリース出したばかりだと思うので。
田中さんのご前職時代の投資先で「なんで投資したの」というところも踏まえて、田中さんのイズムとかALPHAさんの投資思想みたいなところが起業家の皆さんに伝わればなと思っておりますので、ぜひ合計3社取り上げることになると思いますので、最後までご覧いただければなと思います。
まずは1社、社名とどんな事業をやっている会社さんなのかみたいなところから触れていただければと思いますがいかがでしょう?
田中:
1社目は2年ちょっと前に出資をさせてもらった株式会社マチルダさんという会社ですね。
石橋:
何をやっている会社なんですか?
田中:
夕食のテイクアウトサービスをやっている会社で、主には共働きの世帯向けに、最寄りの駅で事前に注文した夕飯のおかず類を自宅に持って帰れるというサービスをやっている会社です。
石橋:
それだけ聞くとお惣菜屋さんというか、プロVCの田中さんからするとなんでお惣菜屋さんに光を感じたんだみたいなところは素朴に思うところではあるんですけど、改めてどんな創業者さんでみたいな話もそうですし、出資した当時の田中さんの持たれていたマーケットの仮説とか課題とか、そういうところを教えていただいても大丈夫ですか?
田中:
もともと注目していたのは共働き世帯の夕食作りの負みたいなところを注目していて、やっぱり保育園に迎えに行って、材料を買って作って片付けてみたいなところ、どうしても普通にはもうできない、無理ゲーな感覚があります。
自分も妻と一緒に子供2人育てていて、なかなかオペレーション的に難しいなというところ。もちろんコンビニのお弁当とか、スーパーのお惣菜とか、ほっともっとさんみたいな代替品があるんですけど、夫婦がそれを子供に食べさせると、罪悪感が生じているみたいなところもあって。
もう一つは、宅配サービスというんですかね、冷凍のお惣菜が来るみたいなサービスが増えてきていて。
石橋:
いろいろスタートアップでもそういうプレイヤー多いですよね。
田中:
そうですね。大変失礼ながら私的にはいくつか頼んだんですけど、正直そんなにおいしくなかった。
にもかかわらずすごい業績自体伸びているというのを目の当たりにして、負の大きさとマーケットの大きさと、まだまだビジネスの余地があるんじゃないかなと思っていたところ、まだ当時シードファイナンスを終えたばかりぐらいのマチルダの丸山社長とお会いさせていただいて。
マーケットとしてまずすごい面白いなと。僕の仮説としては、10~20年後ぐらいは、特に共働きの世帯のお忙しい方々にとって、平日は夕食作りというのは結構アウトソースするみたいな世の中になっているんじゃないかなと。
その中でマーケットはものすごく大きいなと。今のプレイヤーだとなかなか対応しづらいんじゃないかなと思ったので、そこを評価させていただいた。
「おいしさ」「世界観」「UX」の三位一体
石橋:
マチルダさんはその当時から、田中さんの一番の競合優位性みたいなのは「おいしかった」というところに収斂されていくんですか?
田中:
三つありまして、一つはおいしかったというところですね。そのおいしいの種類も家庭的なおいしさで、毎日普段使いしても飽きないおいしさというんですかね。
本当に高級レストランの料理とか、香辛料が入っている中華料理とか、おいしいけども、毎日食べたいかというとそうじゃないじゃないですか。すごく健全なおいしさがしっかりあったというのが一つ。すごい面白い話ですけど。
あともう一つは、これなかなか言葉で表現しづらいですけど、世界観がすごくてですね。結局マチルダが目指しているものは、僕の理解としては、もちろん食事を提供しているんですけど、どっちかというと家庭の幸せをすごく考えているんですよね。
ママ・パパの気持ちとか、あとは子供が食べて楽しいと思えるかとか、そういうのがすごく大事だというのがわかっているので、ステーションという駅の近くでお惣菜を受け取るところも、世界観作りというのがすごくて、ハロウィンのときはイベントしたり、七夕のときもそうだし。
あと僕もそのステーションに何度か通うと、子供が毎日マチルダに食事を取りに行くのをすごい楽しみにしているんですよ。すごいウキウキしているというのがすごい伝わってきて。
石橋:
なんでなんですか?
