スタートアップ支援に「正解」はない。だからこそ、どんな思いで、どんな問いを持って、誰と向き合うのかがすべてを決める。Gazelle Capitalの近藤絵水と大谷直之は、まったく異なるキャリアを経てキャピタリストという道を選んだ。学生時代の偶然の出会いからVCの世界に飛び込んだ近藤と、起業経験もあり、Apple JapanやBlueBottleCoffeeを経て投資の世界にたどり着いた大谷。ふたりはそれぞれの言葉で、異なるアプローチで、起業家と本気で向き合っている。
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偶然に導かれ、たどり着いたVCという場所
──まず、お二人がどのような経緯でキャピタリストになったのか教えてください。
近藤:私の場合は本当に偶然の連続でした。関西の大学に通っていた頃、アルバイト先の居酒屋にいらしたお客様との出会いがすべての始まりです。就職活動を控えた私に「VCという仕事があるんだよ」と教えてくださって。「VCって何ですか?」というところから始まったんです。

シリコンバレーの話やスタートアップのことも含めて、本当になにも知らない私にイチから丁寧に教えていただいて。その方の働き方や、スタートアップについて楽しそうに語られる姿がすごく輝いて見えたんです。
大谷:僕は近藤さんとはまったく違うルートですね。大学1年の時に石橋さんが立ち上げた途上国支援の学生団体に参加したのが、最初の彼との接点でした。その後、僕が全国代表を引き継いで、石橋さんと一緒にNPO法人化も進めました。同時期にApple Japanで6年半働きながら、並行して自分でハンバーガー店や畜産業の会社も立ち上げたり、BlueBottleCoffeeやB to Bの事業会社も経験したりしてきました。

石橋さんから「Gazelle Capitalに来ないか?」と話をもらった時、正直VCという仕事を知らなかったんです。でも話を聞いて、「やりたい」と思ったのは、自分が実行したことの成果がひとつで終わるのではなく、指数関数的に世の中に広がっていくような影響力がある仕事だと感じたからです。
近藤:大谷さんって本当にすごいですよね。大学生なのにAppleで働いて、飲食や畜産業で起業もして、NPOもやって、大学もちゃんと卒業して。同時並行でやられていることが多すぎて、外から見ると「大谷さんって何をやりたい人なの?」って思っちゃうくらい(笑)。
大谷:変な人に見えますよね(笑)。でも、実は意識的にいろんなことをやってきたんです。スティーブ・ジョブズがいう「コネクティング・ザ・ドッツ(Connecting the dots)」の話が大好きで。将来やりたいことを成し遂げるために必要なスキルを逆算してきました。
Appleでは人材育成のスキル、自分の会社では事業計画や法人運営、NPOではチームマネジメント。すべて将来に必要だと思いながら、挑戦してきたんです。
──お二人とも、かなり稀有なルートでVCになられていますね。
近藤:本当にご縁だったと思います。学生時代に留学していたのですが、コロナの影響で強制帰国になったんです。それで、就職活動の時期に、たまたまGazelle CapitalがX(旧Twitter)でインターンを募集しているのを見つけて。
大谷:僕は石橋さんとは12年来の知人ですが、実は私生活などで特別に親しかったわけでもなく、団体のことで定期的に連絡を取る程度の関係でした。
石橋さんからしたら、僕に声をかけてくれたのは必然だったのかも(笑)。スキル的にも、考え方的にも、一番わかってる範囲でGazelle Capitalにマッチする人として僕が浮かんだのかな、と。

投資家としての強みは「劣等感」、その理由は?
──現在のお二人の役割と、起業家支援での特徴を教えてください。
近藤:私はプリンシパルとして、投資検討、投資先支援など、幅広くキャピタリストの業務をしています。ただ、チームが小さいので、LP営業やイベント運営、事務作業なども含めて「なんでもやる」スタンスです。
大谷:僕はシニアキャピタリストとして、起業家さんとの面談や投資委員会、投資実行後の支援をメインにやっています。でも近藤さんが言う通り、少数のチームなのでそれ以外のことも全員で取り組む感じですね。
──起業家支援において、お二人それぞれの強みや特徴はどこにあると思いますか?
近藤:私の強みは“劣等感”かもしれません。VCに入りたくて先輩方に相談した時、ほぼ全員に「新卒でVCに行くのはやめたほうがいい」と言われたんです。事業経験がない状態で、即戦力になれるかというと「違うから」と。
でも、自分に足りない部分があるからこそ、その弱みを補完するために想像力を働かせたり、解像度を上げる努力をしたり、いろんな人の意見を聞いて咀嚼し直したりといったことを、意識的にやり続けています。

