「VCが求めるKPIの水準がわからない」「自社のARRでシリーズAに進めるのか判断がつかない」「バリュエーションの根拠をどう設計すればよいか」

SaaSの資金調達では、こうした悩みが付きまといます。

SaaS領域の調達環境は年々変化しています。投資家が重視する指標もマルチプルの相場観も動き続けており、ステージに合った手段を選び、説得力あるバリュエーションを提示できるかどうかが調達の成否を分けます

この記事では、VCが実際に見ているMRR・NRR・LTV/CACなどの主要KPIから、PSRを使ったバリュエーション設計、ステージ別の調達手段の組み合わせまでを解説します。プレシードからシリーズAを見据えている方は、自社の戦略設計に役立ててください。

この記事でわかること
  • SaaSビジネスとVCの構造的相性、AI時代で変わる評価基準
  • VCが投資判断で重視する4大KPI(MRR/ARR・NRR・LTV/CAC・Rule of 40)の水準と読み方
  • プレシード〜シリーズBまでのステージ別・調達手段の組み合わせ
  • PSRを用いたSaaS企業のバリュエーション設計と種別ごとのマルチプルの違い
  • ROXX・Hubbleの国内SaaS資金調達事例

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SaaSビジネス×VCの相性とAI時代における評価の変化

SaaSビジネス×VCの相性とAI時代における評価の変化

はじめに、SaaSビジネスはなぜVC投資と相性が良いのか、収益構造の観点から確認し、AI投資が拡大する中で評価基準がどう変化しているかを見ていきましょう。

AIはSaaSを置き換えるものではなく、利益率を高めるレバーとして機能します。この点を押さえておくと、続くKPIやバリュエーション設計の話がより理解しやすくなります。

SaaSのビジネスモデルはなぜVCと相性が良いのか

VCがSaaSに積極投資する理由は、このビジネスモデルが持つ3つの構造的強みに集約されます

1つ目はストック型の収益構造です。月額課金によるMRR(月次経常収益)を積み上げるモデルは、ARR(年間経常収益)として将来の売上を高い精度で予測できます。投資家にとって、成長曲線の見通しが立てやすい点が評価されています。

2つ目は粗利率の高さです。SaaS企業の粗利率は一般的に70〜90%に達し、スケールするほど利益率が改善しやすい構造です。製造業や小売業と比べると、投資回収のスピードが速い点も特徴です。

3つ目はネガティブチャーンの可能性です。NRR(売上継続率)が100%を超えている状態では、既存顧客のアップセルやクロスセルによる増収が解約による減収を上回ります。新規獲得に頼らずとも売上が自然成長するこの状態は、投資家から見て資本効率が高いモデルです。

予測可能な収益・高い利益率・自律的な成長。この3要素が揃うことで、VCはSaaSに高いリターンを期待できます。AI時代に入ってもこの基本構造は変わりません

AI投資拡大でSaaS企業の評価基準はどう変わったか

2024年以降、AI関連投資が急拡大し、投資家の関心もAI領域に集中しています。「SaaS is dead」という言説も広がる中、ファーストライト・キャピタルの調査によると国内SaaS企業の調達額は1,357億円と堅調です。

ただし、調達額が維持されているからといって従来どおりの戦略で十分とはいえません。投資家の評価基準がどのように変化しているのかを確認していきましょう。

AI×SaaSが高く評価される理由

AI機能を統合したSaaS企業とそうでない企業の間で、バリュエーションの差が広がっています。それにともない、投資家の資金もAI×SaaS領域へ集中する傾向が強まっています。

こうした動きを受けて、「AIがSaaSを置き換えるのでは」と不安を感じる経営者の方もいるかもしれません。しかし実態は異なります。

AIはSaaSの一部機能を代替する可能性がある一方、プロダクトの中核にAIを組み込むことで顧客単価を引き上げるレバーにもなります。自動化による業務効率の向上やパーソナライズ機能の強化が、SaaSの収益性を底上げする構造です。

裏を返せば、投資家の目利きはこれまで以上に厳しくなっています。AI活用の有無だけでなく、それが収益指標にどう反映されているかを定量的に示す力が問われる局面です。KPIの整備とバリュエーション設計の精度が、調達の成否を分ける時代に入っています