田中:
ホームページ見てもらえばロゴとかサイトの作りとかでも伝わってくるんですけど、ステーションでお弁当配る人もそういうことを大事に教育されているので。
マチルダで100回以上食事を受け取ると、特別なバッジがもらえるんですね。みんなその子供がそのバッジを持ってQRコードをピッとやっているのがすごいなと。
石橋:
熱狂的に愛しているんですね。
田中:
その世界観作りにすごく魅了されました。あとはこれちょっと細かな話なんですけど、僕マチルダという名前を聞いた時に、ロアルド・ダールという小説家の『マチルダは小さな大天才』という本がありまして、私も好きだし子供も大好きだったんですね。
『チャーリーとチョコレート工場』とかを書いたヨーロッパの作家なんですけども。僕はそのマチルダの丸山さんと会ったときに「このマチルダってもしかしてロアルド・ダールのマチルダですか?」と聞いたら「そうだ」と言って。
その『マチルダは小さな大天才』という小説は、ちょっと不遇な家庭に生まれた少女が知恵を絞っていって、嫌な家族をギャフンと言わしたり先生をギャフンと言わしたりしながら自分の才能を開花していくという、痛快な物語なんですけども。その小説ともオーバーラップしてきて。
表面的に見ると単純な食事のテイクアウトサービスなんですけど、目指している世界観とか今消費者が感じている価値というのは違うところにあるのかなと思って、これは大きな企業ブランドになるんじゃないかなという感覚もありました。
石橋:
単純なお惣菜屋さんでは決してないということですね?
田中:
一見それはそうなんですけど。あとは細かいユーザーエクスペリエンス(UX)というか、スマートフォンで前の週に、いついる・いらないとかができたりとか、それでフードロスがほぼなくなっているとか。
経営陣も株式会社ユーザベースや株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)出身のメンバーで、そういったスマートフォンを活用したやり取りの効率化みたいなことをすごくやられていらっしゃって、近代的なサービスに仕上がっていると。
石橋:
出資されたのはじゃあシードに近い頃で、もうだいぶ大きくもなられているんですかね?
田中:
そうですね。時価総額でいうと1桁億円後半ぐらいではあったんですけど、まだまだそこまで大きな会社じゃなかったかなと思うんですけど、今も日々成長していると聞いてます。
フリーランス向けファクタリング ペイトナー──「私っぽい」投資の真意
石橋:
ありがとうございます。ぜひ2社目、ここも過去の田中さんのご前職時代の投資先の事例になるかと思いますが、どちらになるでしょうか?
田中:
私っぽいのはファクタリング事業をやっているペイトナー株式会社ですかね。石橋さんも阪井社長と仲が良いと聞いているんですけど。
石橋:
そうですね。存じ上げていますし、よく阪井さんもSNSめちゃめちゃ使っていらっしゃるので、よくそっちでも見かけますし、当然僕はよく知っているところのサービス会社なんですけど、簡単に何をやっている会社なんですか?
田中:
フリーランスさんとか零細個人事業主の資金流動の仕組みみたいな形ですかね。請求書とかをベースにお金が簡単に借りられるみたいな価値を提供している会社です。
石橋:
ありがとうございます。田中さんが今チラッと「私っぽい」と言っていましたけど、ペイトナーさんは何が田中さんっぽいんですか?
田中:
競合というか近いところで言うと、消費者金融のサービスとかがあって、一部利用者とかも重なっているところが多いと思うんですね。その消費者金融というと、すごくこうイメージが……。
石橋:
ウシジマくんとかをイメージする人もいらっしゃいますね。
田中:
そうですね。いろんな多くの人が使われているサービスだと思うんですけど、やっぱり後ろめたく使っている方とか、あまり良い印象を持っていない方もいらっしゃるのに、ものすごく大きなマーケットだなというのがまず背景にあります。
ペイトナーの経営陣は株式会社NTTドコモ出身の方とか、良くも悪くも金融業界の人じゃないんですね。新しい視点でフリーランスとか零細企業事業主に対して便利な資金流動の仕組みがないかって考えたときに、ファクタリングの仕組みを使って使いやすいサービスを作られていらっしゃるので。
金融機関の人からすると不思議なサービスに見えると思うんですけど、一部のユーザーはすごく愛用しているというところと、ものすごく収益性も高いビジネスだというところを両立していたので、私個人としてはそのあたりを高く評価してご出資させていただいたという経緯です。
増えていくプレイヤーの課題を解決する
石橋:
ありがとうございます。田中さんのさっきのマチルダさんと少し共通する話というかエッセンスになるのかなと想像なんですけど。
やっぱりフリーランスというワードもペイトナーさんのご説明に出てきましたけど、さっきは共働き夫婦だとか、中期的あるいは長期的に見ても増えていくプレイヤーの課題を解決するみたいな、要は伴ってマーケットが成長するというところが田中さん的にやっぱり大前提になってくるという感じなんですか?
