2022年1月に「スタートアップ投資TV」内でスタートし、3年8カ月を迎えたシリーズ「スタートアップ融資相談室」。講師をスタートアップ向けの融資申請支援で多数の実績を持つINQ代表 若林氏、聞き手をGazelle Capitalの近藤が務め、デット調達のイロハと最新情報をお届けしてきました。多彩なゲストもお迎えしながら、激変するスタートアップのデット環境を追ってきたここまでの歩みを振り返り、若林氏と近藤が語り合いました。

若林 哲平
株式会社INQ 代表取締役 CEO

1980年東京都清瀬市生まれ、神奈川県相模原市出身。青山学院大学経営学部卒。
ベンチャー・スタートアップの融資支援の株式会社INQ代表取締役CEO。
VC・エンジェル投資家、起業家からスタートアップをご紹介頂き、融資による資金調達を累計1,300社・130億円超支援。東京都ASAC・NEXs TOKYOなどの自治体のアクセラレーションプログラムのメンターの他、複数のスタートアップの暫定CFO等を務める。趣味はお弁当づくり。4児の父。

近藤 絵水
Gazelle Capital株式会社
インベストメントチーム
プリンシパル

在学中にベンチャーキャピタリストの方と話した経験から、スタートアップやキャピタリスト業務に興味を持ち、 Gazelleやスタートアップ企業でのインターンを始める。 卒業後、顧客コミュニケーションサービスを提供する株式会社Micoに入社し、 カスタマーサクセス業務を遂行。
2021年7月からGazelle Capitalに1号社員として参画。 当社では、キャピタリスト業務を主軸に業務全般幅広く携わる。 家業が米穀商/農業であるため実業のDXに強い関心を持つ。

YouTube初心者2人、危なっかしかったシリーズの幕開け

――シリーズスタートから4年近く経ちました。初回の動画を今見ると、お2人とも本当にフレッシュですね。

若林:さっきメッセンジャーの履歴を見たら、最初に「融資相談室」関連のやり取りをしたのが2021年10月5日でした。

近藤:その時点からちょうど4年ですね(対談は2025年10月)。

若林:初回の撮影のとき、スタジオ近くのタリーズに近藤さんが迎えに来てくれたのを思い出します。あのとき社会人2年目かな? Gazelleに来て間もなくですよね。

近藤:覚えてます。私、コロナの真っただ中に社会人になったので、YouTubeどころか名刺交換にも慣れなくて……若林さん、不安になったでしょう?(笑)

若林:いや、僕自身もYouTubeは初めてで、緊張してました。実際、2人ともトチりまくりましたね(笑)。石橋さんとのメッセンジャーに「心配です」「大丈夫です、その初々しさが親しみやすさにつながりますから」なんてやり取りが残ってます。

――ドキドキのスタートだったんですね。若林さんと石橋さんはそもそもどこでつながったんですか?

若林:石橋さんがまだ前職にいた時期に、ビジネスマッチングアプリで出会ったのが最初だと思います。石橋さんは学生時代、NPO活動をされるなどオリジナリティを発揮していて、気になる存在だったんです。カフェで初めてお会いして、すごくシャープな印象でしたね。感度の高さにも刺激を受けました。

Gazelle Capitalを立ち上げられて間もなく、「スタートアップ投資TV」をスタートされたときも「さすがだな」と。国内では、VCが運営するYouTubeチャンネルの走りですよね。

僕から見たGazelleさんは、何よりメタ認知力の高さが抜きん出た存在です。「既存産業のDX」というタグラインの明確さも、YouTubeを使ったブランディング戦略も、VC界におけるGazelle Capitalの立ち位置を客観的に見据える視点から発しているんだろうなと。

近藤:「スタートアップ投資TV」の運営目的は、大きく二つあります。若林さんが触れてくださったVCとしてのブランディングと、もう一つは、誰でもアクセスできるYouTubeというメディアを通じた情報提供で、スタートアップエコシステム全体に寄与していくこと。「既存産業のDX」に取り組むプレイヤーは、首都圏だけでなく地方にも大勢います。狭いスタートアップ業界内の人脈を介して流れている情報は、地方で活動する方々にはどうしても伝わりづらい面があり、そうした情報格差を減らしていくためには、YouTubeがよいのではという発想でした。