SaaS×VC投資の基礎については以下の動画でも解説しています。

SaaS特化VCが見るKPIの詳細はこちらの記事でも紹介しています。

VCが投資判断で重視するSaaS KPI

VCが投資判断で重視するSaaS KPI

VCがSaaS企業への投資を判断する際に必ず確認する指標のうち、特に重視されるのがMRR・ARR、NRR、LTV/CAC、Rule of 40の4つです。

各指標の意味と目安を把握し、自社の数値と照らし合わせながら確認していきましょう。

MRR・ARR|売上の成長力を測る基本指標

MRR(月次経常収益)は、SaaSの成長力を測る代表的な指標です。計算式はシンプルで、ARPU(ユーザーあたり平均収益)× ユーザー数で算出できます。

このMRRを12倍したものがARR(年次経常収益)であり、シリーズA以降のVC面談ではARRベースでの会話が標準になります。

MRRは「総額」より「中身」が見られる

VCが注目するのは、MRRの総額よりも成長の質です。MRRは以下の3要素に分解して確認できます

要素内容
New MRR新規顧客から獲得した月次収益
Expansion MRR既存顧客のアップセル・クロスセルによる増加分
Churn MRR解約や離脱で失われた収益(月次2〜3%以下が優良水準、成長企業では1%未満が理想)

たとえば、MRR100万円の企業がNew MRRだけで成長しているケースと、Expansion MRR20万円を安定的に積み上げているケースでは、後者のほうがVC評価は高くなるでしょう。既存顧客からの拡大収益はプロダクトの価値浸透を示し、後述するNRRにも直結する重要なシグナルです。

ステージ別のARR目安

VCとの面談では「今ARRいくらですか?」がほぼ確実に聞かれます。ステージごとの目線を押さえておきましょう。

ステージARR目安備考
シード年間1,000万円前後KPIよりチーム・市場仮説で勝負
シリーズA1億円前後PMF達成がデータで示せる水準
シリーズB3億円超成長率+利益率の両立が問われる

自社のARRがどの水準にあるかを把握したうえで、調達準備を進めていきましょう。

Sales Markerが1.75年でARR12億円に到達した成長戦略については以下の動画で紹介しています。

NRR|既存顧客からの収益拡大力を示す指標

NRRは(期初MRR + Expansion − Churn − Downgrade)÷ 期初MRR × 100で算出します。この値が100%を超えていれば、既存顧客からの拡大収益が解約・ダウングレードによる流出を上回っている状態です。

言い換えれば、新規顧客を一切獲得しなくても売上が自然に伸びていく構造が出来上がっています。

たとえば、MRR500万円の企業でExpansionが100万円、Churnが50万円、Downgradeがゼロだった場合、NRRは110%。毎月10%ずつ既存基盤だけで収益が積み上がる計算です。

NRRとバリュエーションの相関

VCがこの指標を重視するのには明確な理由があります。NRRはPSR(売上高倍率)マルチプルと強い相関を示す指標であり、バリュエーション評価に直結するからです。優良SaaS企業のベンチマークは110〜120%(トップ層で120%超)とされ、シリーズB段階でも110〜120%が良好な水準とみなされます。

ここで注意したいのが、NRR100%超でもチャーン率が高いケースです。Expansionの勢いでカバーしているだけでは、アップセル余地が尽きた瞬間に数字が急落しかねません。

投資家がチャーン率の低さを同時に求めるのはこのリスクを見ているからです。NRRの「高さ」とチャーンの「低さ」、この両面から自社の持続的成長力を示すことが、次のラウンドでの評価を大きく左右します

LTV/CAC・チャーンレート|投資回収の効率性を測る指標

セールス投資が「回収できる構造」になっているかを測るのが、LTV/CACとチャーンレートです。

LTV/CAC比率は3倍以上がVC投資判断のベースラインです。例えばCAC10万円・LTV30万円の企業と、CAC20万円・LTV50万円の企業はどちらもLTV/CAC比率は3倍前後ですが、後者のほうがLTV自体が大きく、スケール余地があると評価されやすいでしょう。逆に5倍を超える場合は成長投資不足の可能性があるとVCが懸念するケースもあります。

あわせて確認されるのが月次チャーンレートです。目安は2〜3%未満、成長企業では1%以下が求められます。チャーンレートが高いままLTVを伸ばすのは難しいため、LTV/CACとセットで見られる指標です。