田中:
そうですね。私の投資で重視しているところは、そういったついているマーケット、市場が伸びていくというところが大きいかなと。
加えて言うと、あまりにも大きすぎないとか、有名すぎない、一般的にはニッチだと言われているマーケットの方が個人的には好きですね。
石橋:
宅食とか消費者金融も絶妙なところですね。
田中:
フリーランス向けの金融というと一般的にはニッチで、なかなか大手の金融機関も入りづらかったりとか、大口の投資家だと投資しづらかったりすると思うんですけど、個人的にはビジネスとしては面白くて、サービスとしての価値も感じているんだが、一般的にはニッチだと思われている業界、サービスに投資するのが得意で、そういう起業家様とは相性がいいかなとは思っています。
深夜2時まで働く阪井氏の経営コミット
石橋:
ちなみにもちろんペイトナーさんの領域でいうと、既存のクラシックな消費者金融のプレイヤーの方も当然競合にはなってくると思うんですけど、スタートアップとしても様々な競合がいらっしゃる中、なんで田中さんとしてはペイトナーさんだったらやり切れると思われたのか、勝ち切れると思われたのかとか、投資したタイミングはどんなタイミングでいらっしゃったんでしょうか?
田中:
シリーズA・Bぐらいのタイミングだったかなとは思いますね。なぜ勝ち切れるかというところなんですけど、まだ不安なところはあるんですけど、やっぱり阪井社長を含めて、経営陣の柔軟な発想、試行錯誤、経営に対するコミット、このあたりはすごいなと。
特に感心をしたのが、Infinity Ventures Summit(IVS)の京都のときだったかな。大体6時を過ぎたら近くの界隈でみんな飲み歩いたりとかオフタイムになるじゃないですか。
石橋:
もはやそういうイベントのイメージがあります。
田中:
そうですよね。そんな中、阪井さんは良いのか悪いのかは置いておいて、夜中の2時ぐらいに会ったんですよ。まだ自社のはっぴを着て、ペイトナーの新サービスの宣伝を持って、いろんな起業家とか大企業の方に営業をしていたんですよね。
すごいなと。やっぱりそういうところも本当に尊敬してますね。社長自らそこまでやっていると。
石橋:
ちなみにALPHAさんとして過去の2社の投資先とかに投資をすることはあるんですか?
田中:
あると思ってますし、実際に検討させていただいているケースもあります。
石橋:
それはそうですよね。投資をするお財布が変わったとしても、そもそも投資仮説が変わっているわけではないかもしれないし、そこがむしろ順調に検証が進んでいて大きなリターンが見込めるのであれば、全然そこはALPHAとしての新規投資先になると。
田中:
そうですね。もちろん一定、前職の方とかには仁義を切って配慮したりした上で、株主も企業様も良いと思ってくれるのであればという前提条件付きではありますけど。
自動運転時代に備えるRENDEZ-VOUS──セカンドカー需要の拡大
石橋:
ありがとうございます。今2社のところは過去の投資先のお話でしたけれども、なんとなく田中さんが何を大事にしているのか、エッセンスは共通するところがあるのかなと思います。
3社目は9月かな、プレスリリースを新規投資先として出していらっしゃったRENDEZ-VOUSさん、ぜひこちらの会社さんについても取り上げていきたいと思っているんですが、簡単に田中さんから何をやっている会社でどういう起業家さんかご紹介いただいてもよろしいでしょうか?
田中:
RENDEZ-VOUSはスーパーカーの共同所有サービスを展開している会社で、フェラーリとかポルシェとか、そういった趣味嗜好性の高い高級カーを6人とかで分割所有できるようなサービスを提供している会社です。
石橋:
分割所有と聞くとスタートアップ業界だとNOT A HOTEL株式会社とかがどうしても頭に浮かんでくるんですけど、すごく平易に例えてしまうとNOT A HOTELのスーパーカー版みたいな感じになるんですか?
田中:
まさにその通りです。
石橋:
さっきの観点で言うと、ALPHAさんとしては、シリーズAで4億円資金調達のうちの一部を引き受けていらっしゃるのかなと思うんですけど、なんでこのタイミングでここには絶対いけるなみたいなマーケットに対する仮説や課題はどんな感じになるんですか?