投資先の介護業界を理解するために、土日の時間を使って、介護のアルバイトをしたこともあります。利害関係がない状態で、現場の実態を知りたくて。
大谷:近藤さんの行動力って、凄まじいですよね。
僕は、これまでたくさんの組織を見てきた経験が活きているかもしれません。Appleでコーチというポジションを経験した際には、自分より2、3回り年上の超ベテランの方々に「あなたのキャリア、これからどうしましょうか?」と若造の自分から話す必要がありました。その時のコミュニケーションの学びが今も活きていますね。

近藤:大谷さんは組織の中で緩衝材のような役割をしてくれているなと思います。代表の石橋さんは起業家気質で事業が最優先なので、組織全体のあり方や、メンバー一人ひとりを丁寧にケアするところにまで目を向けきれないこともあります。
そんな時に大谷さんが間に入って、石橋さんの意図を正しく解釈し、適切に言語化して、他のメンバーにしっかりと言葉を届けてくれるんです。
大谷:褒めていただいて、ありがとうございます(笑)。僕自身は楽しく働きたいし、みんなにも楽しく働いてほしい。お互いにお願いしないといけないこともたくさんある中で、相手の考えを踏まえた上で、どうやって自分の行きたい方向に向かってもらうかというネゴシエーションは意識していますね。
「情熱と冷静さ」を持つ起業家に会いたい
──Gazelle Capitalでは、どれくらいの頻度で投資されているのでしょうか?

大谷:実際に投資するかどうかというと、正直かなり厳しい確率です。100人にお会いして、投資させていただけるのは1人くらいですね。
──やはり厳しい判断を日々されているんですね。ただ、Gazelle Capitalは創業期に特化したVCです。事業の成功確率については、まだかなり未知なフェーズのスタートアップが多いと思いますが、なにを基準にされているんですか?
大谷:人を見ています。起業って、すごく覚悟のいることだと思うんです。売上が立っているかどうかよりも、覚悟や熱量を高く感じられる起業家の方は、すごく魅力的に映ります。
ただ、やはり熱量だけで決めるわけにはいかないので、市場規模や事業モデル、解決しようとしている課題で困っている人が世の中にどれくらいいるのか……。クリティカルな要素として、「これがあればOK」というようなものは正直ないですね。これら全部がないと、という感じです。

近藤:私が一番心を動かされるのは、自分が直面した課題、つまりN=1の状態からスタートしていても、その課題解決に向けたチャレンジを、非常にロジカル、かつ熱意を持って俯瞰できている起業家の方です。「僕が困ってるから、みんなも困っているはず」という根拠をどれだけ冷静に丁寧に調べられているのか。なぜ、今までその課題が解決できていなくて、なぜ、今だったら、自分だったら解決できるのかを調べ尽くしているような人。
冷静で合理的な考えと熱意が合わさって出るアウトプットに向き合った時に、直感的にどう感じるかを大切にしています。
起業家に信頼されるVCであるために
──他にたくさんのVCがありますが、Gazelle Capitalらしさはどこにあると思いますか?
近藤:私たちは起業家の方にとって一番最初の窓口になることが多いので、「VCらしくない投資家」でいたいと思っています。初対面の方でもポジショントークなしにコミュニケーションできるような。
そもそも、この仕事って人と人とのコミュニケーションなので、VCと起業家である前に、ちゃんと人間として対等に向き合いたいと思っています。
大谷:起業家に対し、「投資するかどうかはこちらが決めますよ」と見定めるような高圧的なパワープレーって、最も頭を使わなくていい簡単な方法だと思うんです。
そんなことをやるために、この職業に就いたのか? 僕は自分の大切な時間を使っている以上、誇りを持って働きたいし、もし心のなかでそんなことを思っていたら、態度が自然と外に出るものだと思います。
僕たちは誰もえらくはない。投資させていただく立場でもあり、選ばれる立場でもある。お互いにフィフティ・フィフティの関係だということは、これからも絶対に忘れないでいたいですね。