改善トレンドも評価される

LTV/CAC比率が3倍に届いていなくても、四半期ごとの改善トレンドが明確であればVC評価は高まる可能性があります。数字の絶対値だけでなく「どの方向に動いているか」を投資家は重視しています。

ランウェイが限られる局面でも、改善の軌跡をデータで示せれば十分な交渉材料になります。

Rule of 40|成長性と収益性のバランスを測る指標

Rule of 40は、ARR成長率(%)+ 営業利益率(%)≧ 40%で判定するシンプルな指標です。赤字先行が当たり前のSaaSでも、成長性と収益性を一つの数値で評価できる点がVCに重視されています。

ステージごとに達成パターンは大きく異なります。

ステージ成長率利益率合計
シード(ARR 0.5億円)+80%−30%50%(達成)
シリーズA(ARR 2億円)+60%−20%40%(達成)
シリーズB(ARR 8億円)+30%+10%40%(達成)

シード期は高成長により、利益率がマイナスでもRule of 40を達成しやすい傾向があります。注意すべきは、シリーズB前後では成長と利益のバランスが求められるようになり、利益率改善または高成長維持によるRule of 40達成が期待されるという転換点です。

Battery VenturesのOpenCloud Reportでも、Rule of 40達成企業は未達企業と比較して売上マルチプルに顕著な差が生まれると示されています。シリーズB以降の資金調達では、成長と効率の両立を数字で証明できるかどうかが勝負の分かれ目になります。

ステージ別に見るSaaS企業の資金調達方法

ステージ別に見るSaaS企業の資金調達方法

SaaS企業の調達手段はステージによって最適な組み合わせが異なります。プレシード〜シード、シリーズA、シリーズB以降の3段階に分けて、自社のフェーズに合った組み合わせを見ていきましょう。

SaaS企業向けの資金調達方法については以下の動画で紹介しています。

プレシード〜シード|J-KISS+公庫融資で始める

MRR100万円未満のプレシード〜シード期は、まだPMFに到達していないケースがほとんどです。ARRやNRRといった定量KPIで投資家を説得するのは難しく、「何を武器に資金を集めればいいのか」と悩む方も多いでしょう。

この段階で投資家が見るのは、KPIよりも以下の要素です。

  • 創業チームの経歴と当該領域での解像度
  • 狙う市場のTAM・SAMの規模感
  • 初期仮説を裏付けるプロダクトロードマップの具体性

こうした評価軸をふまえたうえで、活用しやすい調達手段がJ-KISS型新株予約権とエンジェル投資によるエクイティ調達です。J-KISSはバリュエーションの確定をシリーズAまで先送りできる仕組みで、一定額以上の資金調達(適格資金調達)が発生した際に自動で株式へ転換されます

チケットサイズは数百万〜2,000万円程度で、エンジェル投資家であれば1ヶ月程度で意思決定が進むことも珍しくありません。

J-KISSの仕組みは以下の動画でも解説しています。

エクイティと並行して検討したいのが、公庫の資本性ローンです。上限7,200万円・期限一括償還で、残存期間5年以上の残高は金融機関からみなし自己資本として扱われます。銀行融資の審査でも自己資本比率が改善するため、追加の借入がしやすくなる信用補完効果があります

「数字がないから調達できない」と考える必要はありません。エクイティとデットを正しく組み合わせれば、PMF前でも12〜18ヶ月分のランウェイを確保できます。

シリーズA|PMF達成後にVCのリード投資を軸にする

ARR1億円前後に到達し、月次チャーンレート2〜3%未満・NRR100%超といった水準をクリアしていれば、PMFの達成をデータで示せる段階です。シリーズAでは、この実績をもとにリードVCの獲得を軸に調達を進めましょう

リードVCはデューデリジェンス(DD)を主導し、投資条件を設計するとともに、他の投資家が参加を判断する際の基準にもなります。よくある構成はリード1社+フォロー投資家2〜3社で、フォロー側はリードの評価を見て出資を決めるケースがほとんどです。

KPIダッシュボードの整備がDD対策になる

DD対策として重要なのが、KPIダッシュボードの整備です。ARR・MRR・チャーン率・LTV/CAC・Rule of 40の月次推移をリアルタイムで可視化しておけば、投資家への説明資料の作成が効率化され、DDの進行もスムーズになります