田中:
これは立岡がメインにやっている案件ではあるんですけども、一つあるのはそういった高級カー、いわゆるセカンドカーの需要にあたるんですね。
石橋:
要は2台目、3台目持ちってことですかね。
田中:
個人的にはそこのビジネスがすごく面白いなと。やっぱり日常使いするものではないので、共同で所有したり、もちろんレンタルもあると思うんですけど、そういった利用形態が望ましいのになかなかふさわしいサービスがなかったというところと、ニーズが高い割に競合他社がないので、すごく収益性の高いビジネスになり得るというところ。
あと個人的に注目しているのは自動運転。私もロサンゼルスに行って、Waymoとかに乗って思ったんですけど、移動手段としての車というのはほぼ近い将来自動運転の車に変わっていくと思っているんですよね。
一方で、土日楽しみたいとか、気分転換をしたいとか、運転する喜びを楽しみたいとなったときに、いわゆるセカンドカー的な需要というのはむしろ今後増えていく。
もうちょっと言うと、移動手段としての車と趣味嗜好性の高い車の二極化がどんどん広がっていく世界線かなと思ったので、5~10年後にこういったマーケットはより大きくなっていく、求められるんじゃないかなと。
もう一つは経営陣。RENDEZ-VOUSの社員の皆さんがものすごくいい世界観というか、めちゃくちゃいい雰囲気なんですよね。
便利なサービス、物事を効率化するサービスは世の中にありますけど、人を幸せにしたりとか気分を良くしたりするサービスはなかなかないんじゃないかなと思って。
ランデブーはそういった、今後長期的に求められる価値を提供できる数少ない企業様なんじゃないかなとも思っているというところがありますね。
石橋:
足元は短期的なマーケットとしては、現在時点ではカーコレクターというべきなんですかね、本当にお好きな方の課題感を解決もできているし、中長期で言うとまさに自動運転という文脈によって起きてくるであろう波みたいなものを先立って待っておけるというか、それがさらに来るともっと大衆の人も使っていく可能性があるからというところで、今回もシリーズAラウンドという感じなんですかね?
田中:
そうだと思いますね。共同リードで投資をさせてもらっています。
石橋:
理解です。
今後注目する3領域──東洋医学、エネルギー、BtoCハードウェア
石橋:
先ほど3社に限らず、田中さんから大き過ぎず小さ過ぎず、ニッチなところの話もありましたけど。
改めて、キャピタリストやALPHAとしての田中さんとして少し整理をしていくと、この向こう3年間ぐらいで投資をしていこう、特に重点領域だと思われるマーケットですとか、特定の課題で「これを探している」、「こういうところにアタックしていきたい起業家はぜひ問い合わせください」みたいな粒度のお話をいただければと思うんですけど、どうでしょうか?
田中:
今私個人として注目しているのが東洋医学の領域ですね。
石橋:
東洋医学?漢方とかですか?
田中:
そうですね。鍼灸とか、そういったところで世界展開できるようなサービスとか、器具なのか、店舗ビジネスなのか、まだ決めかねているんですけど、そういったビジネスをされようとしている方、もしくはしている方。
あとはエネルギー業界の中でもDER(分散型エネルギー資源)とかDR(デマンドレスポンス)とかVPP(バーチャルパワープラント)とか、電力の調整力と言われるようなところなんですけれども、蓄電池、EMS(エネルギーマネジメントシステム)、こういった領域で事業をされようとしている方。
あとはBtoC向けのハードウェアを作っているような企業とか、そういったところは注目しているので、心当たりのある起業家の方がいたらご連絡いただきたいなと。
石橋:
さすがにAIとか言うのかなと思ったんですけど、なんで東洋医学とか、ハードウェアをBtoCでとか、田中さん的にはなんで今そこの三つに行き着いているんですか?