――「融資相談室」立ち上げの背景も教えてください。VCの運営するチャンネル内に、融資にフォーカスしたシリーズがなぜあるのか、意外に思う方もいるかと思います。

近藤:当社はプレシード期やシード期のスタートアップに投資しています。最近は「創業融資は引いてます」とおっしゃる起業家さんも増えていますが、2022年当時はデットとエクイティの性質の違い、それぞれの出し手が重視する観点などもあまり知られていませんでした。

創業期のスタートアップにとっては、融資の活用で300万円でも400万円でも調達できれば、ランウェイを数カ月伸ばすことができ、事業の成功確率が高まります。投資家としてもリスクを抑えられますし、融資であれば株の希薄化も進みません。起業家の皆さんにはぜひ融資の基本を知ったうえで、可能性を広げる選択をしていただきたい思いがありました。

デットに詳しい専門家の力を借りるにあたり、一番に候補に挙がったのが若林さんです。スタートアップ業界の誰とお話ししても、誠実なお仕事ぶりが話題になる若林さんなら、まだ手探りでチャンネル運営していた私たちと一緒に歩んでくださるのではないかと、石橋からお声がけしました。

若林:僕は当時、起業家の皆さんにINQを知っていただくタッチポイントを増やすため、いろいろなメディアの活用にチャレンジしていました。ただ、YouTubeだけは自分で取り組むのは難しいなと考えていた矢先で。ほぼ二つ返事でお引き受けした記憶があります。

――近藤さんは、石橋さんからMCを任されてどんなお気持ちでした?

近藤:重荷でした……。撮影日が来るのが恐ろしく、「来ないでくれ」と念じてました(笑)。私、そもそも表に出るのが苦手なタイプなんです。

――それは意外ですね。

若林:ですよね。視聴者の方々にも近藤ファンが多くて、僕はジェラシーを感じるくらいですから(笑)。

真面目な話、キャピタリストになりたてのころから「融資相談室」でご一緒してきた僕としては、近藤さんの成長スピードには驚かされてます。もともとの朗らかさに加えて、最近は実務の経験値から来る落ち着きも備わってきて、さすが石橋さんが見込んだ人材だなと。

近藤:恐れ入ります。撮影中のNGはいまだに結構出してますが……。

若林:ゲスト出演回なんか、もはやそれをネタにしてますよね。「オープニング、近藤さんがトチるところから始まりますので」なんて。

近藤:ゲストの方にもリラックスして撮影に入っていただけるよう、裏でよくそんな会話を交わしてます。

「デットのイロハと最新情報が自動で身に付く」シリーズを目指して

――最近はゲストを迎えた回が増えている印象ですが、企画・運営はどのように進めていますか。

近藤:一貫して目指してきたのは、第1回から順に見ていただくだけで、スタートアップ向け融資の基礎知識と最新情報が得られるシリーズ構成です。立ち上げのご挨拶と若林さんのご紹介をした第1回に続き、第2回は「そもそも融資とは何か」から解説いただき、最初の1年はとにかく基礎的な情報を網羅することに取り組みました。

2年目からはタイミーCFOの八木さんをはじめ、スタートアップの優秀なCFOの皆さんをゲストにお招きし、視聴者の方々の先輩的な立ち位置で、より現場感のあるお話を伺う回も設けました。その後、銀行や金融公庫など融資の出し手にもおいでいただき、運営されている仕組みそのものから融資検討の観点、条件などをご紹介いただきました。

2025年の春以降は、これまでお伝えしてきた「融資のイロハ」を踏まえ、少し高度なコンテンツをお届けすることにチャレンジしています。これはチャンネル全体のリニューアルの一環でもあり、シリーズの初めから見続けてくださっている皆さんのために、入門編だけに留まらず、初級・中級レベルの学習ニーズにも応えたい思いもあります。

若林:制作に関しては、撮影・編集は外部のプロの力を借りていますが、その他の部分は台本作成なども含めて自分たちで手がけています。近藤さんから起業家の関心に沿ったテーマやお呼びしたいゲスト候補を挙げていただき、ラフな台本を頂いたうえで、私が仕上げるパターンが多いですが、ときには私からご提案することもあります。毎回キャッチボールを重ねながら、視聴者に響きそうなコンテンツへと練り上げます。

近藤:情報の網羅性や正確性については専門家の若林さんがしっかりカバーしてくださるので、私は視聴者目線で分かりやすさをキープできるよう意識しています。「今さら聞けない」と思われがちな前提部分をあえてお聞きしたり、「で、まずどうすれば?」「こんな場合は?」と素朴な疑問をぶつけたり。