「KPIは揃っているのに、どう見せればいいか分からない」と感じる方も多いかもしれません。3〜10億円規模の調達を目指すなら、数字を「持っている」だけでなく「いつでも開示できる状態」にしておくことが、リードVC獲得への最短ルートです。

VCの投資判断プロセスの詳細はこちらの記事もご覧ください。

シリーズB以降|RBF・ベンチャーデットも選択肢に入る

ARR3億円を超えるようなスケール段階では、エクイティ調達だけに頼ると希薄化の負担が大きくなります。ここで検討したいのが、RBF(レベニュー・ベースド・ファイナンシング)とベンチャーデットの併用です。

主な調達手段の特徴は以下のとおりです。

手段特徴希薄化適した用途
RBF月間売上の一定比率で返済。担保不要なし広告投資・採用費など短期回収
ベンチャーデットMRR成長率で融資判断少ない(新株予約権付き)IPO前のブリッジ資金
VCエクイティ大型調達が可能あり成長原資

それぞれ希薄化の度合いと適した用途が異なるため、単一の手段に頼らず組み合わせて設計することがポイントです。

三層構造で希薄化を最適化する

具体的には、エクイティ・デット・RBFの三層構造で資本政策を設計する方法があります。

エクイティで成長原資を確保し、RBFで短期の運転資金を賄い、ベンチャーデットでIPO前の滑走路を延ばす。こうした組み合わせにより、希薄化を抑えつつ調達リスクを分散できます。

デット・RBFの具体的な活用例については、以下の2本の動画が参考になります。

▼りそな銀行のスタートアップ向け融資の解説

▼りそな銀行×FivotのRBF型融資ファンド「Flex Capital」の紹介

SaaS企業のバリュエーション設計

SaaS企業のバリュエーション設計

SaaS企業のバリュエーションは、一般的なPER(利益倍率)ではなくPSR(売上高倍率)が基準になります。PSRの相場観はSaaSの種別や成長率によって大きく異なるため、「自社にはPSR何倍が妥当か」を把握しておくことが投資家との交渉では欠かせません

ここでは、PSRの基本的な算出方法と、AI×SaaSやバーティカルSaaSといった企業種別ごとのマルチプルの違いを解説します。

SaaS企業のバリュエーションはPSRで算出される

PSRの算出式は時価総額 ÷ 年間売上高(ARR)です。SaaS企業は先行投資で赤字が続くケースが多く、利益ベースのPERでは実態を評価しにくいため、売上高を基準にしたPSRが業界標準の指標として定着しています。

PSRの水準は成長率やSaaSの種別によって大きく変わります。高成長SaaSほどマルチプルは高くなりやすく、成長率が低い企業との間で評価に差が開く傾向があります。

具体的には、自社のARRにPSRを掛けるだけで概算の企業価値が出せます

  • ARR1億円 × PSR6倍 = 企業価値6億円
  • ARR3億円 × PSR6倍 = 企業価値18億円
  • ARR3億円 × PSR12倍(高成長)= 企業価値36億円

未上場SaaSの場合は、直近12か月の実績ARRではなくNTM(今後12か月の予測売上高)をベースに評価されることも多いため、売上成長の見通しを裏付けるパイプラインデータの準備も欠かせません。自社のARRと成長率から「PSR何倍が妥当か」を逆算しておきましょう。

AI×SaaSとバーティカルSaaSでマルチプルは大きく異なる

SaaS企業の種別によって、投資家が適用するマルチプルの水準は大きく変わります

「AI機能を搭載しているから高く評価されるはず」と考える方は多いでしょう。実際には、AIがコア機能かどうか、対象市場の広さ、成長率やNRRの水準によって評価は明確に分かれます。

SaaS企業の種別ごとのPSR目安は以下のとおりです。

SaaS種別PSRの目安特徴
AI-native SaaS15〜25xAIがプロダクトの中核。消費・成果ベース課金
ホリゾンタルSaaS8〜15xSlack・HubSpot型の汎用ツール
バーティカルSaaS5〜10x業界特化。低解約率と高利益率で評価

AI-native企業が高く評価される背景の一つに、消費・成果ベースの課金モデルへの移行があります。従来のシート課金と異なり、利用量に連動する課金はスケーラビリティが高く、ARRの伸びしろが大きいと見なされるからです。