田中:
前提となっているのが、僕としては5~10年後ぐらいに注目はされるんだが、今はまだ多くの人に注目されていない領域に投資していきたいというのがあるので、10年単位で見据えた有望な領域として今言ったようなところを考えているという感じですかね。
ANYCOLORの成功体験が示す「日本の強み」
田中:
例えば東洋医学でいうと、ANYCOLOR株式会社に投資をした経緯も一緒なんですけど、僕の個人としての学びで大きかったのは、ビジョナルさんが海外展開に上手くいかなかったというのがあって。
僕の中でビジョナルの経営陣は日本トップレベルに優秀な経営陣だったので、彼らでもなかなか難しいのかと。
もうちょっと前だと、DeNAさん、グリーホールディングス株式会社さん、今でもメルカリさんは苦戦をしているという話を聞いていますけど、日本のトップタレントがアメリカ進出したりヨーロッパ進出したりしても上手くいっていないというのを見て、海外で勝つには日本なりの強みがある会社じゃないとダメなんじゃないかという仮説が7~8年前にあって。
そういった背景があったのでANYCOLORと会ったとき、今でも投資委員会の資料に1ページ目に「上手くいったら海外展開で成功する会社です」と書いてANYCOLORに投資させてもらった、今でも覚えているんですけども。
そういったANYCOLORの成功体験もあって、今、VC業界、スタートアップ業界でいらっしゃると分かると思うんですけど、すごいエンタメ系に投資している人多くないですか?
石橋:
多いですね。急に多いです。
田中:
経済産業省も言い始めたし、ANYCOLORとかカバー株式会社とか、あとは鬼滅の刃とか、YOASOBIの成功事例があるからそう言っていると思うんですけど、僕個人としては今からそこに入るのはちょっと遅いんじゃないかという感覚。
石橋:
5年前に「今こうなるよね」という話だったからそのときに投資に興味があるのであって、今ではエントリーが遅いんですね。
田中:
そうですね。今からやってスタートアップが勝つのはなかなか難しくて。であれば、まだ注目されてないけど5~10年後にそういった類のビジネスになるところはどうかと今見ていますね。
石橋:
皆さん、5年後に東洋医学がきますよ。
田中:
答え合わせを5年後にぜひ。
石橋:
これできていたらすごいですよね。東洋医学は今投資家さんに聞いてもキーワードに出てくる人はほぼいないんじゃないかという気もするので、これは素直に面白いですし、ぜひ答え合わせはおいおいしていければなと思いますが。
今回3社取り上げていただきましたが、もう少し最後の3本目はカジュアルな配信になるかもしれませんが、起業家さんがALPHAさんの思想に学ぶ、どういう起業家が成功しているのかみたいな、要素分解をいただきながら、最後カジュアルなお話ができればなと思っていますので、引き続きよろしくお願いします。
【必見】成功企業の共通点は「市場選び」|勝つ起業家のロードマップ解説【ALPHA 田中 正人 vol.03】
成功する起業家に必要な三つの要素とは
石橋:
はい、皆さんこんにちは。スタートアップ投資TV、Gazelle Capital株式会社の石橋です。
今回もALPHA General Partnerの田中さんにご出演をいただきまして、1本目2本目見ていただければなおさら分かるんですけど、今年来年に最もマーケットの投資家から熱く期待されている1号ファンドのALPHAをやっている田中さんが思う、成功する起業家に必要な要素、エッセンス二つ三つのことみたいなテーマでお話をカジュアルにしていければなと思っております。
ぜひこれから起業を目指しているとか、シードで調達したばかりだみたいな方は意識しながらチャレンジをしていただくと、もしかしたら転ばぬ先の杖だったりとか、ちょっとでも成功確率が上がるようなお話をプロVCの田中さんからいただければなと、ゴリゴリハードルを上げながらいければなと思っているんですが、ズバリ成功する起業家に大事なこと、いくつか挙げるとしたらまずは一つ目は何になるでしょうか?
田中:
市場、テーマ、どういったテーブルにつくのか、この辺りが一番重要かなとは思ってます。
石橋:
理由は後ほどブレイクダウンさせていただくとして、二つ目三つ目として挙げるのであれば、一つ目が市場選び、市場選定。二つ目三つ目はいかがでしょう?
田中:
二つ目は仲間選びというか、共同創業者探し。
石橋:
三つ目はあります?
田中:
三つ目はそのGo To Marketの戦略、事業作りの順序、どういうように本気でやりたい事業を作っていくのか、このあたりの順番みたいなところですかね。
市場選びが最重要な理由──大きな変化の波を捉える
石橋:
ケーススタディで酸いも甘いも、いろいろ知っていらっしゃると思うので、なんでその順番というか、市場選びをまず田中さんが「そこだよね」と思われるようになった事例であるとか体験であるとか、どんな感じのものが過去にあったりするんでしょうか?