ゲスト出演回などは、視聴者目線では気になるものの先方ははっきり答えづらい、若林さんには口にできないような質問を、私が知らずに地雷を踏みながら聞いていることもあります(笑)。

――「視聴者代表」かつキャピタリストである近藤さん自身にとって、特に勉強になった回はありますか。

近藤:融資を受けたいスタートアップのMRRのレンジ別に、おすすめのベンチャーデットを紹介した回がとりわけ印象に残っています。普段、投資先の起業家の皆さんとお話しする際も、一段踏み込んだアドバイスができるようになりました。あの回はもっと多くの皆さんに見ていただきたいなと思っています。

若林:撮影当時と比べると、ベンチャーデットの選択肢もだいぶ増えていますから、今度最新版をつくりましょうか。

ベンチャーデットに関しては、ここ数年でプレイヤーが一気に増え、前回2020年や2021年あたりで資金調達した方々から見ると、様変わりと言っていいと思います。IVSでも、ベンチャーデットをテーマにしたセッションが初登場したのが2022年で、その後はセッションの数も内容もどんどん進化しています。

――「融資相談室」の立ち上げ当時と比べると、スタートアップの融資をめぐる環境にはかなりの変化があったのですね。

若林:SaaSバブルの崩壊を受け、エクイティでの資金調達が厳しくなったのが2022年後半ごろからです。当初は駆け込み寺的にデットを使い始めるケースが多かった印象ですが、最近ではデットもエクイティと共に資本政策に織り込んで、上手に使い分ける起業家が出てきています。

近藤:市況感が低調な中、まだトラクションの規模が小さいスタートアップに対して、私たちも希望に沿う額のご投資ができないケースもあります。そんなとき、資本性ローンや保証協会付き融資を併せて活用することで、「エクイティと同額をデットで調達することを目指しましょう」といったオプションを提示できるかどうかは、大きな違いです。

最近はVC各社の中にも金融機関出身者が増えました。キャピタリストにとっても、スタートアップから選ばれ続けるためには、デットのリテラシー向上は欠かせない時代になっています。

学び満載!デット周りの多彩なキーパーソンを迎えたゲスト出演回

――若林さんにとって印象に残っている回は?

若林:ゲスト出演回はどれも僕自身、勉強になりましたし、起業家の皆さんに知っていただきたい、スタートアップ融資に関わるキーパーソンたちをご紹介でき、シリーズの価値も高まったと感じています。

業種柄、メディアへの露出が難しい銀行や日本政策金融公庫の方にも出演いただけたのは、今後のスタートアップ界のためにも意義があったかなと。YouTube内でも、スタートアップ融資にフォーカスしたチャンネルはなかなかない中、視聴者の皆さんのおかげで、このシリーズも一定のプレゼンスを獲得できました。

りそな銀行さんはIVSのブースでも「融資相談室」ご出演時の動画を活用されていましたね。Siiibo証券さんも、「融資相談室」がきっかけで同社のプラットフォームを活用した起業家さんが資金調達に成功されたとご連絡くださいました。

――4年継続してきたからこその成果が出てきましたね。

若林:INQの代表としては、「融資相談室」を始めてから、当社に相談に来てくださる起業家の皆さんは、すでにVCなどを通じてある程度融資の情報に触れている層であり、そうした機会のない起業家も少なくないことに気づかされました。

最近はいろいろなルートでご連絡いただけるようになりましたが、中でも「融資相談室」経由の方々は実際のご支援につながりやすく、ニーズの高い層にリーチできている実感があります。

先日はIVSの会場で起業家の方から声をかけていただき、「若林さんですよね? 『融資相談室』の初回から全部見てます。動画で学んだ通りに行動して、実際に融資いただけました」と言われまして、とても嬉しかったです。

近藤:それは理想の成果ですね……シリーズを続けてきて本当によかったです。

私自身もこうした機会を頂けたおかげで、若林さんはじめ専門家の皆さんから直接学び、スタートアップ融資の最新情報をキャッチアップできました。最近はイベントのMCや審査員として声をかけていただく機会も増え、YouTubeの力を感じています。

若林:YouTubeで発信することは、我ながら「とんでもないことやってるな」と今もふと思うのですが、情報は出した人のところに入ってくるんですよね。初心を忘れず、スタートアップ業界にさらに貢献できるシリーズに育てていきたいです。