ただし、注意すべき点もあります。AI機能を「追加した」だけではプレミアムは付きません。成長率・NRR・TAMなどの主要指標が揃うと高マルチプルが正当化されやすくなります。

自社がどの種別に該当し、どの水準が現実的かを見極めたうえで交渉に臨みましょう。

Hubble代表がAIエージェント時代のSaaS戦略を語ったインタビューは以下の動画で視聴できます。

海外投資家が日本のSaaS企業のポテンシャルについて語った動画はこちらです。

HENNGEがスタートアップに投資する理由については以下の動画で解説しています。

資金調達の際、調達手法の選定や条件の検討など、様々な場面で専門的な知識が求められます。十分な知識がないまま進めると、自社に最適な調達条件や進め方を見極めるのが難しいこともあるでしょう。

Gazelle Capitalが運営する「資金調達の窓口」は、年間1,000社以上の面談実績を持つ、あらゆる調達手法をサポートするサービスです。調達手法の選定などご相談いただけますので、ぜひご活用ください。

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SaaS企業の資金調達事例

SaaS企業の資金調達事例

実際の調達がどのように進むのか、国内SaaS企業2社の事例から確認していきましょう。HR Tech領域のROXXとAI×SaaSのHubbleを取り上げます。

ログラス|導入社数6倍の成長で累計100億円を調達

ログラスはクラウド経営管理システム「Loglass 経営管理」を提供するSaaS企業で、累計資金調達額は約100億円に達しています。シードからシリーズBまでの調達履歴を振り返ると、KPIの改善がバリュエーション引き上げに直結する典型例が見えてきます

ログラスは2020年7月にプロダクト提供と同時にシードラウンドで8,000万円を調達。2022年4月にシリーズAで17億円を確保し、2024年7月にはSequoia HeritageとALL STAR SAAS FUNDを共同リード投資家としたシリーズBで70億円を調達しています。

この急成長を支えたのが、シリーズA以降の導入社数6倍以上という拡大実績と、予実管理SaaS市場でのシェアNo.1獲得です。経営管理領域というエンタープライズ向け市場では顧客単価が高く、一度導入されると業務プロセスに深く組み込まれるため解約率が低い傾向にあります。投資家にとっては「ARRの積み上がりが予測しやすい」構造です。

また、シリーズBでは米国のSequoia HeritageやMITIMCo(マサチューセッツ工科大学の投資機関)など海外機関投資家も参画しており、国内SaaSとしてのKPI実績がグローバル投資家の評価にもつながった事例ともいえます。

Hubble|AI機能の統合でシリーズB累計23億円を調達

Hubbleは契約書管理SaaSとして創業し、2025年7月に生成AI機能「Contract Flow Agent」を正式ローンチしたことで事業フェーズが大きく転換しました。リリース後は20週連続で新機能を投入し、プロダクトの進化スピード自体が投資家への強力なシグナルとなっています。

シリーズBは3段階のクローズで構成されました。ファーストクローズで7億円、セカンドクローズまでに累計15億円、そして2025年10月の最終クローズで累計23億円に到達しています。投資家構成にはVertex Ventures SEAIやDNX Venturesといった海外・クロスボーダーVCが名を連ね、AI機能によるグローバル展開の可能性が評価されたことがうかがえます

調達資金の使途は生成AIの新機能開発と組織強化に集中しており、「AI投資が事業メトリクスを改善し、それがバリュエーション上昇につながる」という好循環を明確に示しています。前セクションで解説したAI-native SaaSへのマルチプルプレミアムが、Hubbleの調達規模にも反映されていると考えてよいでしょう。

Hubbleの成長についてより詳しく知りたい方は、以下の動画もご覧ください。

CFOの方にとっての示唆はシンプルです。AI機能の搭載そのものではなく、搭載後のプロダクト改善速度と顧客定着の実績が、投資家の評価を左右します。SaaS上場企業の投資方針はこちらの記事でお読みいただけます。

よくある質問

SaaS企業の資金調達では、「いつVCに相談すべきか」「ARRがいくらあればシリーズAに進めるのか」といった疑問がよく寄せられます。

AI時代のSaaS起業やベンチャー企業特有の調達ハードルも含めて、よくある質問に回答します。

Q. SaaSスタートアップはどのタイミングでVCに相談すべき?

プロダクトの構想段階でもVCへの相談は十分にできます。「KPIが揃っていないと相手にされないのでは」と感じる方も多いでしょう。しかし実際の初回面談では、トラクションの数値よりも市場仮説の深さやチーム構成が重視される傾向にあります。VCが確認するのは次の3点です。