田中:
大きな変化が起こっているような領域じゃないと、なかなか新しい事業というのは作れないんじゃないかなと思っているので、激しく大きな変化がある領域に挑むというところが大きいんじゃないかなと。
過去に大きくなっている会社さん、例えばトヨタ自動車株式会社もそうだし、ソフトバンク株式会社もそうだと思うんですけど、大きな時代の潮流が来たときに中心にいた会社さんだと思うので、その変化の波を捉えるみたいなところがすごく大事なんじゃないかなとは思っています。
石橋:
最近、投資先に限らずでも構わないんですけど、田中さんから見て「ここめちゃめちゃいい市場選びしてるな」とか、マーケット選びという観点で、もちろん投資先でもいいですし、投資先じゃなくても見ている先とかいらっしゃったら、事例で言うとどんな会社さんだったりしますか?
田中:
有名になっていますけど、株式会社タイミーさんとかは、人材領域というところで、今となっては後付けで言えますけど、起業のタイミングでいいポイントを選んでいたなというふうには思っていますね。
石橋:
人手不足というところに対して新しいソリューションを提示した点がマーケット選びが秀逸だったというふうな理解ですかね?
田中:
それもあると思いますし、短時間のマッチングという、大手の企業が無理だろうと、ただできたら大きな事業になるだろうというところに挑戦された。
試行錯誤をしながら飲食だったり物流だったりにピボットしながら、しっかり事業を作られていった。この辺りは本当にすごい上手くやられたなという感覚がありますね。
石橋:
ちなみにタイミーはご前職では出資はされていないんでしたっけ?
田中:
SBIインベストメント時代に私ではないんですけども、部門のメンバーが投資をしていまして、投資時のこととか、当時いろんな大企業の人にリファレンスに訪れていたこととか、今でも覚えてますね。
安易に市場を決めない──成功する起業家は5年かけて調査する
石橋:
なるほど。ちなみにマーケット選びを初めて取り組まれる方とかだと、分からないとは言い過ぎですけど、こういうことに気をつけるといいとか、インプットするといいみたいな、もしそういうご意見とかアドバイスとかあれば、ぜひこれから起業する方をイメージしてご意見いただければと思うんですけど、どうでしょうか?
田中:
個人的に思うのは、安易に着くテーブルを決めなくてもいいのかなと思っています。
これはハーバード・ビジネス・レビューとかのレポートでも見たんですけど、成功している起業家ほど長い時間をかけて着くテーブルを選んでいるという統計があったりもしますし、いろんな成功している起業家も同じように言っています。
この前のテイラーの柴田 陽さんとお話していても、今の事業を決めるのに5年ぐらいいろんな業界を調査したというのもあるし、ビジョナルの南さんと話を聞いていると、虎視眈々とどの業界で新規事業を作るかとか、どの領域をM&Aするかというのをずっと考えているんです。
石橋:
上場後もということですね。
田中:
安易には手を出さない。手を出すときにはしっかりリサーチをして、単純なメディアの情報だけじゃなくて、一次情報もしっかり取りに行って決められている。
そういったいろんな複数の観点から、起業するのはいいが、すぐに業界を決めなくてもいいのかなというところは思っていますね。
原体験は必須ではない──日本市場の特性を活かす
石橋:
そのご意見を持っている田中さんからすると、起業家の原体験とかってどう解釈されているというか、極端な話、起業家としての役割でいうと別にいらないよねという話だったりとかも当然するのかなとは思うんですけど、原体験や想いはどう2番目のチーム作りとかに影響するのか、どんな感じで田中さんとしてはご意見をお持ちでしょうか?
田中:
僕はあまり原体験を重視していないんですね。
そこは悩ましいポイントで、僕らVCの仕事をしている立場からするとポートフォリオは作れるじゃないですか。だから強烈な思いを持った、原体験を持った、この領域で死ぬ気でやろうとしている投資をすると。
しかも投資もそういった起業家を10~15人選べるのでいいと思うんですけども、それで成功している起業家もいると思うんですけど、再現性が低いと思っていて。
何個も事業を成功させている人とか、複数の事業作りを成功されている起業家を見ると、結構ドライにしっかり分析されてエントリーしているなというところがあります。
アメリカとか中国みたいな、めちゃくちゃ競争が激しくて、有望な事業が見つかったら100社も競合が出てくるようなマーケットだと、最初から沖に出ていて、テーマとかカテゴリーが決まる前に上位5番手とか10番手ぐらいにいないと無理という環境だと思うんですけど、日本の場合は良くも悪くもそこまで競争が厳しくないので、クールに分析して入っていくことで勝ち切れるという競争環境かなと思っているので。
石橋:
何なら現時点でそこそこ名前が知られつつあるスタートアップがいるマーケットであっても、後出しじゃんけん的にいいマーケットであれば、日本だったら海外と違って何十社というわけではないので、1社2社だったらどうにかなるよねみたいな感じなんですね。
田中:
そうですね。アメリカとかの場合だと、クレイジーさみたいな要素がより重要で、日本の場合は相対的に見ると、もうちょっと分析とか調整とか、クールに判断するみたいな要素が重要なのかなとは思っています。
共同創業者選びの重要性──攻めと守りの両立
石橋:
ありがとうございます。2番目のチーム作りで言うと、これももちろん大事な王道の一つだと思うんですが、そのチーム作りが上手くいかない・上手くいくによって、過去の投資先であるとか周りの方で、成長の度合いとかはどう左右されたとか、田中さんがそこだよねと思われている理由はどんなところなんでしょうか?