「なるほど」で終わらない、実践的なコンテンツづくりにも挑戦したい

――今後の動画で新たにチャレンジしたいことはありますか。

近藤:スタートアップ融資を活用するために、一通り必要な知識を提供できたかなと思っていますので、これからはより実践的なスキルも身に付けられるシリーズにできればと考えています。見た方が「なるほど」で終わるのではなく、具体的なアクションを起こすことにつながればと。

たとえば、自社のPL/BSのどこを改善できるとよいのか、どんな観点で仕訳を見直すことができるかなど、各社のリアルに即して活用していただけるよう工夫してみたいです。

若林さんが普段、起業家の皆さんとの面談の際、頭の中でどんなプロセスを経て、どんなアドバイスをされているのか、実例ベースでご紹介するのはどうでしょう? 視聴者の皆さんも、自社のケースと照らし合わせながら演習ができて、面白くなりそうな気がします。

若林:これまでのご支援経験を踏まえ、スタートアップによく見られる事例をサンプルとして用意し、動画中に例題を解いていくような形でしょうか。僕が緊張しそうですが(笑)、確かにご参考になるかもしれません。

私の面談はまずはひたすらヒアリングさせていただくところから始まります。そもそものビジネスモデルやキャッシュフローの概要、予測に加え、これまでの融資経験、エクイティでの調達予定などなど、一通りお聞きしたうえで、プロットしたたくさんの点をつなぐようなイメージで、ベストと思われるプランをお話しします。

近藤:バーチャル面談、実現したいですね。変数としてどんなものがあり、どこが重要なのかをご紹介するだけでも、ニーズがありそうです。

若林:いくつかの例題を解いてみたうえで、学びとして得られたポイントをまとめてお伝えできるとよいかもしれません。その路線、ぜひ検討しましょう。

――新企画が生まれそうですね。最後に、視聴者の皆さんへのメッセージをお願いします。

若林:いつも「融資相談室」を見てくださる皆さん、特によちよち歩きのころから応援してくださった方々、本当にありがとうございます。この間、起業家の皆さんのデットに関するご知見がぐんと高まってきたのと同時に、資金の出し手側の方にもさまざまな変化がありました。

「融資相談室」は、今後も双方が互いの最新情報に触れ、情報の非対称性を埋めていただける架け橋であり続けたいと思いますので、ぜひご期待ください。

私自身にとってこのシリーズは、INQのミッション「興す人を、成す人に。」を具現化する一つの場でもあります。スタートアップの方々と融資等を実行する資金出し手のプレイヤーの方々、それぞれの時代に即したチャレンジを追い、分かりやすく伝えることで、少しでも後押しできればと願っています。

近藤:新たに起業を考えている方から奮闘中の方、さらにはスケールアップに挑んでいる方まで、幅広いフェーズの皆さんの「今、知りたい」に応えられるシリーズでありたいと思っています。皆さんには、取り上げるテーマに関しても見せ方に関しても、お気軽にご意見をお寄せいただけると嬉しいです。

私は起業家の皆さんの、まだ見ぬビジネスを生み出す圧倒的なパワーに惹かれ、学生時代からVCに関わってきました。社会を変え得るビジョンが途中でついえてしまわないよう、挑戦する人々にとって一番ハードルになりやすい「お金」の面から、私なりにサポートしたい思いが強くあります。

エクイティ、デットを問わず、まずは選択肢自体や仕組みを知っているかどうかが、活用可能なチャンスをつかむか逃すかの分かれ道になります。私たちと一緒に、少しずつキャッチアップしていきましょう。

若林:何気なく聞いていた情報の断片が、後々ふと頭に浮かび、会社の先行きを左右する大きな一手につながる――そんなことが起こり得るのも、YouTubeの面白さです。ぜひ忙しい業務の合い間に、僕たちのおしゃべりを聞きに来てください!

最新動画はこちら


※当コンテンツ公開後も情報の更新に努めていますが、最新の情報とは異なる場合があります。
※当コンテンツは、誤り等がないよう細心の注意を払っておりますが、不正確又は不完全な記載や誤植を含んでしまう場合もございます。その内容の正確性等に対して、一切保障するものではありません。
※当サイトに掲載された記事や資料を使用した場合に生じた損失並びに掲載された情報に基づいてなされた判断により発生したいかなるトラブル・損失・損害についても、一切の責任を負いません。リンク先の参照は各自の責任でお願い致します。
※そのほかは免責事項、当サイトの参考情報一覧をご確認ください。