観点確認内容
Team創業メンバーの経験・補完関係・実行力
Market狙う市場の規模感と成長仮説の説得力
Product競合に対する優位性や差別化の方向性

「準備が足りない」と感じて先延ばしにするより、早い段階で壁打ち相手を得るほうが事業の解像度は格段に上がります。Gazelle Capitalでもプレシード段階から無料・ノーコミットで相談を受け付けています。

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Q. SaaS企業のARRがいくらあればシリーズAを調達できる?

国内SaaS企業がシリーズAを調達する際のARR目安は、おおむね1億円前後が一つの基準です。ただし、ARRの絶対額だけでは投資判断は完結しません。VCが同時に注目する指標には以下のようなものがあります。

  • NRR 110%以上(理想的には120%以上)で既存顧客からの拡張収益を証明できるか
  • 月間チャーンレート2〜3%未満で顧客基盤が安定しているか
  • LTV/CAC比が3倍以上かつCAC回収が12ヶ月以内か

ARRが目安に届いていなくても、これらのKPIが優れていれば評価が上がるケースは珍しくありません。逆にARRが高くてもチャーンが大きければ、投資家の目は厳しくなるでしょう。

Q. AI時代にSaaS起業はもう遅い?

SaaS起業が「遅い」ということはありません。2024〜2025年にかけてPSRマルチプルの調整が進んだのは事実です。しかしこれはバリュエーションの正常化であり、月額課金によるストック型収益の強みが損なわれたわけではありません。

むしろ、AI機能を組み込んだSaaSに対して投資家の評価が再び高まっています。「SaaS is dead」という言説は、マルチプル調整の一面だけを切り取ったものに過ぎません。投資家が見ているのは「SaaSか否か」ではなく、「AIをどう活かして顧客の課題を解くか」という点でしょう。

Q. ベンチャー企業はなぜ資金調達が難しい?

ベンチャー企業全般に共通する課題は、事業実績が乏しく、将来のキャッシュフローを予測しにくい点にあります。金融機関の融資審査は不動産担保や過去の財務実績を重視する傾向が根強く、無形資産が中心のスタートアップとの間にミスマッチが生じやすい構造です。

こうした環境の中で、SaaS企業は相対的に有利なポジションにあります。月額課金モデルから生まれるMRR・ARRは、投資家にとって将来収益を見通すための「共通言語」として機能します

NRRが100%を超えていれば、既存顧客だけで売上が拡大していく成長力の証明になるでしょう。しかし、KPIの整備が不十分なままでは、せっかくの構造的優位性を活かしきれません。

まとめ

まとめ

SaaS企業の資金調達におけるKPI設計・ステージ別の調達手段・バリュエーションの考え方を解説してきました。要点を振り返ります。

  • SaaSの構造的強み(ストック型収益・高粗利率・ネガティブチャーン)はAI時代でも変わらない
  • VCが見る4大KPIはMRR/ARR・NRR・LTV/CAC・Rule of 40。NRRはバリュエーションとの相関が強い
  • ステージ別の調達設計ではシードがJ-KISS+公庫、シリーズAはリードVC、シリーズB以降はRBF・デットも活用
  • PSRでバリュエーションを逆算でき、SaaSの種別や成長率によってマルチプルの水準は異なる
  • AI機能の統合はマルチプルプレミアムにつながるが、成長率・NRR・TAMなどの主要指標が重要

今日から取り組めるアクションは以下の3つです。

アクション内容
KPIダッシュボードの整備ARR・MRR・NRR・チャーン率・LTV/CACの月次推移を可視化する
自社のPSRを逆算ARR × 想定PSR倍率で目標バリュエーションを算出する
VCへの壁打ちKPIの整理段階でも、専門家との対話が調達準備の精度を上げる

市場環境が変化する中でも、ARRやNRRといった指標を磨き込み、自社に合った資本政策を描くことが調達成功につながります

資金調達は、早い段階でプロに相談するほど選択肢が広がります。自社の状況を客観的に整理でき、タイミングを逃さず最適な手法を選びやすくなります。

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