田中:
二つあると思っていて、一つは、スタートアップはスピードとクオリティとか、攻めと守りとか、相反する性質を高いレベルでやっていかないといけないじゃないですか。
それを1人の人間がカバーするのはなかなか難しい。過去に成功している企業を見ると、攻めと守りだったり、営業と番頭さんだったりとか、そういう組み合わせでやっているチームが多いなという印象だし、仲間とかも多様性が作りやすかったりすると思うのと、いろんな課題が起こるじゃないですか。
人の問題、組織の問題、ファイナンスの問題、営業先の問題。1人でできることは限界があるので、創業者と同じぐらいの思いでコミットして働けるメンバーを、できれば3人ぐらい、少なくとも2人ぐらいいた方が、組織としての生産性が高まる、成功確率が高まるという、経営の成功確率を高めるというところで一つ。
あともう一つはウェットな話なんですけど、結局楽しかったり幸せじゃないと長続きしないじゃないですか。
だからウマが合うやつというか、気心の知れているやつ、変な気を使わないやつみたいなところで一緒に起業するのが、人生のクオリティ・オブ・ライフを上げる上でも重要なのかなと思っているので、個人的には幼馴染で起業するとか、大学の同級生で起業するとか、そういう起業家はすごく安心します。
石橋:
田中さんもそういう意味ではALPHAの共同創業というのに近いですね。
田中:
これはすごく大事なポイントだなと思ったので、立岡とは何回も一緒に旅行に行ったりとか、飲みに行ったりとか、食事したりとかしながら、僕と立岡も10年以上の関係ではあるんですけども、改めてフィットするかどうかとか、価値観の擦り合わせとか、好きなもの嫌いなものとか、やりたくないこと・やりたいこととか、そういうのはずっと議論していましたね。
Go To Market戦略──2ステップ、3ステップで事業を作る
石橋:
3点目のGo To Market、要は山の登り方、戦略の在り方みたいなところは、起業家さんご自身がVCとかとコンタクトする前からめちゃめちゃ解像度が高い必要があったりとか、田中さんやプロのVCの方々との議論の中でそういう山の登り方が明らかになっていくのか、ここの観点を田中さんが重要視している理由みたいなところからお伺いできればと思いますがいかがでしょうか?
田中:
これは僕が起業していたということもあるし、いろんな起業家と会っていろいろ自分なりの得た結論ではあるんですけど。
本気で大きな事業を作りたい、1兆円企業を作るというのをゴールにしたときに、最初から難易度の高い大きな事業に挑むというのが一般的な話だとは思うんですけど、個人的には2ステップか3ステップに分けて段階的に事業を作りに行った方が、結果的に本当にやりたいことの成功率が上がるんじゃないかなという仮説があります。
ラクスとレノバに学ぶ段階的成長戦略
田中:
原体験として大きかったのが株式会社ラクスという、SaaS企業としては日本一位の時価総額になっていると思うんですけど。
ラクスはVC調達していないんですよ。中村社長とは未公開、未上場のときから何度もお話をさせてもらっていたんですけども、今はSaaSの雄になっていますけど、上場時は確かアプリケーション・サービス・プロバイダ(ASP)という話だったんですけど、その前はもともとシステム・エンジニアリング・サービス(SES)と言うんですかね。
石橋:
エンジニア派遣?