近藤:創業期に投資をするので、投資先とのお付き合いは10年くらい続きます。長い時間軸の中で、事業の良し悪しも含めて、ちゃんとディスカッションできるような関係にならないと意味がない。
Exitした時に「Gazelle Capitalと一緒でよかった」と言ってもらえるような関係でいたいと思います。
──最近はスタートアップへの融資も過去と比べると広がっています。この潮流は、どう捉えていますか?
大谷:面談時に、売上ももうある程度ある方には「多分、融資が受けられるので、あまり僕たちと会うために時間を使うのはもったいないですよ」と正直に言っちゃいます。
もしかすると、Gazelle Capitalとしてはその時点で“損する”判断かもしれませんが、それでいいと思うんです。ちゃんと向き合ってくれる投資家のほうが信頼できますし、もしその先に企業が成長して、もっと拡大させたい時がきたら、また連絡してもらえればいい。
みんな対立構造を作るのが好きですが、僕はVCが必要なくて融資で調達できるならそれでいいと思います。資金調達か、融資か、自己資本でやり切るか……どの選択をしたとしても、最終的にそれぞれがやりたい事業を成し遂げることが正解です。
近藤:あくまでVCからの資金調達はひとつの手段ですよね。私たちとしては、投資をさせていただいたからには成功していただかないといけないので、そこに対する責任は持って向き合っていきます。
起業家の「圧倒的な支援者」として
──今後、どんな起業家に出会いたいですか?創業や初めての資金調達を考えている人にメッセージをください。
大谷:「立派な資料がなければ」「数字で根拠を示さなければ」とか不安に思うかもしれないんですが、最初の面談の時には、なにもなくてもいいぐらいです。そこから一緒に話して、僕から吸収できるものがあれば吸収していただいて、もしなければ他のVCさんと話したり、本を読んだり。とにかくなにかを成し遂げたいという思いに素直に忠実でいる方であれば、応援したいですね。
僕、社内の投資検討にあげるまでに多い方だと5回くらい面談することもあるんです。でも、そういう時間の使い方は、全然イヤじゃないし、楽しいです。
キャリアがキラキラで成功確率がすごく高そうな創業者も魅力的ですが、多分、僕が投資しなくても、他のVCが投資するじゃないですか。そうではない方々とゆっくり歩んでいくことができるのも、キャピタリストのおもしろさだと思います。
近藤:まず、起業したいと考えていること自体がすばらしいことです。多くの方は誰かの課題解決をしたいという純粋な思いを持っていらっしゃる。応援者として話を聞かせていただく機会があればうれしいです。
その人だからできること、その人にしかできないことがたくさんあると思うので、チャレンジする機会があれば、一つの手段として、私たちのことも見ていただきたいです。だから、まったく気負わずに連絡していただきたいですね。
大谷:起業ってキャリア形成の一つでしかないと思うんです。学生時代に一回起業して、うまくいかなかったら畳んで就職しちゃえばいい。もっと気軽に起業する人が増えてほしいですね。

──最後に、3年後、5年後のGazelle Capitalはどうありたいですか?
近藤:どんなステージになっても変わらず、今と変わらないスタンスでいたいですね。一人ひとりが投資家として、会社に帰属していますが、イチ投資家として果たすべき責任をまっとうできる。そういうスタンスで投資し続けたいです。
個人的には、「圧倒的な支援者」が近くにいるという感覚を感じていただけるような投資活動ができればと思っています。
大谷:やっぱり起業家に選ばれるVCでありたい。VCが増えている中で、お金には色がつけられないとしたら、起業家から「一緒にいてほしい」と思ってくれるかどうかが重要だと思うんです。チームとしては、それぞれがプロフェッショナルとしてキャラを立てながら、お互いに帰る場所はGazelle Capitalだよね、という一体感が保てるといいと思います。