田中:
エンジニアの派遣をやっていたんですよね。そこからエンジニアの空いたリソースを使ってASPを作り始めて、今のラクスになっているんですけども、そういった確実な事業からしっかり作っている事例とか。
あとは株式会社レノバという、前職時代に私の上司が投資をしていて副担当として見させてもらっていた企業様なんですが、今は再生可能エネルギーの業界ではすごく有名な会社さんではあるんですけど、マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク・ジャパン出身の木南さんが作った会社です。
最初はエネルギー関係の調査コンサル事業から入っていって、信頼と実績と顧客ネットワークを作って、その次のタイミングで産廃事業に入っていって、そこで数十億の借り入れとか設備投資とかプラント運営のノウハウ、実績を作って、最終的に再生可能エネルギーという数百億を必要とする事業に挑んでいった会社さんだと理解しています。
木南さんは僕らが投資するときは、まだシリーズAのタイミングで事業プランを練っていたんですよね。
だからステップに分けて必要なリソースを順次獲得していく、ノウハウを貯めていく、人材を獲得していく。そういうことで成功率を高められるというのを目の当たりにしたというのも一つですね。
SBIホールディングスに学ぶ大きな方向性の重要性
田中:
あとは、SBIホールディングス株式会社の北尾さんの下で長く働かせてもらって分かったのが、さっきの話とずれちゃうんですけど、例えば、株式会社新生銀行(現:株式会社SBI新生銀行)を買収して、大きなIPOをすると思うんですけど、それを10年前に想定していたのかというと、想定していなくてフィンテックが始まった。
フィンテックとか地方創生で地銀ネットワークで地銀のバリューアップをしていく中で、その先に新生銀行というのが出てきているわけなので、そのときに大きな方向性として間違っていなければ、打ち手をちゃんと打っていくと、結果的に大きな事業が作れるというか、なっていくというのもすごい目の当たりにしたので、一部偶然なところもあると思うんですけど。
石橋:
偶然の連続が結果必然になっている、みたいな感じですね。
田中:
そうですね。大きな方向性とマーケットさえ間違っていなければ、事前にそこまで考え抜いていなくても、ちゃんと大きな事業を作れる。
まずは初手とか2手目は、比較的しっかりとした、もしかしたらVCからは不人気かもしれないんですけど、確実な事業から入っていってもいいんじゃないかな、みたいな思いもありまして。
シリアルアントレプレナーの可能性──スモールイグジットの価値
石橋:
最近でも田中さんのGo To Marketの観点でも、足元ぐるぐると回って、いわゆるM&Aで過去イグジットしたことのあるシリアルアントレプレナーの方とかの投資検討機会とかもすごく増えている感覚も個人的にありまして、そういう方ほどここの部分というのはすごく上手なケースが多いんですかね?
田中:
多いと思いますね。
石橋:
Xとか界隈でもポジショントークだと思いますけど、一回イグジットとしてM&Aを経験して2回目に大きいチャレンジをするのも良かろうみたいな人もいたりすると思いますけど、田中さん的にはその論調にどういうご意見をお持ちとかって何かあるんですか?
田中:
大賛成ですね。本気で大きな事業を作る上で、子供、孫の代まで安心して生活できる最低限のキャッシュみたいなものがないと。
石橋:
万振りはできないという話ですよね。
田中:
ビル・ゲイツもマーク・ザッカーバーグもご家庭がすごく裕福だったみたいな話もまさにそれで、余裕がないと大きなチャレンジができないと、人間の性として思うので、僕個人としては、一定数億~10億円を稼いだ起業家が、目先のキャッシュはいいから10~20年後の大きなチャレンジをするみたいなのが、人間の本質を考えると必要なんじゃないかなと。
もちろん、5億~10億円キャッシュを得た起業家が全員は次のチャレンジをしないと思うんですよ。もしかしたら8~9割の人は一旦落ち着いて、次のチャレンジをしないかもしれないんですけど、僕はそれでもいいと思っていて。
その中の一部の人がもう一回チャレンジするとなっていく世界線がいいかなと思っているので、僕はスモールイグジットは反対派じゃなくて、むしろもっと増えていくべきなんじゃないかなとは思っています。
石橋:
理解です。そういうM&A乱立時代にVCはどう向き合っていく問題みたいなのがテクニカルというか、VC向けのコンテンツになってしまうので今日の時点では避けておきますが。
とはいえ、もちろん田中さんやALPHAさんたちがそのシリアルとかM&Aでイグジットしないと投資をしないとか、そういうわけではなく幅広に見ていらっしゃるところかなと思いますので、ぜひ今日いただいたエッセンスみたいなところを活かしながら、合致するなみたいな方はぜひALPHAさんにお問い合わせいただければなと思っております。
それでは田中さん、全3回にわたりましてご出演、改めてありがとうございます。
田中:
ありがとうございました。
